官公庁の契約手続きでは、契約の相手方を決める方法の中に、「入札」と「見積もり合わせ」があります。両方とも価格競争によって契約の相手方を選ぶので、「いったい、どこが違うの?」と疑問を持つかもしれません。概念的には「価格競争」という一面だけを捉えれば、たしかに同じです。しかし実際は、大きく異なります。
まず「一般競争入札」を理解する
官公庁が実施する入札には、「一般競争入札」と「指名競争入札」があります。(「せり売り」もありますが、利用する場面が少ないので、ここでは省略します。)
原則は一般競争入札です。一般競争入札は、希望する者全員が価格競争へ参加できます。公平性が一番確保された手続きです。
一方、契約の内容によっては、制限が必要になることがあります。工事契約のように一定の品質が求められる場合、豊富な工事実績を持つ会社を事前に(10社以上)選んで入札します。このように、誰でも参加できるわけではなく、官公庁側が選んだ会社だけが入札へ参加できるのが指名競争入札です。ただ指名競争入札は、手続きが法令で定められているので、一般競争入札と同じです。
つまり一般競争入札は、誰でも参加できます。指名競争入札は、官公庁側が選んだ会社(10社以上)のみが参加できるわけです。
そして、ここが一番重要な部分なのですが、一般競争入札や指名競争入札を実施する場合には、ひとつひとつの手続きが会計法令で厳格に定められていて、とても時間がかかってしまうのです。
契約内容を公開する「入札公告」でも、国の場合は10日以上掲載するよう法令で義務付けられています。国際入札に該当すれば50日以上公開しなければなりません。また、同等品を認める場合の技術審査なども1週間以上必要です。
手続きに時間を要する理由は、公平性・公正性を守るためです。手続きの途中で外部からクレームが入れば、入札を中止して最初からやり直さなければなりません。例えば、仕様書や入札説明書を読んだ会社の営業担当者が、「わが社に不利な内容になっている」、「ライバル会社が有利な内容になっている」と感じるようであれば、すぐに問い合わせが入ってくるのです。
入札という目的のために、価格競争を行う前提条件が平等でなければならないのです。そのために仕様書や入札説明書は、一字一句注意して作成しなければなりません。特定のメーカー・機種や、特定の会社のみが有利になるような条件は、極力排除して、誰が見ても公平な書類作りが求められるのです。
物品購入契約の仕様書の中では、特定のメーカーや機種を指定することは避け、やむを得ず機種指定する場合にも「同等品での入札も可能」としなければなりません。また、入札前に性能等に関して質問があった場合は、入札希望者全員へ同じように回答しなければならないのです。
特定の人だけが有利な情報を持つことは避けなければならないのです。つまり、みんなに平等にしなければなりません。
「誰でも参加できる」ということは、「どんな質問があるかわからない」というリスクが含まれているのです。実際に一般競争入札を実施すると、初めて参加する人も多く、どんな質問が出るかも予想できません。初歩的な質問だけでなく、意味不明な質問であっても、回答しないまま入札することはできないわけです。
一般競争入札は、「不特定多数」のリスクがあるわけです。しかも、契約書を取り交わすまでに、通常、2か月かかります。契約までに2か月待たなければならないのです。
「見積もり合わせ」は業務を効率化できる
一方、「見積もり合わせ」は、3社の見積書を比較するだけです。
過去の取り引き実績などから、官公庁側が信頼できる会社を3社選び、その3社だけで価格競争を行います。
3社での価格競争になるので、入札に比較して、競争力は弱まります。しかし業務の効率化という観点では、圧倒的なメリットがあります。すぐに契約の相手方を選定でき、契約できるのです。1週間から2週間程度で契約できるのです。
「一般競争入札」では2か月ほどかかる手続き期間が、「見積もり合わせ」なら1週間ほどで終わります。
なぜ、これほどまでに手続きの期間が短縮できるかというと、主に次の点がメリットになっています。
「見積もり合わせ」のメリット
〇信頼できる会社のみなので、質問を気にせず、簡単に仕様書を作成できる
〇入札公告や、同等品の技術審査などが不要
〇ほぼ自由に契約手続きを進められる。(入札公告などの法令による制約がない)
実務を担当している感覚からすれば、「見積もり合わせ」は、自由に、簡単に、契約手続きを進められます。だいたい1週間で契約できるので、業務の効率性は圧倒的に早いです。
「一般競争入札」と「見積もり合わせ」の違い
上述したように、誰もが参加できる「一般競争入札」と、信頼できる会社3社のみによる「見積もり合わせ」では、競争参加者が大きく異なります。
競争参加者が予想できない契約手続きでは、当然ながら、適正な履行を確保するために、細かい(透明性のある、公平・公正な)仕様書が必要になります。この仕様書を作成するのに時間がかかります。そして、仕様書に基づいて作成する予定価格も、同じように時間がかかってしまうのです。
「一般競争入札」の「入札と開札」自体は、すぐに終わります。30分くらいの作業です。(なぜか、電子入札を導入して効率的になったという人がいますが、そもそも簡単な作業なので効率化には関係ないと思いますが・・)一番時間がかかるのは、仕様書と予定価格の作成です。透明性の高い、公平・公正な仕様書を作るとなると、一か月以上は必要です。
一般競争入札は、参加者が予想できない(不特定多数)ために仕様書(予定価格)を丁寧に作成しなければならないのです。
一方の「見積もり合わせ」は、最初から信頼できる(官公庁側の意向・・書類の作成方法など・・を十分理解している)会社を3社だけ選びます。仕様書を細かく作らなくても、官公庁側の意向を理解した契約の履行が可能なわけです。簡単な仕様書(1日あれば作れてしまいます。)で、3社へ見積書の提出を依頼するだけです。入札公告も入札・開札も不要です。手続きが圧倒的に効率化できるわけです。
契約方式の原則である「一般競争入札」の例外として、業務の効率化のために、「見積もり合わせ」による少額随意契約が法令で認められています。
ただ「見積もり合わせ」の弱点として、「価格競争力が弱い」といわれることがありますが、実際には適正価格を見積る「予定価格」を官公庁側が作成します。予定価格以内で契約するので、適正な契約金額です。「入札に比較して高い」と批判する人たちは実務を知らないだけです。
つまり、「一般競争入札」と「見積もり合わせ」の違いを簡単に整理すると次のようになります。
「一般競争入札」は、不特定多数の者が参加し、手続きが厳格に法令で定められているので、仕様書や予定価格の書類作成に時間がかかる。(契約までに2か月ほど)
「見積もり合わせ」は、信頼できる3社のみで価格競争するだけなので、手続きが簡単。(契約までに1週間ほど)
手続きの差としては、仕様書や予定価格の作成、同等品に対する技術審査などに要する時間が、大きく異なる部分です。
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