契約手続きに必要な検収の準備手順です。契約代金を支払う前に検収を行います。検収を義務付けている根拠法令、検収を行うまでの準備のしかたをわかりやすく解説します。官公庁の契約担当者、営業担当者に必須の知識です。
検収に関する根拠法令
官公庁の契約手続きでは、納品時や作業完了時に検収が必要です。契約内容どおりだったか確認してから代金を支払います。
最初に検収についての根拠法令を確認します。財政法では検収の条文は存在しません。会計法の中で初めて検収が記載されています。検収は、検査して収納することです。検収の他に、検査、納品検査、完了検査、竣工検査などともいいます。むずかしい表現を使うと、検収は、給付の完了の確認検査です。物品の売買契約であれば、納品時に検査を行い、検収が完了した時点で所有権が官公庁側へ移転します。
会計法
第二十九条の十一第二項2 契約担当官等は、(工事又は製造その他についての)請負契約又は物件の買入れその他の契約については、政令の定めるところにより、自ら又は補助者に命じて、その受ける給付の完了の確認(略)をするため必要な検査をしなければならない。
政令である予算決算及び会計令(予決令)も確認します。
予算決算及び会計令
第百一条の四会計法第二十九条の十一第二項 に規定する工事若しくは製造その他についての請負契約又は物件の買入れその他の契約についての給付の完了の確認をするため必要な検査は、契約担当官等が、自ら又は補助者に命じて、契約書、仕様書及び設計書その他の関係書類に基づいて行なうものとする。
会計法と予決令を受けて、契約事務取扱規則(大蔵省令)でさらに定めています。
契約事務取扱規則
(検査職員の一般的職務)
第二十条 契約担当官等(略)から検査を命ぜられた職員(以下「検査職員」という。)は、請負契約についての給付の完了の確認につき、契約書、仕様書及び設計書その他の関係書類に基づき、かつ、必要に応じ当該契約に係る監督職員の立会いを求め、当該給付の内容について検査を行なわなければならない。
2 検査職員は、請負契約以外の契約についての給付の完了の確認につき、契約書その他の関係書類に基づき、当該給付の内容及び数量について検査を行なわなければならない。
3 前二項の場合において必要があるときは、破壊若しくは分解又は試験して検査を行なうものとする。
4 検査職員は、前三項の検査を行なつた結果、その給付が当該契約の内容に適合しないものであるときは、その旨及びその措置についての意見を検査調書に記載して関係の契約担当官等に提出するものとする。
地方自治体は次のとおりです。
地方自治法
第二百三十四条の二 普通地方公共団体が工事若しくは製造その他についての請負契約又は物件の買入れその他の契約を締結した場合においては、当該普通地方公共団体の職員は、政令の定めるところにより、契約の適正な履行を確保するため又はその受ける給付の完了の確認(略)をするため必要な監督又は検査をしなければならない。
地方自治法施行令
第百六十七条の十五
2 地方自治法第二百三十四条の二第一項の規定による検査は、契約書、仕様書及び設計書その他の関係書類(略)に基づいて行わなければならない。
官公庁では、契約代金の支払いは後払い(あとばらい)が原則です。納品や作業が完了した段階で検収を終えた後に、問題がなければ代金を支払います。検収は代金を支払うための確認行為ですから、契約実務の中では極めて重要です。もし検収せずに代金を支払った場合、その後になって数量が違っていたり、性能が不十分であったり、あるいは不具合で動作しないなどの不良品であれば損害を被ってしまいます。そのため契約代金については、検収完了後に支払うことを条件にしています。また契約書を取り交わすような場合には、契約の相手方と一緒に検収を実施することを義務付けています。検収によって確実な契約の履行が確保されるのです。
