電子入札やオープンカウンター方式の見積もり合わせは、真の意味で公平とはいえません。価格競争だけで相手方を選んでしまうと、一部の大企業のみが契約を独占できてしまうからです。昔の紙ベースの「見積もり合わせ」こそが、公平な契約手続きです。
官公庁における公平性は、競争だけを意味するものではない
官公庁は税金で運営しています。貴重な税金を国民から強制的に集めているので、使うときは公平でなければなりません。「公平性」は、いろいろな考え方がありますが、「誰でも平等に扱われる」ことを意味します。例えば官公庁が実施する一般競争入札であれば、参加したい企業が自由に参加できることを意味します。特定の民間企業だけが入札へ参加できるようであれば不公平です。誰もが情報を知ることができる、開かれた手続きが官公庁に求められるのです。
一般競争入札のように、「誰でも参加できる」という公平性はとても重要です。しかし、参加できるだけで、毎回競争に破れて落札できず、結果的に官公庁と契約できない状況が続くとすれば、本当に公平であると言えるでしょうか?
例えば、一般競争入札で価格競争を行ったとします。価格競争であれば、大きな資本を持つ大企業が有利なことは間違いありません。入札の結果、一部の大企業のみが官公庁と契約できる状況が常態化しても、ほんとに公平といえるのでしょうか?
国民の税金が、一部の大企業のみへ流れてしまうのです。
自由に利益を追求する資本主義社会では、市場原理に基づく自由競争が原則です。ライバルに打ち勝つために手段を選ばない弱肉強食の世界です。自らの努力で獲得した利益だけを使う民間企業が実施する入札であれば、完全な価格競争で問題ないでしょう。特定の大企業や顔なじみの会社が毎回落札したとしても、国民の税金を使っていなければ、どのように契約の相手方を選ぼうが自由です。
民間企業同士の取り引きでは、公平性が問題になることはありません。自分で稼いだお金を、どう使おうが、民間企業では自由です。民間企業同士の取り引きでは、競争の結果、中小企業が負けても良いのです。(もっとも、民間企業同志の契約では、入札を行うことも少ないでしょう。仲の良い、信頼できる顔見知りの会社を取引先に選ぶ方が多いはずです。)
しかし官公庁は、大企業も中小企業も関係なく、国民全員から税金を徴収しています。税金は、本人の意思に関係なく、強制的に取られてしまいます。そのため税金を使うときも、国民全体のためでなければならないのです。一部の人の利益のためだけに税金を使うことは許されません。
本来、官公庁の役割は、弱肉強食の世界でも弱者を守ることであり、強い者だけを優遇することではありません。大企業のみを優先し、中小企業を見捨てるのは、官公庁の役割として根本的に間違っています。官公庁は、むしろ弱い立場の中小企業を守るべきなのです。立場の弱い者を助ける政策こそが、行政の本来の役割です。
個人事業主や中小企業など、立場の弱い人たちを無視して価格競争のみを行うのであれば、行政が必要といえるのでしょうか?電子入札やオープンカウンター方式、公開見積もり合わせなどによる価格競争は、大企業のみを有利にするための不公平な制度なのです。「誰でも参加できる」ということは、一部の企業のみが独占できてしまうのです。
つまり官公庁の契約実務担当者は、価格競争ばかりを重視すると、結果的に間違った政策を実施してしまうのです。一部の大企業だけの受注を増やし、個人事業主や中小企業を無視する結果になるのです。
電子入札やオープンカウンター方式の問題点
2010年頃から、さまざまな官公庁で電子入札や電子調達、オープンカウンター方式の見積もり合わせが実施されるようになりました。いずれも Web 上へ調達情報を公開し、不特定多数による価格競争で契約の相手方を決定するものです。
WEB上で安い金額を提示できた会社のみが契約を獲得します。誰でも参加できるので、必然的に一部の企業のみが契約を独占できてしまうシステムです。
価格競争になれば、個人事業主や中小企業は、大企業に太刀打ちできません。結果的に、中小企業などは官公庁の契約から締め出されてしまい、税金が特定の大企業のみへ流れるようになってしまうのです。
