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随意契約

競争性と緊急性の判断方法、適用がむずかしい随意契約の根拠法令

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随意契約
イギリス ロンドン
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随意契約の中には「競争性がない随意契約」と「緊急性に基づく随意契約」があります。競争性の判断は、複数の販売店があり、「見積もり合わせ」が可能であれば、「競争性がある」と判断します。判断がむずかしいのは「競争性がない随意契約」です。また稀な例ですが、「緊急性に基づく随意契約」もあります。

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「競争性がない随意契約」の根拠法令、予決令 102 – 4 – 3

 

官公庁の契約手続きは、すべて会計法令に基づきます 。国の場合は会計法と予算決算及び会計令(予決令)を中心とし、地方自治体の場合は地方自治法と各条例に基づく手続きになります。さまざまな法令や規則、通知に基づいて書類手続きを進めます。法令やルールに基づくことは、契約実務担当者の恣意的な判断を排除し、国民の貴重な税金を適正に使用するために必須のことです。

 

契約実務担当者にとって、「予決令 102 – 4 – 3 (よけつれい ひゃくにのよんのさん)」という条文は、「競争性がない随意契約」を意味します。契約方式の例外に該当し、適用する際には十分に注意が必要です。(地方自治体の場合は、地方自治法施行令第百六十七条の二です。)

 

契約方式とは、官公庁が「契約の相手方を選ぶ方法」のことです。一般競争入札、指名競争入札、随意契約の3つが契約方式です。

 

国の場合、「予算決算及び会計令」を省略して、予決令(よけつれい)といいます。特に「競争性がない随意契約」の根拠法令である条文を省略して、単に 102 – 4 – 3 (ひゃくにのよんのさん)と表現することが多いです。そのため「ひゃくにのよんのさん」という言葉を聞くと、(お、こいつ、なかなかできるな。契約実務を長く経験している)と感じます。「102 – 4 – 3」は、いわゆる契約実務担当者の業界用語です。契約手続きの中で、適用する判断が、最もむずかしい条文になります。

 

ここで「競争性がない随意契約」の根拠法令を確認します。国の場合は「予算決算及び会計令」、地方自治体は地方自治法施行令です。正式には次の表記になります。

 

「競争性がない随意契約」の根拠法令

 

会計法 第二十九条の三 第四項、予算決算及び会計令 第百二条の四 第三号に基づく随意契約

 

地方自治法 第二百三十四条 第ニ項、地方自治法施行令 第百六十七条の二 第一項 第ニ号に基づく随意契約

 

 

それぞれの条文を見てみましょう。

 

会計法

第二十九条の三 (略)契約担当官等(略)は、売買、貸借、請負その他の契約を締結する場合においては、第三項及び第四項に規定する場合を除き、公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならない。

④ 契約の性質又は目的が競争を許さない場合(略)においては、政令の定めるところにより、随意契約によるものとする。

 

予算決算及び会計令

第百二条の四 各省各庁の長は、契約担当官等が(略)随意契約によろうとする場合においては、あらかじめ、財務大臣に協議しなければならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。

三 契約の性質若しくは目的が競争を許さない場合(略)において、随意契約によろうとするとき。

 

国の場合はこの条文が、競争性がない随意契約の根拠法令です。

 

地方自治法

第二百三十四条 売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。

2 前項の(略)随意契約(略)は、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。

 

地方自治法施行令

第百六十七条の二 地方自治法第二百三十四条第二項の規定により随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。

二 不動産の買入れ又は借入れ、普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。

 

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競争を許さない場合、競争入札に適しない場合

 

上記の条文を詳しく見てみましょう。

 

予算決算及び会計令では、「・・ 契約の性質若しくは目的が競争を許さない場合 ・・」、地方自治法施行令では、「・・ その性質又は目的が競争入札に適しないもの ・・」に該当すれば「競争性がない随意契約」が可能です。

 

