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基礎知識

「産学連携」と「業者との癒着」の違いを知る、共同研究の注意点

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国立競技場
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国立大学が民間企業と共同研究を実施するときの注意点です。産学連携は、正式な手続きを経ないと、「業者との癒着」と同じになってしまいます。教授会で承認を受け、共同研究契約書を取り交わすことで正式な手続きになります。

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研究費の不足と「業者との癒着」

 

2004(平成16)年からの国立大学法人化により、安定的な研究費がほとんどない状態になりました。競争的資金と呼ばれる研究費を、研究者自らが獲得しないと研究できないようになってしまったのです。

 

そして国立大学の研究者による研究費の不正使用が後を絶ちません。民間企業との取引を利用して架空発注で裏金を作り、国民の税金を私的に使うという構図が目立ちます。いわゆる業者との癒着です。癒着とは、グルになって悪いことをすることです。

 

最先端の研究を実施する研究者にとっては、研究データを解析するために高額な研究設備が必要です。また研究室の運営に必要な人件費や、日常の活動のための研究費を確保することが必須です。少しでも予算を手元に残したいという気持ちが強くなります。

 

一方、研究室と日常的に取り引きしている営業担当者から見れば、研究費を集めることのできる、力のある研究者の信頼を勝ち取ることが、会社の利益につながります。研究室の運営資金を捻出しようと考える研究者、研究者と近付きたい営業担当者が癒着する構図が生まれます。

 

研究者と営業担当者との癒着が問題となる一方で、産学連携の推進が国の政策として進められています。産学連携は、国立大学の研究者が、民間企業と一緒に共同研究を行うものです。商品やサービスの開発研究を行います。

 

参考に「業者」という表現は、一般的に相手方から見て「お客さん、お得意さん」の場合です。研究室で実験材料などを頻繁に購入している民間企業が「業者」です。産学連携の相手方である民間企業も、業者であることが多いです。

 

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「産学連携」と「業者との癒着」の関係

 

ここで素朴な疑問です。

 

「産学連携」と「業者との癒着」は、どこが違うのでしょうか?

 

両方とも、国民の資産ともいえる国立大学を利用して、特定の企業の利益のために行動する、という意味では同じです。

 

あるいは産学連携は研究を行うことで、業者との癒着は、特定の民間企業に対して便宜を図ること、と考えるなら異なるかもしれません。

 

しかし産学連携という名の下で、隠れて研究成果を利用させ、特定の企業と一緒に大儲けして研究者がリベートを懐に入れるなら、業者との癒着と変わりません。医薬品開発の基になる研究成果などは莫大な利益を生むのです。実際に産学連携に関連した癒着事件も発生してます。WEB上の検索サイトで「産学連携 癒着」で調べると多くの事件がわかります。

 

簡単に考えると、産学連携は良いことで、業者との癒着は悪いこと、となのですが、その本質的な違いはどこにあるのでしょうか?

 

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そもそも産学連携とは

 

国立大学における、民間企業との共同研究が制度化されたのは 1983 (昭和58)年度です。初年度の共同研究実施件数はわずか56件でした。発明が生じたときは共同出願で7年間の優先実施権が認められていました。国の政策として産学連携が推進されたとこもあり、2021(令和3)年度は29,000件にまで増加しています。

 

産学連携が推進されてきたのは、日本経済が停滞し不況が長引いたからです。大学の研究成果を民間企業が利用できるようにして、経済を活性化させようとしたのです。1991(平成3)年からのバブル崩壊後、低迷する経済を回復させる目的で産学連携を推進しました。産学連携を政策として進めてきた経緯を見ると次の科学技術政策が出発点です。

 

産学連携の出発点

1995(平成7)年11月 科学技術基本法

1996(平成8)年7月 第1期科学技術基本計画

 

この時期から国の政策として産学連携が推進されてきました。それ以前の産学連携は、「業者との癒着」と同じように認識されていました。国立大学の研究者が、営利を目的とする民間企業と一緒に研究開発することはモラルに反する、と多くの人が考えていたのです。

 

一般的に「癒着」とは、契約担当者や研究者が特定の企業と結託して、私利私欲のために税金などを私物化することです。癒着の典型例は、随意契約を繰り返すものです。会計法令に違反して一般競争入札を行わずに、特定の企業と随意契約を繰り返せば、その会社は不当な利益を得ることができます。あるいは民間企業から架空の請求書を提出させ、国立大学が代金を支払い、その代金を不正にキックバックすることもあります。現金でなくとも、高額な接待などで使われることがあります。

