予定価格を作成するときは、定価表やカタログなど様々な資料が必要です。予定価格を作成するために必要な資料を事前に準備しておけば、効率的に予定価格を作成できます。売買契約と役務契約を例にして、予定価格を作る前に集めておきたい資料をまとめました。
仕様書と予定価格の関係を理解しておく
官公庁の契約手続きの中で一番大変で時間がかかるのは、仕様書と予定価格の作成です。
仕様書は、入札参加希望者に対して契約条件を提示する書類です。官公庁が必要とする購入予定物品の規格や業務内容などを詳細に記載した書類です。
予定価格は、提出された入札書を開札するときに、落札とするかどうか判断するための基準価格を設定した書類です。いわゆる落札基準価格です。
官公庁側の契約担当者は、仕様書に基づいて予定価格を作成します。入札参加者も、仕様書に基づいて契約金額を見積もります。入札であれば、入札書へ記載する金額を仕様書に基づいて積算するのです。
予定価格も入札金額も、仕様書に基づいて積算します。
仕様書は、発注者である官公庁側の契約担当者が作成する書類です。契約の実務経験が長くなると、仕様書を書くときに、予定価格の積算も念頭に置きながら作成します。通常は、100万円以上の契約から予定価格を作成することになります。しかし予定価格を作成する基準額は、各組織によって内部規程や過去の慣例などから独自の金額(300万円とか500万円など)を設定しているケースもあります。独立行政法人や国立大学法人は、事務簡素化の観点から予定価格を作成する基準額を高く設定しています。
例えば東京大学や京都大学は、法人化以降は500万円以上から予定価格を作成しています。
労力が必要になる仕様書の作成では、事前に準備する資料をいかに集めるかが重要になります。
物品購入契約に必要な準備書類
一般的な物品購入契約と役務契約を例にして、予定価格作成に必要な書類を解説します。予定価格を作成するときは早い段階で資料を集めるのがコツです。
物品購入契約は、カタログ製品などの既製品を購入する契約です。入札へ参加を希望する販売会社から提出してもらう書類について説明します。
書類を集めるときの注意点は、一般競争入札を実施することを、民間企業側へ明確に伝えることです。一般競争入札では、価格競争によって契約の相手方を決定します。開札前に書類を提出してもらう段階では、契約の締結は約束できないことを明確に伝えることが重要です。そそかしい営業担当者は、カタログや参考見積書を提出しただけで、契約が確定したと勘違いすることがあります。
定価表または価格証明書
物品購入契約の予定価格を作成するときは、定価と値引率を調査することになります。また下記でも説明しますが、仕様書を作成するときに、製品の性能を検討するのでカタログも必要になります。市販品の中には、カタログに標準価格が記載されているものがあります。その場合はカタログのみでOKです。
しかし受注生産品など、あまり市場に出回っていない製品は、カタログに価格が記載されていないことがあります。カタログに定価が記載してないときは、定価証明書あるいは価格証明書をメーカーから取り寄せる必要があります。書類の依頼先は、メーカーではなく販売会社です。多くのメーカーは代理店制度を設けています。該当地域の代理店や販売店を経由してメーカーへ依頼するのが一般的です。メーカーへ直接依頼してしまうと、メーカーとしても代理店を無視する形になってしまい、困ることがあります。
いずれも定価表または価格証明書を取り寄せるときは、次の点に注意が必要です。
複数の製品が含まれるときは、一式表示ではなく、内訳ごとに、品名、型式、定価を記載。(標準附属品で、金額の小さいものは不要です。)
消費税が含まれるかどうかを明記。
定価は、製品を製造したメーカーが設定するものです。必ずメーカーからの定価証明書を取り寄せます。販売会社や代理店などの定価証明書は意味がありません。メーカーが作成した定価証明書で、メーカーの証明印(会社印と社長印)が必要です。
参考見積書と納入実績証明書
参考見積書は、入札を実施する前段階で、通常の販売価格を調べるために提出してもらいます。入札金額よりも高い金額になることが多いです。値引きの少ない製品では、参考見積書と入札書が同価格になることもあります。
参考見積書の金額 ≧ 入札金額
納入実績証明書は、過去の取引価格を確認する資料です。販売当時の定価と契約金額を表形式にして提出してもらいます。予定価格を作成するときに値引率を算出するときの資料になります。
また販売実績が多数あれば、購入後のアフターサービスも心配あないことが証明されます。納入実績証明書は販売会社の信頼性を証明する資料にもなります。
納入実績証明書の項目は、納入年月、納入先、契約件名(品名・型式)、数量、契約金額、定価です。
金額欄は、消費税を含むか必ず明記してもらいます。
カタログあるいは製品の性能一覧
製品の性能を証明する書類です。通常はカタログなどに、詳細仕様として性能などが記載されています。
物品の購入契約では、定価表、参考見積書、納入実績証明書、カタログが必要です。購入計画がある場合は、早い段階で販売会社へ依頼し、事前に取り寄せておくと効率的に仕様書や予定価格を作成できます。
役務契約に必要な準備書類
役務契約とは、契約の内容が主に人件費で構成される契約です。物を購入したり、何かを製造する契約ではありません。清掃契約や警備契約など契約の内容が人的サービスのものを役務契約といいます。役務契約の予定価格を作成するときは次の書類が必要です。
人件費の積算に必要な参考見積書
参考見積書を依頼する前に、業務の内容を細かく記述した仕様書が完成していることが前提です。入札参加希望者へ仕様書を提示して、参考見積書の提出を依頼します。あるいは前年度などに契約を実施した会社へ、参考見積書の提出を依頼することもあります。
賃金センサス、物価資料などの公表データ
人件費の積算は、参考見積書と、公表されている統計データを用います。厚生労働省が調査している賃金センサス「賃金構造基本統計調査」は、民間企業の賃金を会社の規模別や職種別にまとめたものです。
厚生労働省
契約内容に合った職種の賃金データを検索し、資料を印刷して該当部分をマークします。現在はインターネット上で無料でデータを使用することができます。
また物価資料や建設物価などの市販書籍から、該当する人件費のデータを見つけて収集しておくことも必要です。役務関係の予定価格作成は、人件費に関するデータの事前収集が、効率的な作成作業のコツです。
社会保険料等の料率表を準備
人件費の積算は、労働者本人へ支払う給与部分と、雇用主(会社)が支払う社会保険料などの事業主負担部分(法定福利費)の経費から構成されます。
給与は、基本給と通勤手当や時間外手当などの諸手当とボーナスです。
法定福利費は、雇用主(会社)が支払う健康保険料、厚生年金保険料、児童手当拠出金、雇用保険料、労災保険料です。法定福利費を計算するための率(料率)の一覧表を準備しておく必要があります。頻繁に法改正があるので、作成時の最新版を準備します。
人件費の具体的な積算方法は、本サイトの予定価格「原価計算方式」で詳しく解説しています。
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