典型的な例は、販売店が1社しか存在せず、その会社としか契約ができない状態です。契約の相手方が1社に限定される場合です。特殊な研究用機器のメーカーが世界中でひとつしか存在せず、さらに代理店などの販売店がなく、そのメーカーから直接購入する以外に契約できない場合です。製品がひとつしか存在せず、かつ、契約できる販売会社もひとつだけのケースです。

 

これは極めて稀なケースです。特定の機種でメーカーがひとつでも、販売店が複数ある場合は該当しません。例えば、市販品のテレビやパソコンなどは、特定メーカーの特定の機種を指定しても、代理店や販売店が多数存在します。契約できる販売店が複数存在するので競争性があり、「競争性がない随意契約」に は該当しません。

 

「競争性がない随意契約」は例外の手続きです。「競争性がない」ことがわかる理由書と証明書類が必須です。「随意契約理由書」として、「競争性がない」と判断した経緯を記載して作成します。

 

なお地方自治体では、この他に新商品の生産により新たな事業分野の開拓を図る者との契約なども随意契約です。国の法令よりも広い範囲で、地域独自の政策を目的としています。

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地域ごとに販売店が一社の場合は「競争性がない」?

 

「競争性」の有無を判断するときに、契約実務で迷うことがあります。競争性がないと判断するための販売店の地理的範囲です。

 

「販売店が一社しか存在しない」と判断しようとするときに、次のケースは該当するでしょうか?

 

特殊な製品で、メーカーは1社しかありません。そのメーカーは、自社では直接販売せずに、地域ごとに専門の代理店を設けています。製品のアフターサービス(修理や保守など)に独自の高い技術を必要とするので、東京地区とか茨城地区とか、地域を限定して代理店を設置しているケースです。製品の最新性能を保つために、技術研修を定期的に開催し、一定の地域ごとに分けています。

 

もしメーカーも直接販売するのであれば、メーカーと代理店の間で競争が可能です。契約できる相手方が複数存在するのであれば、競争性がないと判断することはできません。メーカーは直接販売せずに、地域ごとに代理店を設置し、販売をそれぞれに任せている場合はどうでしょうか?

 

地域の範囲を明確にして代理店を1社のみに設定している場合、「競争性がない」と判断できるでしょうか?

 

地域内では、販売店は1社に限定されます。しかし他の地域には販売店があります。日本全体を見れば販売店が多数存在します。この場合、「競争性があるか」、「競争性がないか」、どう考えるのが正しいでしょうか?

 

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競争性の判断は、通常の営業の範囲内で考える

 

東京地区と埼玉、千葉、茨城、神奈川などの近隣地区は、一般的に同じ営業地域です。営業地域内に、複数の代理店が存在するのであれば、「競争性がない」と判断できません。同じ営業地域に契約できる会社が複数存在するので、「競争性がある」と判断します。

 

例えば、茨城県にある会社の営業担当者が、東京都内へ営業に出向くのは、それほど困難ではありません。日帰り可能な営業範囲です。実際に多くの日帰り営業が行われています。

 

しかし営業地域の範囲が、例えば関東地区とか、東日本地区など、相当に広い範囲であればどうでしょう?

 

通常、多額の交通費をかけてまで、営業に出向かないと考えられます。入札手続きを実施しても、多額の交通費がかかる遠方の代理店は参加しないと判断できます。広い範囲で地域が指定されており、その中では1社しか契約の相手方が存在しなければ、「競争性がない」と判断できます。関東地区とか、東日本地区などの広い範囲で1社であれば、競争性がないと考えられます。

 

営業地域を確認する方法は、メーカーから販売店一覧表を提出してもらい、電話で契約可能な地域を確認します。電話照会の内容は必ずメモとして残します。「競争性がない」と判断した選定理由書の根拠資料になります。販売店一覧表の中から、近隣の3社くらいに電話して、営業範囲外でも契約可能か確認します。3社すべてが「営業範囲外なので契約できない」との回答であれぱ、「競争性がない」と考えることができます。