 

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産学連携も民間企業の利益のため

 

産学連携とは、国立大学と民間企業の研究者が一緒に開発研究を行い、研究成果を商品化し、双方が利益を得ることです。

 

このように見ると、産学連携と癒着は、「特定の民間企業の利益のため」という点では共通しています。

 

業者との癒着が社会的に問題となるのは、特定企業のために公的な資産(人、金、物)を利用することです。横領などの公費の不正使用が現実に存在していなくとも、特定企業との癒着と看做されれば、公正性に問題があると疑われます。

 

また随意契約を繰り返し、国民の税金を特定の企業へ恣意的に流せば、業者との癒着であり不正と看做されます。

 

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日本人の国民性と公正さ、ギリシャの財政破綻

 

2012年にギリシャの財政破綻が大きなニュースになりました。その原因は、公務員を始めとするギリシャの国民性にあったといわれてます。ギリシャの国民は人柄の良い人ばかりで、ルールを無視しても誰も批判せず、税金を払わないなどの違法行為が当然の社会であったらしいです。ほとんどの人が税金を払わなくなり、財政破綻は必然と考えられていたのです。

 

そういう意味では日本人の国民性は、他人との比較を好み、他人の不正は許しません。ギリシャの国民性よりも安全かもしれません。日本人は、業者との癒着も許さないのです。

 

このような法治国家の礎となる正しい考え方が日本人に根ざしている限り、日本は財政破綻しないでしょう。

 

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「産学連携」と「業者との癒着」の違い、手続きで変わる

 

産学連携の中で、「業者との癒着」を防止するためには、民間企業から受け取る利益を、国立大学などへ還元する仕組みが必要です。国立大学の研究成果を利用する代わりに、民間企業の利益を国立大学へ還元するのです。この約束を正式な手続きを経て、共同研究契約書の取り交わしで行います。共同研究を実施する前に教授会で審議し、共同研究契約を締結することで、癒着というリスクが払拭され、正式な産学連携に変わるのです。

 

共同研究の正式な手続き

1.共同研究の申込み 企業 → 大学
2.教授会で審議
3.共同研究契約書の締結(企業と大学間の契約)
4.共同研究経費を大学が受け入れ
5.共同研究開始

 

研究成果を商品化し利益を得て、その利益の一定割合を国立大学へ還元する、これが産学連携の基本的な仕組みです。研究成果の社会還元です。研究成果の社会還元とは、物やサービスとして国民が直接使えるようになることです。

 

国立大学の研究者が、特定の企業と一緒に共通の研究テーマで開発研究を行うのであれば、共同研究契約書の締結が必須です。共同研究契約書の条文の中で、発明などの特許出願の権利の帰属、実用化についての取り決め、売上時の利益の還元を明確にします。

 

もし民間企業と共同研究を行う場合に、契約書を締結せず、教授会へも諮らなければ、それは単に「業者との癒着」と看做され不正となります。

 

つまり、「産学連携」と「業者との癒着」の違いは、正式な承認手続きを経て、発明や利益の配分を取り決めた共同研究契約書を大学として取り交わしているかです。

 

ルールに基づき正式な手続きを行なえば産学連携ですが、隠れて同じことを行なえば癒着になるのです。

 

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産学連携制度の見直しと、これからの起業教育

 

日本における産学連携制度は、長引く不況からの脱却を意図して、アメリカのバイドール法を真似て作られました。アメリカでは大学の研究成果を利用することで、多くのベンチャー企業が生まれ、経済の発展につながったのです。

 

ところが、日本における産学連携は成功していません。一部の企業は研究成果を利用できていますが、経済の発展には寄与していません。正確なデータは公表されていませんが、研究成果に基づく収入よりも、人件費や研究費などの支出の方が圧倒的に多いはずです。そもそもが、国民の税金(大学の資産という意味で)を、特定の企業のためだけに使うべきではありません。一部の企業だけが大学の研究成果で利益を上げるのは、やはりおかしいです。

 

本来、国民の税金に基づく国立大学や国立の研究所における研究成果は、無料で公開されるべきものです。そして誰もが、どの企業でも自由に利用できなければなりません。すでに限界にきている産学連携制度は見直すべき時期です。

 

そして、これから必要になる「起業教育」を本格的に実施すべきです。起業するための基本的な知識を大学の授業のみならず、高校の授業にも取り入れるべきです。ベンチャー企業の経営者、起業経験者による教育を充実させるべきです。共同研究ではなく、起業教育へシフトすべきです。

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