官公庁の契約手続きに必要な書類についての解説です。契約手続きを進めるときは、民間企業から書類を取り寄せたり、自分で作成しなければなりません。「なぜ、この書類が必要になるのか?」という視点からまとめました。契約書類の役割、必要とする根拠法令を確認したいときに役立ちます。
官公庁の契約手続きに必要な書類一覧
国と地方自治体では、法律や条例などの根拠法令が異なりますが、必要性の考え方は同じです。契約手続きに必要な書類は次のとおりです。
官公庁の契約手続きに必要な書類一覧
請求書
検査調書
納品書(完了通知書、竣工通知書)
契約書または請書
予定価格調書または予定価格
入札公告
見積書または参考見積書
定価表、カタログ
国と地方自治体の会計法令一覧
契約手続きに必要な、国と地方自治体それぞれの主な会計法令一覧です。
国を対象とする会計法令
会計法
予算決算及び会計令(予決令)
契約事務取扱規則
政府契約の支払遅延防止等に関する法律(遅延防止法)
地方自治体を対象とする会計法令
地方自治法
地方自治法施行令
政府契約の支払遅延防止等に関する法律(遅延防止法)
各自治体ごとの規則(条例)
なお、国の組織を対象にした契約関係書類一覧表は、次の記事をご覧ください。
請求書を必要とする根拠法令
官公庁が契約代金を支払うときは、請求書に基づいて支払わなければなりません。これは遅延防止法第6条で定められています。遅延防止法は、国の組織だけでなく、都道府県や市区町村などの地方自治体にも適用されます。(遅延防止法第14条)
遅延防止法第6条では、支払請求を受けた後に支払うことが明記されています。この「・・適法な支払請求を受けた・・」が請求書のことです。請求書が届いた後で支払わなければなりません。
政府契約の支払遅延防止等に関する法律
第六条 対価の支払の時期は、国が給付の完了の確認又は検査を終了した後相手方から適法な支払請求を受けた日から工事代金については四十日、その他の給付に対する対価については三十日以内の日としなければならない。
第十四条 この法律(略)の規定は、地方公共団体のなす契約に準用する。
検査調書を必要とする根拠法令
物品が納品されたり、工事がしゅん工したときなどは、官公庁側の契約担当者が検収を行います。現物を確認し、契約どおりに完了しているか検査したときに作成するのが検査調書です。200万円以上の契約など、一定金額以上で作成する書類です。検査調書の作成を省略した場合でも、原則として検査自体は省略できません。一般的には検査のことを「検収」といいます。
会計法
第二十九条の十一 第二項
契約担当官等は、(略)請負契約又は物件の買入れその他の契約については、政令の定めるところにより、自ら又は補助者に命じて、その受ける給付の完了の確認(略)をするため必要な検査をしなければならない。
予算決算及び会計令
第百一条の九 契約担当官等、契約担当官等から検査を命ぜられた補助者及び各省各庁の長又はその委任を受けた職員から検査を命ぜられた職員は、検査を完了した場合においては、財務大臣の定める場合を除くほか、検査調書を作成しなければならない。
検査調書を省略できる場合です。
契約事務取扱規則
第二十四条 令第百一条の九第一項に規定する財務大臣の定める場合は、(略)当該契約金額が二百万円を超えない契約に係るものである場合とする。(略)
地方自治体はそれぞれで定めています。
東京都契約事務規則
第五十一条 検査員は、(略)検査を完了した場合においては、(略)検査調書(略)を作成し、その結果を契約担当者等に報告しなければならない。(略)
大阪府財務規則 第69条 第4項
(略)検査をしたときは、直ちに検査調書(略)を作成しなければならない。(略)
納品書、完了通知書、しゅん工通知書を必要とする根拠法令
上記の検収を行う際に、履行が完了したことを通知するために、民間企業側から官公庁側へ提出する書類です。契約書を取り交わす契約では、契約書の条文で納品書などの提出が義務付けられています。この書類に基づいて検収を行います。根拠法令は、国と地方自治体、両方が適用対象になっている遅延防止法です。
通常、契約の種類別に次の書類を提出してもらいます。
履行完了時に必要な書類
物品の売買契約・・納品書
物品の製造契約・・完了通知書(納品書の場合もあります。)
役務契約・・完了通知書
工事契約・・しゅん工通知書
政府契約の支払遅延防止等に関する法律
