一般競争入札になるのか、それとも随意契約できるのか、契約方式の判断方法です。判断手順としては、まず少額随意契約に該当するか検討します。少額随意契約できないときは、競争性がない場合を除き、一般競争入札になります。
最初に予定金額で「契約方式を判断」
一般競争入札か? それとも随意契約か?
契約手続きを進める前に、最初に契約方式を決定します。契約方式とは、官公庁が契約の相手方を選ぶ方法です。
官公庁の契約方式は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約の3つに分類されます。契約方式によって作成する書類が異なります。そのため、最初に契約方式を決定しなければなりません。契約手続きを進めている最中に契約方式を変えてしまうと、それまでに作成した書類が使えなくなってしまいます。契約方式によって、作る書類、手続きの方法が変わってしまうのです。
3つの契約方式のうち、一般競争入札と指名競争入札が、いわゆる入札です。入札になると手続きに時間がかかります。また指名競争入札は、後になってから指名基準が問題視されることが多いので、実務的には実施しないことが多いです。契約方式を検討するときは、一般競争入札になるのか、それとも随意契約できるのか、判断することになります。
契約方式の判断は、契約手続きの中で最も重要です。実際に契約方式を判断する手順を具体例で解説します。
会計法令が適用される官公庁の契約手続きでは、次の手順で契約方式を判断します。(国も地方自治体も基本的な考え方は一緒です。)
最初に、契約予定金額(参考見積書の税込金額)が、少額随意契約の範囲内かどうか確認します。つまり予決令第九十九条を適用できるか検討します。例えば物品購入契約は、予決令第九十九条第一項第三号に該当するので、税込み金額で160万円以下かどうかを判断します。
予算決算及び会計令
第九十九条 (略)随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。
三 予定価格が百六十万円を超えない財産を買い入れるとき。
地方自治体は、地方自治法施行令で次のように規定しています。
地方自治法施行令 第百六十七条の二
別表第五
財産の買入れ
都道府県及び指定都市 百六十万円
市町村 八十万円
この予算決算及び会計令第九十九条、地方自治法施行令 第百六十七条の二別表第五を適用できるなら、随意契約が可能です。「見積もり合わせ」で相手方を決定できます。この一定金額以下の契約を、少額随意契約といいます。少額随意契約は、入札手続きを省略でき、業務効率化(事務簡素化)に資するものです。
ただし、契約の相手方が1社しか存在しない場合は、「競争性がない随意契約」になります。少額随意契約には該当せず、競争性がないことを示す選定理由書(機種選定理由書、業者選定理由書)を作成します。「競争性がない随意契約」の根拠法令は、国の場合、予算決算及び会計令第百二条の四第一項第三号、地方自治体は地方自治法施行令第百六十七条の二第一項第ニ号です。
予算決算及び会計令
第百二条の四 各省各庁の長は、契約担当官等が(略)随意契約によろうとする場合においては、あらかじめ、財務大臣に協議しなければならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
三 契約の性質若しくは目的が競争を許さない場合(略)において、随意契約によろうとするとき。
地方自治法施行令
第百六十七条の二 (略)随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。
二 (略)その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。
また稀なケースになりますが、少額随意契約の他にも予算決算及び会計令第九十九条では、運送又は保管契約、公益法人や農業協同組合との契約なども随意契約を認めています。地方自治法施行令第百六十七条の二では、障害者支援施設に関連する契約やシルバー人材センターとの契約なども随意契約を認めています。特に地方自治体では、地域を支援することを目的とした随意契約があります。
これらの随意契約に該当しないと判断すれば、一般競争入札になります。
契約方式を判断する手順、根拠法令
契約方式を判断するときは、次の根拠法令に基づいて順番に判断します。契約手続きの中で一番多い物品購入契約の例です。
契約方式の判断手順(国の場合)
1.予算決算及び会計令 第九十九条に該当するか
(少額随意契約)
2.予算決算及び会計令 第百二条の四第一項第三号に該当するか
(競争性のない随意契約)
3.上記の随意契約に該当しなければ一般競争入札
地方自治体の判断手順です。
契約方式の判断手順(地方自治体の場合)
1.地方自治法施行令 第百六十七条の二 別表第五 に該当するか
(少額随意契約)
2.地方自治法施行令第百六十七条の二 第一項第ニ号 に該当するか
(競争性のない随意契約)
3.上記の随意契約に該当しなければ一般競争入札
契約締結までの入札手続きの流れ
原則である一般競争入札の根拠法令は、会計法第二十九条の三、地方自治法第二百三十四条です。一般競争入札は、一般競争契約や公開入札ともいいます。
