給与事務を担当するときに知っておきたい法令です。実際の給与事務では、民法や労働基準法を知らなくても困りません。むしろ法律を覚えるよりも、給与システムの操作を覚える方が大切かもしれません。しかし給与実務を深く理解するためには法令も必須です。
給与事務に法律の知識は必要?
実際に給与事務を担当していた経験から、知っておくと役に立つ法令をまとめました。
給与事務は、給与システムなどのコンピュータを操作して事務手続きを進めます。給与を支給するのに必要なデータを入力して内容を確認し、銀行へ振込依頼します。日常の業務では、法律や規則などが必要になる場面はありません。
しかしトラブルが発生すると、法律の知識が必要になってきます。過去の給与データがミスしていたり、労働トラブルになったときに慌てないためにも法律の知識を持つことも重要です。
なお労働トラブルは、大きな問題になることが多いです。裁判になりそうなときは、早い段階で弁護士と相談しましょう。
給与、給料、賃金などは、使う人によって意味合いが異なります。この解説では次のとおりです。
給料 = 基本給のこと。
給与 = 基本給と各種手当(残業手当や通勤手当など)を含みます。
賃金 = すべてを意味します。
つまり次の関係になります。
賃金 > 給与 > 給料
給与はなぜ払う? 給与に関係する民法の条文
民法のすべてを完全に理解するには司法試験の勉強が必要です。実際の給与実務では、それほど多くの条文を理解する必要はありません。給与に関係する重要な条文のみ理解しておきましょう。
民法の中で給与実務に関係する条文は、第八節の雇用です。第623条から第631条までの8つの条文です。
最初に、そもそも給与はなぜ払うのか根拠法令を確認しましょう。働いたから払うのは当たり前ですが根拠を知っておくことが大切です。
民法
(雇用)
第六百二十三条 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
労働に従事した報酬を払う約束が雇用契約です。この条文が給与実務の基本となる根拠法令です。
次に給与の支払時期を確認します。
民法
(報酬の支払時期)
第六百二十四条 労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。
2 期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。
給与は、働いた後に支払うことが定められています。いわゆる給与の前払いはできません。働いた分の給与を払うことになります。もし働いてない分まで支払うとすれば、それは給与ではなく、単に借金をするのと同じ扱いです。以下の労働基準法第25条でも定めています。
この他にも、民法の中には雇用契約の解除なども記載されています。時間のあるときに読んでおきましょう。わずか8つの条文です。数分で読めます。
給与は毎月払う? 給与に関係する労働基準法の条文
労働基準法は、働く人を守るための法律です。基準という言葉が示すように最低限のルールを定めています。多くの組織では就業規則などで、労働基準法よりも有利な内容を定めています。労働者の不利になるような規則改正は、不利益変更として認められていません。例えば、理由もなく給与を下げることは法律違反になります。
最初に、労働基準法の原則です。不利益変更を禁止しています。
労働基準法
(労働条件の原則)
第一条 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。② この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
給与については、第三章の賃金です。給与の支払原則は、毎月、同じ日に支払うことです。いつ給与がもらえるか不明では、不安で堪りません。給料日を定めることが法律で決められています。
労働基準法
(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(略)② 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。(略)
給料日は法律で月1回以上と決められていますが、万が一の非常時には給料日以外でも給与をもらえます。現在(2021年)はクレジットカードが普及しているので稀なケースになります。
労働基準法
(非常時払)
第二十五条 使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であつても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。
厚生労働省令は次のとおりです。
労働基準法施行規則
第九条 法第二十五条に規定する非常の場合は、次に掲げるものとする。
一 労働者の収入によつて生計を維持する者が出産し、疾病にかかり、又は災害をうけた場合
二 労働者又はその収入によつて生計を維持する者が結婚し、又は死亡した場合
三 労働者又はその収入によつて生計を維持する者がやむを得ない事由により一週間以上にわたつて帰郷する場合
また次の厚生労働省の解説も参考になります。「従業員が給料を前借りしたいと申し出てきました。前借りの前例がないので、どのようにすればいいか教えてください。」
2021年現在は、新型コロナウィルスの感染拡大防止のために、飲食店などに休業要請が出されています。休業手当の根拠法令も確認しておきましょう。
労働基準法
(休業手当)
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
平均賃金の計算方法は、労働基準法 第十二条です。
労働基準法
第十二条 この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない。(略)
具体的な平均賃金の計算方法は、次の労働局のサイトがわかりやすいです。
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