第五条 (給付の完了の確認又は検査)の時期は、国が相手方から給付を終了した旨の通知を受けた日から工事については十四日、その他の給付については十日以内の日としなければならない。
「・・給付を終了した旨の通知・・」が、納品書などを指します。給付とは、契約内容を履行する(約束を果たす)ことです。
契約書を必要とする根拠法令
官公庁が契約を締結するときは、150万円など一定金額以上の場合に契約書を取り交わします。契約金額が小さいなど、契約書の作成を省略するときは請書を取り寄せます。
会計法
第二十九条の八 契約担当官等は、競争により落札者を決定したとき、又は随意契約の相手方を決定したときは、政令の定めるところにより、契約の目的、契約金額、履行期限、契約保証金に関する事項その他必要な事項を記載した契約書を作成しなければならない。ただし、政令で定める場合においては、これを省略することができる。
地方自治法
第二百三十四条
5 普通地方公共団体が契約につき契約書(略)を作成する場合においては、当該普通地方公共団体の長(略)が契約の相手方とともに、契約書に記名押印し(略)なければ、当該契約は、確定しないものとする。
東京都契約事務規則
第三十六条 契約担当者等は、一般競争入札、指名競争入札若しくはせり売りにより落札者若しくは競落者が決定したとき、又は随意契約の相手方を決定したときは、遅滞なく次に掲げる事項を記載した契約書を作成しなければならない。ただし、契約の性質又は目的により該当のない事項については、その記載を要しないものとする。
大阪府財務規則
第六十四条 契約担当者は、契約を締結しようとするときは、次に掲げる事項を記載した契約書を作成しなければならない。ただし、契約の性質又は目的により該当のない事項については、この限りでない。
請書を必要とする根拠法令
請書(うけしょ)は、契約書を省略したときに取り寄せる書類です。ただ契約書のような強制力はなく、一方的に誓約するだけの効果しかありません。そのため重要な契約であれば、契約金額が少額でも契約書を締結することになります。請書は、契約違反が想定できないような簡単な契約で使います。
契約事務取扱規則
第十五条 契約担当官等は、契約書の作成を省略する場合においても、特に軽微な契約を除き、契約の適正な履行を確保するため請書その他これに準ずる書面を徴するものとする。
東京都契約事務規則
第三十九条 契約担当者等は、(略)契約書の作成を省略する場合においても、知事が指定する契約を除き、契約の適正な履行を確保するため、請書(略)その他これに準ずる書面を提出させるものとする。
大阪府財務規則
第六十六条 契約担当者は、(略)契約書の作成を省略する場合においても、別に定める場合を除き、契約の適正な履行を確保するため請書その他これに準ずる書面を徴するものとする。
予定価格を必要とする根拠法令
予定価格は、官公庁が契約を締結するときの上限価格です。契約方式を判断するときにも用います。予定価格を作成するときは、過去の取引実例価格や原価計算などの積算方式で設定します。競争入札では、落札上限価格の役割があります。また予定価格は秘密扱いが多いため、予定価格の漏洩事件や贈収賄事件、談合事件などの温床にもなってしまう書類です。取り扱いには十分注意しなければなりません。
予算決算及び会計令
第七十九条
契約担当官等は、その競争入札に付する事項の価格を当該事項に関する仕様書、設計書等によつて予定し、その予定価格を記載し、又は記録した書面をその内容が認知できない方法により、開札の際これを開札場所に置かなければならない。
東京都契約事務規則
第十二条 契約担当者等は、一般競争入札により契約を締結しようとするときは、その競争入札に付する事項の価格を、当該事項に関する仕様書、設計書等(略)によつて予定し、その予定価格を記載した書面(略)を封書にし、開札の際これを開札場所に置かなければならない。(略)
大阪府財務規則
第五十七条 契約担当者は、その一般競争入札に付する事項の予定価格を記載した書面をその内容が認知できない方法により、開札の際これを開札場所に置かなければならない。(略)
入札公告を必要とする根拠法令
一般競争入札を実施するときに、インターネット上へ公開したり、職場の掲示板に貼ります。入札公告の記載事項は法令で定められています。
予算決算及び会計令
第七十四条
