多くの官公庁で「オープンカウンター方式による見積もり合わせ」(公開見積り合わせや公募型見積合わせともいいます。)が導入されています。発注情報を公開して、誰もが見積競争に参加できるようになっています。一般競争入札との違いや、導入経緯などをわかりやすく解説します。
オープンカウンター方式とは
「オープンカウンター方式」とは、発注情報をWEB上へ一般公開し、見積もり合わせへの参加希望者を募るものです。不特定多数の者が参加できるため、一般競争入札に近い制度ともいえます。
従来の「見積もり合わせ」は、官公庁側の契約担当者が、あらかじめ信頼できる相手方3社を選び、3社から提出してもらった見積書を比較して契約の相手方を選ぶものです。官公庁側の契約担当者が、あらかじめ3社を選ぶため、「なぜその会社を選んだのか」説明が困難なことが多く、「業者との癒着」などを疑われるリスクがありました。そこで見積もり合わせを行う会社を選ぶ際に、官公庁側が選ぶのではなく、自由に参加できるようにしたのがオープンカウンター方式です。一般競争入札と同じように、誰もが参加できます。
そもそも官公庁が契約の相手方を選ぶ「契約方式」は、一般競争入札が原則です。例外として指名競争入札と随意契約が認められています。そして随意契約の中に、業務効率化(事務簡素化)を目的にした少額随意契約があります。この少額随意契約のときに3社の見積書を比較する「見積もり合わせ」を実施します。「見積もり合わせ」は、会計法令で事務簡素化を認めることによって、業務の効率化を目指しています。(予決令第99条、地方自治法施行令第167条の2)
オープンカウンター方式による見積もり合わせは、随意契約です。発注情報を公開していますが、一般競争入札ではありません。会計法令で定められた一般競争入札の手続きが取られていないのです。一般競争入札は、ひとつひとつの手続きが厳格に会計法令で定められています。例えば、入札公告の掲載期間や記載項目、入札や落札の方法が会計法令どおりでなければなりません。しかしオープンカウンター方式による随意契約は、このような制約がありません。簡単にいえば、会計法令で定めている入札手続きを省略したのが、オープンカウンター方式です。
オープンカウンター方式による見積もり合わせ導入の背景
2021年頃から、多くの官公庁で見積もり合わせを公開しています。
なぜオープンカウンター方式が、これほどまでに導入されるようになったのでしょうか?
オープンカウンター方式による見積もり合わせ(公募型見積合わせ、公開見積り合わせ)が広く導入されるようになった背景には、次の理由があります。
オープンカウンター方式による見積もり合わせ導入の背景
〇 インターネットが普及しWEB上へ簡単に公開できるようになったこと
〇 会計検査や外部監査などで、3社を選んだ理由をしつこく聞かれること
〇 見積書を依頼する会社を探すのが大変なこと
〇 業者との癒着を防止するため
WEB上へ簡単に発注情報を公開できるようになった
オープンカウンター方式が広まることになったのは、インターネットの普及が大きく影響しています。インターネットを利用して、WEB上へ発注情報を簡単に掲載できるようになり、一般公開が容易になりました。
インターネットが広く普及した2004(平成16)年以前は、官公庁の玄関脇にある掲示板へ入札公告を掲載するしか方法がありませんでした。新聞や官報へ掲載するためには高い広告料金が必要になるので、ほとんどの一般競争入札は、玄関脇の掲示板へ入札公告を貼っていたのです。掲示板なので、職場へ出入りする馴染みの業者が有利でした。誰もが発注情報を見れる状況ではありませんでした。以前は、発注情報を簡単に公開できる場所そのものがなかったのです。
会計検査などで、3社を選んだ理由をしつこく聞かれる
従来の見積もり合わせでは、見積書を依頼する相手方を官公庁の契約担当者が決めていました。事前に信頼できる会社を3社選んでしまうので、実際には公平性を配慮していたとしても、担当者が恣意的に選んでいると勘ぐられてしまいます。3社を選ぶ理由としては「信頼できる相手方」としか説明できません。「信頼できる会社=業者との癒着」と勘違いされてしまうのです。
「信頼できる会社」とは、官公庁側の会計法令を理解して、利益至上主義のわがままを言わずに、官公庁側が求める書類を正確に提出してくれる会社(営業担当者)を指します。会計実務を担当しているとわかるのですが、書類の日付が記入していなかったり、押印が漏れていたり、金額の位取りのカンマの位置がずれていたり、件名が間違えているなどの些細なミスが割と多いのです。
例えば、日付をミスしていれば書類を差し替えてもらわなければなりません。そうなると書類手続きをストップして、1週間くらい関係書類を保存しておかなければならないのです。実務担当者にとっては、書類ミスはとても負担になります。ひどいときは1日のうちに5社くらいのミスが見つかり、相手方へ修正を依頼しても、なぜ修正しなくてはいけないのか納得せずに、揉めてしまうことまであるのです。特に初めての取り引き相手は、日付や押印などを間違えることが多いのです。こうなると、もうやる気が失せてしまいます。
