予定価格作成に必要な購入実績の調査方法、値引率の考え方です。市場価格方式で予定価格を作成するときは、過去の値引率をどのように把握するかが重要になります。具体的な購入実績照会方法、電話での依頼のしかた、出精値引きと特別出精値引きの違いです。
納入実績一覧から契約担当係を探す
入札に参加を希望する会社から提出された納入実績一覧表に、次のように記載されていたと仮定します。
納入年月日 2009年6月
納入場所 ◯◯省会計課
件名(品名) パソコン50台
納入価格 490万円
定価 700万円
最初に行う手続きは、上記の納入場所の契約担当係を調査することです。
官公庁関係の組織は、インターネット上に電話番号が公開されています。YahooやGoogleなどの検索サイトで契約担当係を調べます。キーワードとしては組織名と調達、入札などのキーワードで探します。営業担当者に問い合わせても良いですが、担当が異なるのでわからないことが多いです。契約担当係を見つけたら電話番号と担当係名をメモします。
見つからないときは、各省庁などの代表電話番号あるいは総務係(庶務係)などへ電話し、自分の所属氏名を伝え、購入実績の照会を行いたいので、契約担当係を教えてくださいと尋ねれば親切につないでくれます。今の役所はサービスが良いですから遠慮せずに電話しましょう。
官公庁が実施する契約手続きは、会計検査院からの指導で購入実績を調査することが義務付けられています。官公庁間で相互に情報交換することは仕事の一部です。
万が一、忙しくてそんな協力はできない、という組織があれば、日付、電話番号、組織名、相手の名前をメモしておき、会計検査院の実地検査のときに、協力してもらえなかったことを説明すれば問題ありません。予定価格を作成するときに市場調査をした行為そのものが重要です。
一般的に契約を担当するのは、契約課、用度課、会計課、調達課などです。
購入実績を照会する前に電話する
契約担当係を探すことができたら次に電話で依頼します。
「お世話になっております。私は◯◯省契約課の◯◯と申します。」
相手「こちらこそお世話になっております。」
「お忙しいところ大変恐縮ですが、物品の購入実績の照会をさせて頂きたいと思いまして、電話を差し上げました。」
ここで恥ずかしくないように、必ず購入実績の照会といいます。
納入実績一覧表は、販売会社が製品を納品した証明です。会社から見ると納入です。一方、官公庁側から見ると購入したわけです。
簡単にいうと、販売会社から見ると納入実績で、官公庁側から見ると購入実績です。この二つを混同してはいけません。言い間違えると契約実務の素人と思われ、ちょっと恥ずかしいです。(相手に笑われてしまいます。)
相手「はい、どのような内容でしょうか?」
官公庁の契約担当係は、高額(100万円以上などの基準額は組織によって異なります。)の契約のときは予定価格を作成しなければななりません。そして市場価格方式で作成するときは、購入実績の照会が必要になることを知っているので話は早いです。
しかし、ときどき契約実務の経験の浅い人は、なぜ他の官公庁のために、わざわざ購入実績の調査を行う義務があるのかと、疑問に思う人もいます。そのときには丁寧に調査の目的と必要性を説明しなくてはなりません。会計検査院からも他機関の購入実績を調査するよう指導されていますと伝えれば快く応じてくれます。
「2009年6月頃に、490万円くらいの契約金額で、パソコンを購入されているとのお話をお伺いしまして、購入実績を照会させて頂きました。当時の定価や契約金額について、電子メールかFAXで照会させて頂いてよろしいでしょうか?」
相手「はい、確かに購入した記憶がありますので、メールかFAXで照会して頂けましたら、折り返し回答をいたします。」
「ありがとうございます、とても助かります。それではFAX(メール)で送らせて頂きます。担当の方のお名前とFAX番号(メール)を教えて頂けますでしょうか。」
相手「はい、担当は私◯◯です。◯◯省会計課調達係あてにお願いします。FAX番号は◯◯◯◯です。」
「ありがとうございます。それでは早速、照会させて頂きます。」
このようなやりとりで購入実績の照会を行います。回答までには、最低でも1週間程度の期間を設けて依頼します。至急回答して欲しいと依頼するのは失礼です。相手にとっては余計な仕事です。
購入実績の照会が必要な理由
購入実績の照会を行う理由は、ほんとに稀ですが、値引率を間違えて算出することがあるからです。販売会社の提出した納入実績一覧の定価と契約金額が、実際の金額と違っていることがあるのです。なぜか値引率が少なく記載されていることが多いです。予定価格は、過去の値引率を参考に作成します。値引率を間違えると適正な予定価格を作成できません。つまり金額が間違ってないか確認するために購入実績を照会します。