 

しかし実務上は、「競争性がない随意契約」は、極力避けるべきです。なぜなら、競争性がないという事実を 100 %完全に示す書類を集めるのは困難だからです。例えば、上述の例で、近隣3社は「営業範囲外」と答えたとしても、もしかしたら地方の会社で契約できる会社があるかもしれません。可能性がゼロではないのです。そのため、「おそらく一社しか契約できないだろう」と予想されても、あえて入札公告を公開し、競争の機会を確保した一般競争入札を実施する方が多いです。結果として入札参加者が1社になったとしても、広く競争の機会を確保した一般競争入札の方が、手続きを批判されるリスクがなく安全だからです。

 

事前に競争の機会を排除してしまう「競争性がない随意契約」よりも、結果論としての1社入札の方が、公平で公正な手続きです。特に近年は、随意契約は悪いことのような社会風潮があります。「競争性がない」と判断して随意契約し、後で「十分に販売店を調査していない」と批判されるよりも、手続きが大変な一般競争入札にしてしまうケースが多いです。

 

実務上注意したいのは、「競争性がない」という判断は、契約実務担当者ひとりで行わないことです。競争性がない随意契約を締結するときは、事前に上司へ必ず相談しましょう。多くの人が、競争性がないと判断できないなら、一般競争入札にすべきです。契約方式の原則に立ち返りましょう。

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緊急性による随意契約の判断

 

随意契約の中には、競争性の有無以外にも、緊急性に基づく随意契約があります。根拠法令を確認します。(上述した法令と同じものです。読みやすいように再掲します。)

 

予算決算及び会計令

第百二条の四 各省各庁の長は、契約担当官等が(略)随意契約によろうとする場合においては、あらかじめ、財務大臣に協議しなければならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。

三 (略)緊急の必要により競争に付することができない場合において、随意契約によろうとするとき。

 

地方自治法施行令

第百六十七条の二
五 緊急の必要により競争入札に付することができないとき。

 

例えば、次のような場合に「緊急の必要」と判断して随意契約できるでしょうか?

 

上司から「早く買え」と命令されたときに、上記の条文を適用できるでしょうか?

 

著名な教授から、「重要な研究なので、すぐに欲しい」と言われたら適用できるでしょうか?

 

「早く欲しい」という理由だけでは、「緊急の必要」と判断できません。「緊急の必要」とは、人命に係わるような緊急の場合です。典型的な例は自然災害です。大地震や台風、暴風雨、河川の氾濫などで、緊急に工事が必要な場合、食料などの物資が緊急に必要な場合、人の命を助ける場合、家などの財産を守る場合などです。国民の命や財産を守るために、すぐに契約しなければならないときです。

 

「入札手続きが面倒だし、すぐに買いたい」という理由は認められません。(外部から見れば、無計画と見做されるだけです。)

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競争性や緊急性を証明する書類

 

一般競争入札を実施せずに、「競争性がない随意契約」や「緊急性に基づく随意契約」を締結するときは、対外的に説明責任を果たすための「理由書」と「証明書類」が必要です。会計検査院による実地検査や、外部からの監査、情報公開請求などの際に、随意契約をせざるを得ないと判断した理由や根拠書類を開示しなければなりません。

 

随意契約理由書、機種選定理由書、業者選定理由書などを作成し、判断に至るまでの経緯を書類として保存します。判断の基になった根拠資料も一緒に保存しておきます。

 

根拠資料として主に使われるものは次のとおりです。

 

「競争性がない随意契約」

契約できる相手方が1社であることを証明する書類
特許権、著作権などの独占販売を証明する書類、代理店証明書、販売店一覧表

 

「緊急性に基づく随意契約」

人命や財産が脅かされていることを証明する書類
マスコミなどの報道資料、台風や暴風雨などの被害報道の資料

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