つまり、「正確な書類を、迅速に提出できる」営業担当者のいる会社が「信頼できる会社」なのです。
そもそも「見積もり合わせによる少額随意契約」が認められている趣旨は、事務手続きを簡素化して業務を効率化するためです。法の趣旨からすれば、「厳格な手続きに基づく公平性」よりも、業務効率化の方が優先されるのです。業務の効率化を目的に3社での見積もり合わせが認められているのです。法の趣旨を十分に理解していれば、会社の選び方や数は、問題視してはいけないはずです。事務手続きを省略し、事務負担を減らして、すぐに契約を締結するために「見積もり合わせ」が認められているのです。公平性を重視する一般競争入札とは根本的に違うのです。短い期間で契約を締結できているなら、業務の効率化が達成できているわけですから、「見積もり合わせ」として問題ないはずです。
ところが会計検査院による実地検査や外部からの検査などでは、「会社の選び方が公平性に欠ける」などと法の趣旨を理解していない指摘が多くなされてきたのです。業務の効率化を目的にしているはずの見積もり合わせで、「なぜ、この3社を選んだのか」と指摘されてしまうと、誰も答えようがないのです。
そもそも業務効率化、事務簡素化のためなので、3社を選んだ理由を聞かれても、「事務簡素化のためです」としか答えようがありません。少額随意契約では3社を選ぶ基準を問題視してしまうと、事務負担を軽減する趣旨から逸脱してしまうのです。法の趣旨を理解せずに、あまりにしつこく聞くようになったので、3社を選ぶのではなく、自由に参加させる(事務負担の大きい)仕組みを作らざるを得なくなったのです。
つまり「事務簡素化に基づく業務効率化」という法律の趣旨を理解していない多くの指摘のために、オープンカウンター方式による見積もり合わせが導入されるようになってしまったのです。
本来は業務効率化を目的にしているので、3社を選んだ理由は不要のはずですが、法律を理解しない指摘のために仕方なく公開することになったのです。
一般公開して自由に参加できる状態で見積もり合わせを行えば、官公庁側が会社を選んでないので指摘を受けることもありません。そのためオープンカウンター方式による見積もり合わせが定着してきました。
見積書を依頼する会社を探すのが大変
見積もり合わせを実施するときに、見積書を依頼する会社を探すのが、とても大変な場合があります。パソコンや家具などの一般的な市販品なら、簡単に販売店を探せます。しかし特殊な製品や、特殊な役務契約になると、そもそも契約できる会社が1社しか見つからないことがあります。
特殊な契約内容のときは、見積書を提出できる会社を探すのがとても大変です。電話する度に断られるのは、精神的にもきついです。5社くらいに見積書の提出を断られると、もう目の前が真っ暗になります。暗い日々が永遠に続くと思ってしまいます。
オープンカウンター方式であれば、発注情報が公開されるので、会社を探す負担がなくなります。これが唯一のメリットです。ただ特殊な契約は、ほんとに稀です。年に1件あるかないかくらいの頻度なので、事務負担を総合的に考えると、オープンカウンター方式のメリットはありません。
業者との癒着を防止
官公庁の契約手続きに関連した贈収賄事件や予定価格漏洩事件などが発生すると、必ず「業者との癒着」が問題視されます。入札へ参加する会社を事前に把握したり、予定価格を知るためには、官公庁側と企業側が、癒着していなければできません。
癒着によって、官公庁側の情報を得ておけば、入札へ参加する会社同士で談合して、見せかけの競争を行うことができます。官公庁側と契約できる会社を不正に調整できてしまうのです。しかし、これらの不正は、参加者が限定されている場合です。オープンカウンター方式で、初めての会社が参加すれば調整が困難になります。業者との癒着を防止するという意味で、オープンカウンター方式は一定の効果があります。(オープンカウンター方式でも、参加会社全員が価格調整するようなら無理ですが)
オープンカウンター方式と一般競争入札の違い
「オープンカウンター方式」と「一般競争入札」は、いずれも一般公開して、誰もが参加できるという点では共通しています。しかし次の点が異なります。
契約の相手方を選ぶ「契約方式」
オープンカウンター方式は、「入札」ではなく「少額随意契約」です。オープンカウンター方式は、会計法令で定めている入札手続きは行いません。入札公告も掲載せず、入札公告期間も考慮しないなど、本来の厳正な入札手続きを省略しています。根拠法令が次のとおり異なります。
根拠法令
オープンカウンター方式 ・・・ 予決令第99条、地方自治法施行令第167条の2
一般競争入札 ・・・ 会計法第29条の3、地方自治法第234条
契約の申し込み方法
契約の成立は、民法で定められています。「契約の申込み」に対して「承諾」することで契約が成立します。契約の申込み方法(申し込み書類)がそれぞれで異なっています。
民法
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
契約の申込み書類
オープンカウンター方式 ・・・ 見積書
一般競争入札 ・・・ 入札書
