初めて給与担当になるときは、どのような仕事なのかイメージできないと思います。なんとなく、(給与を支給する事務手続き)くらいの理解しかできません。しかし実際に給与の仕事を始めると、自分の生活に直接役立つことがわかってきます。給与の手続きを学ぶことで、所得税や社会保険、年金が理解できるようになります。税金や年金の知識は実生活に関わることなので、それを仕事で経験できるのは、とても貴重です。
そもそも給与事務とは
給与事務は、毎月給与を支払うための事務処理を担当する仕事です。コンピュータを操作して給与システムで処理することになります。パソコンのない時代は手書きで銀行振込の明細を書いていましたが、今はパソコン上で処理することが多いです。
給与事務と聞くと、真っ先に自分の給与をイメージすると思います。毎月、給与をもらうのでかなり地味な仕事と思うでしょう。たしかに地味ではありますが、かなり大変な仕事です。その分、とてもやりがいもあります。
給与は、毎月支払うことが法律で義務付けられています。
労働基準法
第二十四条
② 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。
もし給与の支払いが遅れてしまえば、住宅ローンの返済や光熱水料金の支払いができなくなるかもしれません。個人の生活が脅かされる事態になってしまいます。
毎月支払われる給与は、個人の銀行口座へ振り込まれます。銀行へ提出する給与振込データの提出期限が毎月設定されています。データの提出期限を気にしながら事務手続きを進めなければなりません。会計実務の中でも、給与事務は期限に追われる仕事です。そして事務処理のミスが、直接相手に損害を与えてしまう仕事でもあります。
給与をもらう方としては、毎月当たり前のように銀行口座へ入金されています。それが当然と感じている人がほとんどでしょう。しかし給与担当者のおかげで、毎月、給与が受け取れているのです。(実際に給与事務を経験しないと、この有難さは実感できないと思いますが・・)
給与事務を担当する係は、人事係、給与係、庶務係、総務係、会計係など様々です。組織の規模によって担当係名が異なります。国、地方自治体、民間企業によっても異なります。国の組織では、お金を取り扱うことのできる担当者が法令で指定されています。そのため給与事務は、会計課所属のことが多いです。地方自治体や民間企業では、人事と給与を一緒にしている係が多いです。庶務係の中で、人事担当と給与担当をわけているところもあります。
毎月作成する給与データは、基本給に加えて各種の手当があります。超過勤務手当、通勤手当、住居手当などです。これらの手当は、個人ごとに金額が変わります。合計金額はコンピューターで自動集計されますが、過去の入力漏れやデータの修正が発生すると、ひとりひとり手作業で金額を確認しなければなりません。遡及データは、所得税や社会保険料にまで影響します。かなりの事務負担になるのです。
また年1回、昇給手続きもあります。個人ごとに昇給日や基本給が異なるので、入力ミスがないか確認しなければなりません。これらを確認しつつ、給与データを毎月作成しています。つまり給与は、自動的に支払われるわけではありません。給与担当者の汗の結晶です。
通常、各種の手当や基本給などは、人事担当が入力します。人事担当のデータをもとに給与の計算を行います。小さな組織では、人事担当と給与担当が一緒のところも多いです。同じ人が担当する場合は、それほどトラブルは起きません。しかし大きな組織では、人事と給与はそれぞれ別の係が担当します。毎月支払う給与に必要なデータが人事担当から送られてこないと、給与担当は期限に間に合わない事態になり大変なことになってしまいます。人事担当と給与担当は双方で連携が必須です。
給与事務を学ぶための法令とは
給与事務は、法令を理解しておくと、日常の仕事で判断に迷うことがなくなります。事務処理が速くなり、余裕が出てきますので、時間のあるときに勉強しておくと良いです。
給与事務に関係する法律や規則は次の通りです。
まずは自分の組織の給与規則
給与規則や就業規則などの名称で定められています。給与担当になったら、最初に読んでおきたい規則です。特に手当関係はじっくり理解しておきましょう。
所得税法
法律を覚える必要はありません。給与事務で必要になるのは、源泉徴収と年末調整、租税条約の3つです。次の手引きを参考にします。実際の法律は、さらに突き詰めて深く知りたいときに読むだけで十分です。
源泉徴収は、毎月支払う給与から所得税を天引きすることです。
令和3年版 源泉徴収のしかた
年末調整は、1年間の所得税を確定させることです。毎月、給与から概算で天引きされている所得税を、12月に精算する手続きです。
令和2年分 年末調整のしかた
租税条約は、日本と外国(アメリカやイギリスなど)で、両方の国で所得税を払うことのないよう(二重課税を防ぐ)、日本の所得税を免除する手続きです。国ごとに条約が定められています。
租税条約関係
社会保険関係
毎月の給与から天引きされる保険料です。雇用主だけが支払う保険料もあります。保険料の計算方法をマスターしておくことが重要です。社会保険と労働保険にわかれます。法定福利費ともいいます。
法定福利費
社会保険 = 健康保険、厚生年金保険、子ども・子育て拠出金
労働保険 = 労災保険、雇用保険
健康保険料、厚生年金保険料、子ども・子育て拠出金は、協会けんぽが所掌です。
保険料の計算方法は、標準報酬月額 × 料率 です。
雇用保険料、労災保険料(雇用主のみ負担)は厚生労働省です。
保険料の計算方法は、賃金総額 × 料率 です。
給与事務の基本になる法律とは
実際の給与事務では、法律の条文を参照して事務手続きを進めるような場面はありません。しかし該当する法律の条文を読んでおくことも大切です。労働トラブルなど不測の事態に対応できます。
給与事務に関係する法律
労働基準法
労働基準法施行規則
民法 第八節 雇用
所得税法
別の記事でも解説しています。
給与事務を学ぶメリット
初めて給与を担当するときは、規則や法律を学ぶ余裕はないです。毎月支払う給与データの提出期限があるため、締め切りに追われます。人事担当から提出されたデータに基づいて、給与データを作り上げるまでに、ひとつひとつ根拠法令を考える時間はありません。とりあえず提出期限までに、給与データを作るため、前回の内容を真似したり前任者や先輩に教えてもらいながら事務手続きを進めることになります。
最初の 3 ヵ月くらいは仕方ありません。しかし教えてもらったことを自分で理解していないと、ミスを繰り返すことになります。給与事務を正確に理解しておかないと、自分自身の財産にもなりません。
給与事務は毎月提出期限に追われ、なおかつ細かい作業で大変です。しかし給与事務を学ぶことで、実生活に直接役立ちます。特に社会保険や年金関係については、実務を経験しないと正確に理解できません。人件費の算出も、給与実務を理解していれば簡単に計算できます。給与実務未経験者には人件費の計算は困難です。
さらに給与の事務手続きでは、所得税の源泉徴収と年末調整を担当します。所得税を理解することができます。自分の確定申告も簡単にできるようになります。老後の国民年金や厚生年金の知識も蓄えることができます。給与実務は、実生活に役立つ貴重な経験です。給与実務は大変ですが、頑張れば頑張るほど自分の財産になります。年金を正確に理解できるので、老後の不安もなくなります。
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