会計法
第二十九条の三 契約担当官等は、売買、貸借、請負その他の契約を締結する場合においては、第三項(指名競争契約)及び第四項(随意契約)に規定する場合を除き、公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならない。
地方自治法
第二百三十四条 売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。
2 前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。
入札手続きは、資料集めや書類作成にかなりの時間が必要です。随意契約でなく一般競争入札になりそうなら、早い時期から資料集めを開始します。入札公告を公開するまでに最低でも1ヶ月以上必要です。(契約を締結するまでに2ヵ月以上かかります。)参考に入札手続きの流れです。
契約締結までの入札手続きの流れ
1.参考見積書、カタログや定価表などの資料収集
2.既製品(カタログ製品)などで機種を指定する場合は、機種選定委員会を設置し、機種選定理由書を作成
3.仕様書作成
4.入札説明書、入札公告の公開準備
(WEB上へ掲載する前に、入札伺いの決裁が必要です。)
5.予定価格調書を作成
6.開札して落札者を決定し、契約書を取り交わし
(この後、納品検収、契約代金支払いになります。)
一般的に、競争入札になると、契約を締結するまでに2ヶ月以上必要です。年度初めの4月や年末の12月などの繁忙期では、通常業務の合間に資料を集めたり書類作成を行なうので、3ヶ月くらい前から準備すると慌てずに進められます。
競争性のない随意契約、入札が不可能な場合
国の場合は、予算決算及び会計令 第百二条の四第一項第三号、地方自治体は、地方自治法施行令第百六十七条の二 第一項第ニ号 に該当すると、「競争性のない随意契約」になります。
特許権や著作権などの知的財産権を有する特殊な契約内容の場合や、入試問題の印刷などで原稿を事前に公開できないときは、一般競争入札が不可能です。これらは「競争性のない随意契約」に該当します。ただ競争性を排除した随意契約は、問題視されることが多いです。可能な限り一般競争入札を行った方が安全です。
競争性がないと判断するためには、それを証明する書類が必要です。会計検査院なども、「なぜ入札できなかったのか」という視点で実地検査を行います。誰もが納得する合理的な理由と、それを裏付ける資料を保存しなければなりません。
指名競争入札のリスク
あらかじめ数社を指名して実施する指名競争入札は、業者との癒着や談合のリスクが高くなるので実施しない方が安全です。契約を締結した後に、指名業者の選定方法(指名基準)が問題になることが多いです。指名競争入札の契約手続きは、一般競争入札とほぼ同じなので、あえて指名競争入札を実施するメリットもありません。
随意契約、あるいは、一般競争入札
これが契約方式の基本的な考え方です。
たとえ契約の相手が1社しか存在しないと想定されても、合理的な(誰もが納得する)理由と、それを証明できる書類が揃わなければ、一般競争入札を実施する方が安全です。随意契約が可能なものを、一般競争入札にかけても文句は言われません。しかし、一般競争入札できるものを随意契約したとなれば、批判されるだけです。
コメント
大変解り易いですね。
再開発事業 契約 で検索していたら ココにきてしましましたが、参考に
なりました。
行政との契約はここにしばしばお世話になるかもしれません。
寄付して、質問すかもしれませんが
よろしくお願いいたします。
管理人です、コメントありがとうございました。
こちらこそ、よろしくお願いします。
役所向けの内容は、堅苦しい言い回しで、理解するのに苦労しますが、本サイトの説明は大変分かりやすく、参考にしています。
少額随意契約について、購入なら160万、役務なら100万という線引きがありますが、例えば「エアコン更新」といったエアコン本体(物)と取付工事費(人件費)が一契約に混じっている場合は、160万か100万のどちらで判断するのでしょうか。
管理人です、コメントありがとうございました。
「エアコン更新」のように、エアコン本体(物品)と取付工事が、ひとつの契約に含まれている場合は、それぞれの金額の割合で判断します。
契約手続きに入る前に、参考見積書を提出してもらい、金額の内訳を確認します。
例えば、合計金額が150万円で、内訳が、本体120万円、据付工事費30万円であれば、「購入契約」と判断します。
また、少し想定が難しいですが、もし仮に、本体30万円、据付工事費120万円であるとすれば、「工事契約」と考えます。エアコンを特殊な場所(高所や地下深くなど)へ設置するための、電気工事や建築工事の契約などが考えられます。
役務契約は、「新しい物品を設置したり、配線・配管などを敷設する契約」でない場合です。人が、何かの作業を行うだけの契約です。典型例は、清掃、警備、物品の修理、保守契約です。
エアコンの更新であれば、「購入契約」か「工事契約」です。通常、役務契約には該当しません。新しいエアコンの設置、配線・配管を敷く契約だからです。