契約担当官等は、入札の方法により一般競争に付そうとするときは、その入札期日の前日から起算して少なくとも十日前に官報、新聞紙、掲示その他の方法により公告しなければならない。(略)
地方自治法施行令
第百六十七条の六 普通地方公共団体の長は、一般競争入札により契約を締結しようとするときは、入札に参加する者に必要な資格、入札の場所及び日時その他入札について必要な事項を公告しなければならない。
東京都契約事務規則
第七条 知事及び契約担当者(以下「契約担当者等」と総称する。)は、一般競争入札により契約を締結しようとする場合においては、次に掲げる事項について、その入札期日(略)の前日から起算して十日前までに、東京都公報、入札情報サービス、掲示その他の方法により公告しなければならない。(略)
見積書を必要とする根拠法令
随意契約を締結するときに見積書が必要になります。見積書は、民法で定める「契約の申込み」書類です。一般競争入札の入札書と同じ役割があります。民間企業が見積書を官公庁へ提出し、官公庁側が、「これでお願いします」と承諾すれば契約が成立します。
予算決算及び会計令
第九十九条の六 契約担当官等は、随意契約によろうとするときは、なるべく二人以上の者から見積書を徴さなければならない。
東京都契約事務規則
第三十四条 契約担当者等は、随意契約によろうとするときは、契約条項その他見積りに必要な事項を示して、なるべく二人以上の者から見積書を徴さなければならない。(略)
大阪府財務規則
第六十二条 契約担当者は、随意契約によろうとするときは、なるべく二人以上の者から見積書(略)を徴さなければならない。(略)
参考見積書を必要とする根拠法令
契約手続きに必要な見積書ではなく、通常の取引価格を調べるための見積書を「参考見積書」といいます。予定価格を作成する前に、直近の取引価格を調べるために取り寄せたり、予算要求資料の金額を確認するために必要とします。契約とは関係なく、一般的な取引価格を知ることを目的にした書類です。
予算決算及び会計令
第八十条
2 予定価格は、契約の目的となる物件又は役務について、取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して適正に定めなければならない。
東京都契約事務規則 第13条 第2項
2 予定価格は、契約の目的となる物件または役務について、取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して適正に定めなければならない。
愛知県財務規則 第154条
2 予定価格は、契約の目的となる物件又は役務について、取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期限の長短を考慮して適正に定めなければならない。
定価表・カタログを必要とする根拠法令
契約手続きの流れは、最初に仕様書を作成し、その後に予定価格を作成します。契約実務を長く経験すると、仕様書を作成する段階から、予定価格のことまで考えて資料を集めます。仕様書の内容に基づいて予定価格を設定するので、資料も共通することが多いです。仕様書を作成するときは、最初に製品の性能などが記載されているカタログが必要です。
定価表は、予定価格を作成するために必要です。定価表がないときは、メーカーが発行する価格証明書になります。いずれも消費税についての表示は必須です。
予算決算及び会計令
第七十九条 契約担当官等は、その競争入札に付する事項の価格を当該事項に関する仕様書、設計書等によつて予定し、その予定価格を記載し、又は記録した書面をその内容が認知できない方法により、開札の際これを開札場所に置かなければならない。
東京都契約事務規則
第十二条 契約担当者等は、一般競争入札により契約を締結しようとするときは、その競争入札に付する事項の価格を、当該事項に関する仕様書、設計書等(略)によつて予定し、その予定価格を記載した書面(略)を封書にし、開札の際これを開札場所に置かなければならない。ただし、財務局長が別に定める契約においては、当該入札執行前にその予定価格を公表することができる。
神奈川県財務規則
第41条 入札執行権者は、入札に当たつては、入札に付する事項の価格を当該事項に関する仕様書、設計書等によつて予定し、その予定価格(略)を封書にし、開札の際これを開札場所に置かなければならない。
コメント