入札への参加機会が確保されているとしても、いつも競争に負けてしまい、官公庁と契約できないシステムでは、真に公平とはいえないのです。個人事業主や中小企業が、実際に受注できるシステムでないと公平ではありません。
契約を公平にできる3社による「見積もり合わせ」
電子入札やオープンカウンター方式が始まった2010年以前は、一定金額以上の高額な契約のみが一般競争入札の対象でした。一般競争入札に該当する場合のみ、入札公告をWEB上へ公開し、紙の入札書による価格競争を行っていたのです。大規模な契約のみが、完全な価格競争である入札の対象だったので、年間の件数もそれほど多くありませんでした。
ほとんどの契約は金額が小さく、契約担当者の公平な判断で、個人事業主や中小企業と契約していたのです。落札件数の多い企業を除外し、中小企業のみで見積もり合わせを行い、契約の少ない会社を優先していたのです。
昔の官公庁の契約担当者は、受注企業のバランスを常に意識していました。大きな入札で落札した企業を除いて、受注の少ない個人事業主や中小企業のみで見積もり合わせを実施していたのです。国民の税金が公平に使われるよう常に配慮していたのです。
現在のWEB上で行うオープンカウンター方式による見積もり合わせは、一般競争入札と同じように、誰でも参加できます。これでは特定の企業のみへ契約が偏ってしまうのです。価格競争に勝っているからといって、受注が特定の民間企業へ集中するのは公平ではありません。
昔の紙ベースの入札では、大きい契約だけを一般競争入札とし、小さい契約は受注の少ない企業同士で見積もり合わせを行い、全体としての受注バランスを取っていたのです。国民の貴重な税金が、特定の民間企業のみへ流れることのないよう契約していたのです。
当然ながら、自社の利益しか考えない怪しい企業や、贈収賄を匂わせるような言動のある企業は、紙ベースの「見積もり合わせ」では、完全に排除できていたのです。
「国民の税金を使う」ということ、「公平に契約の相手方を選ぶ」ことを常に契約担当者は意識していたのです。「特定の企業のみを有利に扱わない」ことを、紙ベースの「見積もり合わせ」で実践していたのです。
今なら電子入札をやめることができる、税金の無駄遣いをやめよう
「特定の企業のみへ税金が流れる」という不公平をなくし、契約の相手方として個人事業主や中小企業をバランスよく選ぶ、という考え方が崩れ始めたのは、電子入札や電子調達が普及し始めてからです。
電子入札などの導入は、政府の誤ったデジタル化政策によるものです。政府部門のデジタル化が遅れていることから、現場の必要性を十分に検討することなく、あらゆる業務をデジタル化してしまったのです。
実際の入札は、契約手続きの中で、ごく一部の負担に過ぎません。電子化されたとしても業務の効率化にはなっていません。電子入札へ参加する企業側から見ても、システムごとに様々なマニュアルを理解しなければならず、さらに有料の公的個人認証サービスの利用義務付けなどで、年間の維持経費も大変です。
特に重大な問題点は、電子入札を導入してしまうと、永遠にシステム保守費を特定のIT企業へ払い続けなければなりません。電子入札も電子調達も、導入経費だけでなく、保守経費として莫大な税金を毎年払い続けるのです。またシステムを動かすためのマニュアルを覚えるだけでも、かなり大変な状況です。
入札会場へ出向かなくても、会社から入札できるというメリットは、電子入札による膨大なデメリット(事務負担や経費負担)に比べれば、ほとんど意味がないでしょう。
また電子入札では、談合事件や贈収賄事件を防げません。談合は、そもそも入札の前段階で起こるものです。むしろ紙ベースの入札の方が、入札会場で顔を見て入札するので、談合の抑止力は強いでしょう。贈収賄事件も、電子入札とは関係なく発生します。つまり電子入札のメリットは、電子入札システムを開発している「一部のIT企業だけを永遠に儲けさせる」だけなのです。「公平さ」とは真逆のシステムといえます。
不公平な電子入札や電子調達は、すぐにやめるべきです。今(2023年)なら、まだ引き返せます。正しい考え方を持ち、公平な契約を行い、税金の無駄遣いをなくしましょう。
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