また、代金を支払う前に検収が必要なことは、「政府契約の支払遅延防止等に関する法律」で明記しています。国と地方自治体に適用されます。
政府契約の支払遅延防止等に関する法律
第六条 (対価の支払の時期)は、国が給付の完了の確認又は検査を終了した後相手方から適法な支払請求を受けた日から工事代金については四十日、その他の給付に対する対価については三十日(略)以内の日としなければならない。
第十四条 この法律(第十二条及び前条第二項を除く。)の規定は、地方公共団体のなす契約に準用する。
検収を始める前の準備
検収は、上記法令に記載があるように「・・契約書、仕様書及び設計書その他の関係書類に基づいて・・」実施するのですが、その準備段階がわりと大変です。検収当日までの準備作業は、おおむね次のとおりです。
検収の準備手順
1.契約書を確認し、検収予定日を設定
2.官公庁側の出席者をリストアップし日程調整、会場も確認
3.契約の相手方へ検収日時を伝え、当日の説明と資料を依頼
5.検収当日使う資料と出席予定者のリストを事前に渡しておく
6.検収当日になったら開催時刻を念押ししておく
契約書を確認し、検収予定日を設定
検収で重要なポイントは、検査職員の日程を確保することです。極端な言い方をすれば、検査職員一人でも契約の相手方と検収を実施することができます。そのため最初に検収予定日の設定が必要です。
例として、契約書を取り交わし、検査調書を作成する高額な物品購入契約とします。最初に、契約書の条文を確認します。条文の中で「発注者は、物品の検査を納品書を受理した日から10日以内の日に行うものとする。」のように検収を義務付けていると思います。通常、「〇日以内に検査を行う」と記載しています。
検収予定日は、納入期限や完了期限の一週間ぐらい前に、契約の相手方である営業担当者へ確認します。営業担当者へメールや電話などで次のように連絡します。
「納入期限が〇日なのですが、いつ頃納品できそうでしょうか?納品時に検収を行いたいと思います。関係者の日程調整を行いたいので、納品予定日を教えてください。」
納品予定日時にあわせて検収予定日を設定します。〇月〇日〇時のように、時刻まで設定します。
官公庁側の出席者をリストアップし日程調整、会場も確認
検収予定日が設定できたら、次に検収当日の参加者をリストアップします。検収は、検査職員として補助者指定されている課長補佐や担当係長、担当者で行います。特に検査職員は、職場の内規などのコピーをとり、指定している根拠法令を確認しておきます。検査職員は、責任を伴うので、必ず書面での指定が必要です。気軽に口頭で指定できるものではありません。
官公庁側の出席者リストは、氏名、役職名、内線番号などを手書きでメモしておきます。手書きの出席者リストで日程調整を行うことになります。
検収に出席する人は、利用者まで含める必要はありません。物品の購入契約では、実際に利用を開始する前に操作説明が必要になることもありますが、検収日とは別の日に操作説明会を開催したほうが効率的です。なぜなら検収と操作説明は、内容が全く違うので、利用者からすると関係ない話につきあわされ、長時間待たされることになってしまうからです。
検収は、契約書類に基づいて、数量や型式、性能などを現物を見ながら確認します。内訳が多いときや、複雑な性能をチェックするときなどは、半日くらいかかります。また検収途中で不明な部分があると、調査が必要になり、操作説明をしている時間はありません。
出席者が決まったら、最初に検査職員の日程を確認します。次のように尋ねます。
「お忙しいところ、すみません。
〇〇の契約について、納品日が〇日になりそうなので検収をお願いしたいと思います。〇日は何時頃なら時間がとれそうでしょうか?
