電子入札や電子調達が普及してきました。従来の紙ベースの入札と電子入札を並行している官公庁も多いです。しかし電子入札は、本当にメリットがあるのでしょうか?電子入札を導入するだけで、高額な保守費を特定のIT会社へ払い続けることになるのです。
なぜ電子入札や電子調達が普及してきたのか
電子入札や電子調達が普及し始めたのは2014(平成26)年頃からです。電子政府の実現を目指し、参加企業の負担軽減と、官公庁側の事務簡素化、業務の効率化を目的にしています。特に官公庁関係は電子化(デジタル化)が遅れているため、政府として推進せざるを得なかったのです。デジタル化することで業務が効率的になり、公務員の定員削減にも資すると考えられていました。
つまり簡単にいえば、「入札担当者など、現場の要望から普及したものではない」のです。極端ないい方をすれば、電子入札の導入によって、入札業務が簡単になっているわけではないということです。
単に遅れているデジタル化を進めるための、見せかけのようにも思えるのです。
これは、官公庁で入札を担当した経験のある人ならわかるのですが、一連の入札手続きの中で、資格審査の申請や入札・開札の部分は、ほんの一部に過ぎないからです。いくらデジタル化しようと、入札業務全体を考えると、全く効率的になっていないのです。例えば5社くらいが参加する入札で、1回で落札すれば、15分もかからずに終わります。15分程度の負担を軽減しても、全く意味がないのです。むしろ、たった15分のために、年間数千万円の維持費がかかる電子入札システムを導入しているとしたら、大問題です。それこそ莫大な税金の無駄遣いでしょう。
すでに会計検査院も電子入札を導入しています。費用対効果を検証し、明確に公表すべきです。
入札業務の中で、一番大変な、一番時間のかかる部分は、仕様書と入札説明書の作成、予定価格調書の作成です。業務負担の割合から考えれば、仕様書と入札説明書、予定価格調書の作成負担が8割を超えます。電子入札の部分はほんの数%です。おそらく3%未満でしょう。初期の消費税率より少ないくらいの業務負担に過ぎません。
電子入札が普及しても、入札業務全体を見れば、少しも効率化されていないのです。むしろ電子入札システムの操作マニュアルを覚えるために、余計な負担が増えています。
電子入札で不正を防げるのか
電子入札の導入目的や、操作マニュアルなどを見ていると、「談合などの不正を防げる」という記載があります。誰でも入札に参加でき、誰が入札するかわからないので、談合にはならないという理屈です。
しかし、これは実際の入札現場を知らない人たちの考え方です。実際の入札では、多くの場合で参加者が限定されます。入札内容によって、入札参加者が事前に判明するのです。特に狭い業界では、入札へ参加する会社は決まっています。
談合や官製談合などの不正な価格調整は、電子入札で防げるものではありません。入札という価格競争では、予定価格と最低制限価格が存在する限り、談合はなくなりません。入札情報の漏洩も、電子入札を実施する前に生じるのです。談合や贈収賄事件は、ほとんどが電子入札とは関係なく発生します。
さらに怖いのは、電子入札が、入札執行者から見えない会社内からできてしまうことです。入札参加者が判明している状況では、仲の良い会社同士で、スマホ片手に価格調整しながらリアルタイムに入札できてしまいます。見えない場所から入札するので、自由に談合できるのです。つまり電子入札は、紙ベースの入札よりも不正が発生しやすいシステムです。そもそも官公庁の入札執行者から見えないのですから、不正もやりたい放題なわけです。
ブラックボックスが増えると不正の温床になる
官公庁に限らず全てに共通していることですが、見えない部分、ブラックボックスが増えると不正が発生します。周りから見える状態にしておけば、不正は発生しません。
従来の紙ベースの入札に比べて、電子入札は見えない部分が非常に多くなっています。 入札金額を入力するときに、どのような状態で行なっているのか見えないのです。 入札参加者は、スマホで他社と価格調整しながら入札することもできます。官公庁側の入札執行者からは見えないので、誰にもわからない完全な談合が容易です。
実際にネットニュースで「新手の談合か」と掲載されましたが、27社のICカードを預かって、1社の行政書士が27社分の入札を実施していたこともあります。他社のICカードを預かれば、なりすまして入札さえできてしまうのです。顔が見えない入札は、無限に不正が広がるかも知れません。
つまり電子入札システムという、目に見えないブラックボックスが不正の温床になってしまうのです。目の届かない入札はとても危険です。
電子入札はやらない方が良い理由
電子入札の怖いところは、高額なシステム保守費を、特定のIT会社へ永遠に払い続けることです。数千万円もする保守費をかけるだけの費用対効果があるとは思えません。しかも電子入札を導入した効果を、客観的に測る手法は存在しないのです。効果もわからずに、無駄なシステム保守費を永遠に払い続けることになります。電子入札システムの導入は、莫大な税金の無駄使いになるだけなのです。特定のIT会社が儲かるだけです。
さらに電子入札を導入してしまえば、紙ベースの本来の入札手続きを知る人がいなくなってしまいます。法令で定める、正しい入札の方法を知らない人たちばかりになってしまうのです。そうなれば当然ながら、公平公正な契約手続きも理解できなくなってしまうでしょう。
はっきり言って、電子入札は実施すべきではありません。デメリットの方が圧倒的に多く、メリットがほとんどないからです。
電子入札をやめて、従来の紙ベースの入札に戻せば、無駄なシステム保守費を払う必要はなくなるのです。紙ベースの入札を実施することで、本来の入札の意味や、会計法令の考え方、官公庁が果たす役割を正しく知ることができるのです。まだ間に合います。もう一度立ち止まって考えるべきです。
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