例えば税抜き金額で、定価100万円の物品を70万円で購入すれば値引率は 30 % です。しかし、もし納入実績一覧の契約金額が80万円と誤って記載されていれば、値引率は 20 % になってしまいます。実際の値引率は 30 % なのに、納入実績一覧の記載ミスにより値引率が 20 % になっていると、10%相当の予定価格過大積算になってしまいます。
契約金額の記載ミスの原因には、特別出精値引きなどがあります。販売会社は通常値引きが 20 % なので、特別出精値引きとした10%加算分を除外して(忘れて)いるときがあります。値引率の相違は、販売会社側の調査ミスのケースがほとんどです。記載ミスであれば、納入実績を提出した販売会社へ再確認し、修正したものと差し替えておきます。
特別出精値引きの理由とは
契約実務を担当していると悩む部分ですが、出精値引きと特別出精値引きという考え方があります。
売る側からすれば利益を多く確保したいので値引きを少なくしたいわけです。しかし官公庁との長年の取引きを考えて、特別に値引きする場合があります。通常の取引きでは値引率 20 % ですが、今回限りの特別出精値引きとして値引率を 30 % にするのです。
特別出精値引きには、いろいろな理由があります。
よくある例は、新製品が発売されたので古い製品の在庫をなくすために、通常の値引きよりも安くする場合です。またショールームなどの展示品の場合、あるいは新製品としての販売実績を作るために、通常より値引きを多くすることもあります。
実務上の取り扱いは、特別出精値引きの理由書が提出されておらず、その理由が不明な場合は通常の値引きと考えられます。
例えば毎回、見積書や落札内訳書に特別出精値引きと書いてあっても、その理由が明確でなければ通常の出精値引きと同じです。
市場価格方式で予定価格を算出する場合、参考見積書に特別出精値引きと記載されていれば、その理由を聞き、本当に今回限りの値引き(次回からの取引きに使えない特別な値引き分)があれば、その理由書も併せて提出してもらいます。
理由書がないと次回以降、適正な予定価格を作れなくなってしまうのです。通常値引きが 20 % で、今回限りの特別出精値引きの 30 % で契約したとしましょう。特別出精値引きの理由書が、販売会社から提出されていない場合は、次回以降の入札では特別出精値引き 30 % の値引率を予定価格に採用します。ところが販売会社としては、前回の値引率 30 % は、在庫処分品で1回限りの金額のため、その後の入札では適用できずに 20 % しか値引きできないとします。
すると、悲劇が起こります。
予定価格は 30 % 値引きした金額ですが、入札書は20%までしか値引きできないので、落札しません。一般競争入札は不調になり、その後の価格交渉も折り合わず、不落随意契約もできません。
つまり、契約を締結できなくなってしまいます。
仕方なく最初からやり直すことになります。仕様書をすべて見直し、新しい契約として一般競争入札を最初からやり直すしかありません。契約手続きの労力が2倍以上になります。
新しい契約では、前回 30 % の値引率で契約できた理由を調べることになります。また逆に、今回の値引率が 20 % の理由についても聞き取り調査しなくてはなりません。これは相当な労力を要する手続きになってしまい、双方にとって大きな負担です。
時間の経過と値引率
一般的に市場で取り引きされている需要の大きい製品は、時間の経過に比例して値引率が大きくなります。いわゆる値崩れ状態です。
競争原理の働く取引市場では、ライバル企業や後発企業が、さら安くて質の良い製品を販売することや、コストが改善(時間と共に原価が安くなること)され値引率が大きくなります。競合製品が多いほど、時間の経過に比例して安くなるのが自然です。
しかし需要の少ない特殊な製品は、時間の経過に関係なく値引率が変わらないことが多いです。
特に利用分野が限られている研究用の精密装置や、海外からの輸入製品、特殊な特許技術が用いられている製品は、年数が経過しても値引率は一定です。特殊な機器は、修理や保守などのアフターサービスの関係からも値崩れを抑えていることが多いです。
購入実績の照会は、過去(1993年頃)に、会計検査院が強く指導していた経緯があります。最近は、検査の視点が変わってきましたが、昔はかなり厳しく購入実績の照会と値引率の確認をチェックしてました。
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