官公庁が一般競争入札を実施するときに作成する予定価格の解説です。具体例で過去の取り引き実績から予定価格を設定する方法です。理解しやすいようにノートパソコンを30台(定価総額450万円)購入する想定で、予定価格の作成方法をくわしく解説します。
物品購入契約の予定価格は3つの手順で作成
物品購入契約の予定価格は、市場価格方式として3つの手順で作成します。
物品購入契約の予定価格作成手順
1 定価の確認
2 値引率の調査
3 値引率を比較し予定価格を設定
予定価格のほとんどが、この市場価格方式です。それぞれの手順をわかりやすく解説します。
定価の確認
最初に定価を確認します。定価は値引きする前の価格です。定価の他に、希望小売価格、標準価格などといいます。メーカーが製造するために必要とした経費と利益が含まれています。
購入予定のノートパソコンの定価を調べます。オープン価格であれば定価の確認は省略します。
インターネットでメーカーのサイトを調べ、カタログや価格表をダウンロードして印刷します。定価の確認は、メーカーだけでなく複数の販売店でも確認します。稀にですが、価格改定やHP上の誤記載もあり得ます。また消費税が含まれているかも併せて確認します。
値引率の調査
値引率の調査は、過去の取引価格と、直近の取引価格を調べます。過去の取引価格は、販売会社から納入実績一覧表を提出してもらいます。直近の取引価格は参考見積書を提出してもらい、値引率を確認します。
納入実績一覧表の取り寄せ
金額の大きな一般競争入札では、入札に参加する条件として、納入実績一覧表と参考見積書の提出を義務付けます。開札日の2週間ほど前を提出期限とし、開札日までに予定価格を作成する際の参考資料とします。
納入実績一覧表の内容について、実際の取引金額を確認します。納品先の官公庁へ購入実績の照会を行います。
納入実績一覧表に記載されている金額が、正確でないことがあるからです。会社側の納入データが間違えていたり、類似の契約と勘違いすることがあります。そうなると値引率を間違えてしまい、予定価格を適正に設定できません。予定価格の設定ミスは、開札結果に重大な影響を与えてしまいます。
納入実績一覧表に記載された納入先に対して、実際に契約を締結したかどうか購入実績を照会し、値引率や当時の契約方法を確認します。
購入実績の照会で確認が必要な項目
照会するときに必要な項目です。
- 品名(メーカー名、型式)、数量
- 納入時の定価(消費税の有無)
- 納入価格(契約金額、消費税の有無)
- 納入年月、納入場所、契約方式
他官庁の購入実績は同一物品が望ましいのですが、同一の物品がなければ、同一メーカーの類似物品を調査します。値引率はメーカーごとに変わることが多いので、同一メーカーであれば同じ値引率を採用できます。
値引率の算出方法
値引率の求め方は次のとおりです。
納入実績一覧表の記載例
ノートパソコン NEC製 ◯◯型 50台
納入年月日 2010年5月
納入先 ◯◯省大臣官房契約課
定 価 10,000,000円(消費税含まず)
納入価格 7,875,000円(消費税込み)
値引率を算出するときは消費税に注意します。もし消費税が含まれているか不明な場合は、必ず電話で確認しメモします。
定価は消費税が含まれていないことが多いので、納入価格も消費税を抜いた金額へ換算します。税抜き価格を鉛筆でメモしておきます。余白に税抜き◯◯◯◯円と手書きで書いておきます。
一般競争入札は、消費税を含まない金額で入札します。契約書を取り交わすときに消費税額を加算します。消費税の課税事業者と非課税事業者で、不公平にならないように入札と落札は税抜で実施します。
落札金額 7,500,000円(消費税含まず)
契約金額 7,875,000円(消費税5%を加算)
つまり落札金額(税抜き)× 1.05 = 契約金額(税込み)です。
契約金額を消費税抜きにするときは割り算します。
契約金額(税込み)÷ 1.05 = 落札金額(税抜き)
なお古い納入年月の金額は、消費税率が 3 % なのか 5 % なのか調べる必要があります。今後も消費税率は変わる予定です。
参考 過去の消費税率
1989年(平成元年)4月1日 3%
1997年(平成9年)4月1日 5%
2004年(平成16年)税込みの金額表示が原則
2014年(平成26年)4月1日 8%
2019年(令和元年)10月1日 10%
上記の例は消費税が 5 % の時代です。購入実績を照会した結果、当時の見積書や契約書などが添付されていれば、納入価格に含まれている消費税額が判明します。もし添付資料がなければ上記の計算式で消費税を除外します。
定価も契約金額も、消費税を除いた金額にしてから値引率を算出します。
値引率(小数点以下第三位を切り捨て)
納入価格 7,500,000 円 ÷ 定価 10,000,000 円 = 0.75
1 – 0.75 × 100 = 25.00 %
もし割り切れずに小数点以下第3位の端数が生じた場合は、小数点以下第三位を切り捨てます。25.3489% のときは、25.34%とします。
今回は値引率が25.00%となりました。納入実績表と購入実績調べの余白に、鉛筆で値引率をメモしておきます。複数の納入実績があった場合、最も有利な値引率を予定価格設定に用います。
予定価格の設定
定価と値引率が確認できたら、いよいよ予定価格を作成します。通常、ワードやエクセルで予定価格算出内訳書を最初に作成します。計算が多いときはエクセルが効率的です。
過去の納入実績に基づく値引率と、直近の取引実例価格を調べるために提出してもらった参考見積書の値引率を比較し、有利な値引率を予定価格として採用します。
予定価格の内訳作成例(A4の紙に印刷)
予定価格算出内訳書
件名 ノートパソコン NEC製◯◯型 30台
算定内訳
定価 単価 150,000円 × 30 台 = 4,500,000円(A)
値引額(別紙納入実績一覧から25.00%とする) △ 1,125,000円(B)
計 (A – B) 3,375,000円(納入実績に基づく価格)(C)
参考見積書 3,380,000円(D)
納入実績による算出価格(C)と、参考見積金額(D)を比較検討した結果、納入実績による算出価格(C)を採用する。
予定価格 3,375,000円 (入札書比較価格)(E)
消費税及び地方消費税(E)× 8 % 270,000円(F)
予定価格 (E+F)3,645,000円
以上が予定価格算出内訳書です。A4用紙の上部あるいは下部に決裁欄を設け上層部までの承認を受けます。
予定価格調書の作成
次に予定価格調書(かがみ・・表紙)を作成します。
予定価格調書の作成例(A4)
予定価格調書
件名 ノートパソコン NEC製◯◯型 30台
予定価格 3,645,000円(うち消費税相当額270,000円)
入札書比較価格 3,375,000円
支出負担行為担当官 ◯◯省 契約課長◯◯◯◯ 印
そして開札用に上記の予定価格調書のみを封書に入れ密封します。開札当日まで予定価格算出内訳書と一緒に金庫で保管します。開札時には、封書に入れた予定価格調書のみ開札場所に置きます。予定価格算出内訳書は、契約担当者の手持ち資料です。
以上が物品購入契約の予定価格作成方法です。
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