検収時間は、およそ30分くらいです。契約の相手方である営業担当者やメーカーの関係者へ説明をお願いする予定です。」
運よく時間がとれそうであれば、予定を確保してもらいます。もし時間がとれなければ前後で空いている日を教えてもらい、再度、営業担当者と日程を調整します。検収予定日は、検査職員の日程を最優先します。
検査職員の日程が確保できたなら、次のようにお礼を言っておきます。
「それでは、検収日時の確保をお願いします。資料は後日お持ちします。また検収当日は、契約書類に基づいて営業担当者から説明してもらい、現物を見ながら不明な点などを質問する形式で行う予定です。当日はよろしくお願いします。」
検査職員の日程が確保できたら、次に担当係長へ確認します。他にも参加者がいれば日程調整します。ただ検査職員の日程が最優先なので、他の人の都合がつかなければ代理人に出席してもらいましょう。また検収当日は、契約の相手方である民間企業の人たちが何人か立ち会うことになります。検収実施場所の周りの人へも、検収日時を伝え、民間会社の人たちが立ち入ることを伝えておきます。官公庁は、個人情報を扱う部署が多いので注意しましょう。
契約の相手方へ検収日時を伝え、当日の説明と資料を依頼
官公庁側の検収日時が調整できたら、営業担当者へ電話し、こちら側の出席者を連絡して次のように依頼します。
「検収を納品日の〇日〇時に実施します。こちら側の出席者は課長補佐と係長、私の3名です。検収当日は、契約書類に基づいて、順番に説明をお願いします。契約書の内訳と、仕様書に基づいて説明してもらうことになります。技術者の方に説明してもらっても問題ありません。貴社の出席者も後日教えてください。また関係者全員へ契約書と仕様書を配布したいので準備をお願いします。」
検収当日の説明を依頼しておくのを忘れてしまうと、全員が集まって検収を始める段階で、右往左往してしまいます。特に初めての営業担当者は、検収の経験がなく、説明が必要とは思っていません。官公庁側の契約担当者から聞かれたことだけ説明すれば良いと思っています。こうなると効率的な検収ができません。
検収は、契約内容の履行を確認するものです。どのように契約内容を履行したのか、契約の相手方が説明しなければなりません。契約書に書いてある物品が、実際に納品された物品のどれに該当するのか、ひとつひとつ説明が必要になるのです。製品のメーカー名や型式も、銘板などで確認します。
検収当日使う資料と出席予定者のリストを事前に渡しておく
検収は、契約書と仕様書に基づいて行います。書類に記載してあることが、実際に履行されているか確認します。書類と現物を照合し、チェックを終えた部分は赤ペンでマークをつけながら進めます。検収当日の配布資料は、出席人数分用意して、2日くらい前に配布しておきます。
検収当日の配布資料は、当日に配布してしまうと、初めて見る人にとっては進め方がわからなくなってしまいます。いきなり書類を見ても、どこに何が書いてあるかわかりません。事前に目を通してもらった方が良いです。
また、資料を事前に配布するときに、当日の出席予定者のリストも渡しておきます。資料の表紙に記載しておきます。
検収資料 表紙の例
契約件名 「〇〇〇〇〇」
検収日時 2022年11月2日(水) 14:00~
場所 〇〇事務室出席予定者
〇〇課長補佐
〇〇係長
〇〇係員株式会社 〇〇〇〇〇
〇〇技術部長
〇〇営業課長
〇〇営業担当
出席予定者によって、当日の対応が変わることがあるので、誰が出席するのか全員が知っていた方が良いです。
検収当日になったら開催時刻を念押ししておく
念のため、検収当日になったら、官公庁側の出席者と営業担当者へ開始時刻の再確認だけしておきましょう。
「今日は〇時から検収を行いますので、よろしくお願いします。」
稀に、忘れているので、電話一本しておいた方が安全です。検収開始時刻になり、全員が揃ったところで、名刺交換します。そして契約担当者が挨拶します。
「それでは、これから検収を始めます。営業担当者の〇〇さん、書類に基づき説明をお願いします。契約書の内訳に書いてある順番で、仕様書の内容を確認しながら現物を見ていきます。不明な点は、その都度、ご質問ください。」
営業担当者の説明を聞きながら、書類の内容と現物を照合します。特に製品の型式と数量のチェックが重要です。数量は、ひとつひとつ見ながら数えます。仕様書などで性能を求めているときは、その性能がわかるよう、機器を動かし実際に目で見て確認します。デジカメで検収中の写真も撮影しておきましょう。パソコンのプログラム開発などが含まれていれば、ソースコードや著作権表示もモニターで確認します。
検収当日の名刺交換も重要です。後日、契約内容についてトラブルになったときに、誰が検収に立ち会ったかなどの証拠になります。検収作業に出席した人の名刺は必ず保存しておきます。名刺はA4の紙に貼り、名刺の余白に「◯月◯日検収立会」とメモして契約書類と一緒に保存します。
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