海外で開催したシンポジウムでの講演料を支払うときの源泉徴収についての解説です。日本に住む居住者へ講演料を支払うときに、源泉徴収するか迷うことがあります。海外で開催する講演料が国内源泉所得に含まれるのか、居住者と非居住者の違いについてです。
謝金を払うと、源泉徴収で赤字になることも
海外で国際シンポジウムを開催するときに、日本在住の教授へ講演を依頼し、講演謝金と外国旅費を一緒に支払うケースがあります。このときに注意したいのが所得税の源泉徴収です。講演謝金と、飛行機代、日当、宿泊料などの旅費を一緒に本人へ支払う場合は、合計額に対して所得税の源泉徴収が必要です。
国税庁のタックスアンサーから抜粋(2018.11)
No.2795 原稿料や講演料等を支払ったとき
大学教授などに講演料を支払うときは、報酬・料金等として所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければなりません。
(2) 旅費や宿泊費などの支払も原則的には報酬・料金等に含まれます。しかし、通常必要な範囲の金額で、報酬・料金等の支払者が直接ホテルや旅行会社等に支払った場合は、報酬・料金等に含めなくてもよいことになっています。
税額の計算式
支払金額(A) 100 万円以下 A × 10.21%
支払金額(A) 100 万円超 ( A – 100 万円) × 20.42 % + 102,100 円
No.2795 原稿料や講演料等を支払ったとき|国税庁
注意したい点は、飛行機代などの旅費部分が源泉徴収の対象になってしまうところです。つまり旅費が不足してしまうことがあります。
具体例で説明します。
海外での講演謝金 6万円
日本から海外への往復飛行機代 80万円
海外での日当・宿泊料 20万円
支払額合計 106万円(うち旅費100万円)
上記のようなケースで、講演謝金と旅費を区分して計算し支払う場合でも、本人に対して謝金と旅費を支払うときは、合計額が「報酬・料金等」に該当し、ます。源泉徴収の対象になります。
上記の場合は合計額 106 万円に対して、 114,352 円が下記のとおり源泉徴収として天引きされます。本人の手取りは 945,648 円になってしまいます。100万円の旅費部分にも所得税が課税され、手取り金額が11万円分少なくなってしまいます。もし旅費部分が、実費に近い金額であれば完全に損してしまいます。
114,352 円 = ( 106 – 100 万円) × 20.42 % + 102,100円
国内源泉所得の対象範囲とは
謝金を支払うと、往復の飛行機代や日当・宿泊料などの旅費部分にまで源泉徴収税額が課税されてしまい、本人が損をしてしまうのです。ただし往復の飛行機代や宿泊費を、直接旅行会社やホテルへ支払うのであれば所得税は徴収されません。本人へ支払わなければ源泉徴収が不要になります。
海外で開催する国際シンポジウムに招聘する講師に対して、お礼の意味で謝金を支払おうとすると損をさせてしまいます。いわゆる恩を仇で返す(少し意味が違いますが)ことになってしまいます。
参考に所得税法で勘違いしやすい部分を解説します。
国内源泉所得の対象範囲は、日本に住んでいる居住者の場合は、海外で行った活動も源泉徴収の対象です。
所得税法
(源泉徴収義務)
第二百四条 居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
上記条文で、国内においてという言葉は、次の支払をする者にかかります。つまり海外で実施する講演に対して、国内で謝金の支払をする者は源泉徴収の義務があります。勘違いしてしまうのは、国内において、と記載してあるので、海外で開催する講演は対象外と間違えてしまうところです。
簡単にいうと、日本に住んでいる居住者は、講演の場所が国内でも国外でも源泉徴収の対象ということです。
なお税金の判断は税務署により異なります。判断に迷ったときは、必ず、最寄りの税務署へ問合せましょう。なるべく具体例で質問します。質問内容が曖昧だと違う回答になってしまいます。税務署は丁寧に教えてくれます。そして聞いたことは必ずメモして支払書類に添付しておきます。(税務調査の際に役に立ちます。)
国内源泉所得を正しく理解
国内で日本人へ謝金を支払う場合は、海外で開催する講演料についても源泉徴収の対象になります。謝金を支払うときに多額の旅費が伴うと、かえって相手に迷惑をかけてしまうので注意しましょう。日本の居住者へ支払うときは、国内も国外も講演謝金は課税対象です。非居住者と外国法人については、日本国内で講演した場合のみが国内源泉所得になります。海外在住の非居住者が海外で講演するなら、外国送金で謝金と旅費を支払うときに源泉徴収は必要ないです。
国税庁のタックスアンサーから抜粋
No.2878 国内源泉所得の範囲(平成29年分以降)
居住者については、原則として、日本国内はもちろん国外において稼得した所得も課税対象とされますが、非居住者及び外国法人については、日本国内で稼得した「国内源泉所得」のみが課税対象とされます。
No.2878 国内源泉所得の範囲(平成29年分以降)|国税庁
所得税の居住者と非居住者とは
居住者は、日本に1年以上住んでいる人です。それ以外は非居住者です。逆に、海外で1年以上住んでいれば非居住者です。
国税庁のタックスアンサーから抜粋
No.2875 居住者と非居住者の区分
我が国の所得税法では、「居住者」とは、国内に「住所」を有し、又は、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人をいい、「居住者」以外の個人を「非居住者」と規定しています。
No.2875 居住者と非居住者の区分|国税庁
くどいようですが所得税の判断に迷ったときは、必ず、最寄の税務署へ相談してください。お金に関することなので判断を間違えて支払処理してしまうと損害を被ります。税務署は親切に教えてくれます。そして教えてもらったことをメモしておくことが重要です。
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