契約の相手方を決定する方法
一般競争入札では、会計法令に基づいて契約の相手方を決定します。予定価格を上限価格として、最安値の者が自動的に落札し、契約の相手方に決定します。落札の判断や、再度入札などが法令で細かく定められているのが一般競争入札です。
一方、オープンカウンター方式は少額随意契約なので、契約の相手方を決定する方法が定められていません。契約の候補者として選ぶだけの場合もあります。しかし一部の官公庁ではオープンカウンター方式で、契約の相手方を決定していることもあるようです。しかしそうなると、一般競争入札との違いがわからず、事務簡素化にもならないなど、色々な矛盾が生じてしまいます。業務効率化という、少額随意契約のメリットがなくなってしまいます。
まとめ 「オープンカウンター方式」と「一般競争入札」の違い
オープンカウンター方式と一般競争入札の違いを簡単にまとめると次のとおりです。
オープンカウンター方式と一般競争入札の異なる点
根拠法令と契約方式
契約の申し込み方法(提出書類)
契約の相手方を決定する方法
民間企業側から見ると、同じように見えると思います。しかし、やはり一般競争入札の手続きの方が、公平性と公正性を重視して法令で細かく手続きを定めています。契約までの手続きに時間がかかりますが、契約担当者の恣意的な判断を排除しているのが一般競争入札です。
オープンカウンター方式のメリットとデメリット
オープンカウンター方式のメリットは、「見積書を依頼する会社を探す手間が省ける」という点だけです。それ以外のメリットはありません。導入した理由を考えるとわかりやすいですが、業務効率化を目的とした少額随意契約の趣旨を理解していない残念な指摘のためだけに導入されています。見積もり合わせのときに、「なぜ、この3社を選んだのか」という意味のない指摘に対抗するためだけの制度です。
さらに、オープンカウンター方式のメリットを強いて挙げるとすれば、しつこく聞かれる、「3社を選んだ理由を説明する必要がない」ということだけです。本来は、業務の効率化を目的にしているので、3社を選んだ理由を聞く方がおかしいのです。昔(1995年以前)の会計検査院は、会計法令を深く理解していたので、意味のないことを聞く調査官などいませんでした。
一方、オープンカウンター方式のデメリットは無数にあります。デメリットだらけと表現した方が正確です。
オープンカウンター方式は手続きが大変で、業務効率化を目的とした少額随意契約の趣旨から逸脱しています。手続きは一般競争入札とほとんど同じになっています。
まず仕様書を綿密に作らなくてはいけません。オープンカウンター方式は、不特定多数の会社が参加します。一般競争入札と同じように、詳細な仕様書を作成しなくてはなりません。契約手続きで一番大変なのは、仕様書と予定価格の作成です。この二つが一般競争入札と同じように大変なので、業務効率化(事務簡素化)にならないのです。
不特定多数の会社が参加するときは、仕様書を細かく作成しないと、クレームが出るリスクがあります。クレームがあれば契約手続きを中止しなくてはなりません。そのため仕様書の作成に時間がかかってしまうのです。
3社を選ぶだけの少額随意契約であれば、仕様書を簡単な形式で作ることができます。極端な言い方をすれば、信頼できる会社であれば仕様書がなくても見積もり合わせが可能です。信頼できる3社を選ぶので、クレームなどは一切ありませんし、こちらの意図する要望どおりに完璧に契約を履行してくれます。安心できる営業担当者と契約できるのです。
3社を選ぶだけの少額随意契約は、信頼できる確実な会社を選べるのです。ここを問題視してしまうと、そもそも業務効率化を目的とした少額随意契約の存在意義がなくなってしまうのです。
「公開見積り合わせ」を導入して初めてわかったこと
私が勤務していた東京大学では、2004(平成16)年に国立大学が法人化されました。国家公務員の定員削減を目的に、国立大学が国の機関ではなくなったのです。そのため従来の会計法令が全て適用されなくなり、学内規則として改めて制定することになりました。
国立大学の法人化をきっかけにして、東京大学では「公開見積り合わせ」という制度を構築しました。実際に公開見積り合わせを導入してからの現場の感想です。
公開見積り合わせに該当すると、ほぼ一般競争入札と同じように面倒な手続きになります。入札公告期間が省略できるなど、一般競争入札よりも多少は気が楽ですが、それでも仕様書や予定価格の作成は、一般競争入札と同じように大変です。
現場では、公開見積り合わせも、一般競争入札と同じように捉えています。本音を言えば、「できるだけ公開見積り合わせはしたくない」のです。事務手続きが大変になり、とても労力がかかるので、やりたくないと誰もが感じているのが実情です。「公開見積り合わせになる」と聞いた途端に、契約担当者は溜息をつき、暗くなります。
個人的な思いですが、おそらく会計法令を理解していない一部の人たちからの指摘がなければ、公開見積り合わせは導入しなかったでしょう。
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