市場価格方式による予定価格の作成方法です。官公庁の契約手続きの中で一番多い物品購入契約を具体例に、予定価格の作成方法をくわしく解説します。市場価格方式では、過去の取引実績から値引率を調査します。納入実績の調査がポイントです。
物品購入契約の予定価格作成方法
市場価格方式による予定価格は、次のように決定します。
定価 - 値引額 = 予定価格
つまり値引額をどのように捉えるかがポイントになります。
官公庁の契約手続きの中で一番多い物品購入契約を例に解説します。物品購入契約とは、カタログ製品など市販されている製品を購入する契約です。
最初に予定価格の作成方法を定めた会計法令です。予算決算及び会計令(予決令・・よけつれい)を確認します。
予算決算及び会計令
第八十条第二項
予定価格は、契約の目的となる物件又は役務について、取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して適正に定めなければならない。
条文を少し詳しく見てみましょう。
契約の目的となる物件とは
購入しようとする物品のことです。
パソコンなら本体の他にディスプレイやキーボード、WindowsなどのOS、Office等の必要なソフト類もすべて含みます。買おうとするもの全てです。
取引の実例価格とは
実際に売買が行われた価格です。過去に行われた契約価格と現在の取引価格です。購入契約の予定価格作成では一番重要になる部分です。
取引実例価格の調査は、過去の契約実績の調査と、入札に参加を希望する会社から提出してもらう参考見積書を基に実施します。調査の目的は、値引率を把握することです。過去の契約時の定価と納入価格、消費税の有無などを調べて値引率を調査します。また直近の販売価格を調べるため、参考見積書を提出してもらったり、インターネットで価格調査することもあります。
需給の状況とは
需要と供給の状況です。通常取引されている既製品では気にする必要はありません。芸術作品など極めて特殊な物品で希少価値があるものや、緊急に買う必要があるのに高価格の製品しかないときです。特殊な状況下でのみ考慮する部分です。在庫が少ないのに需要が多く希少であれば価格が高くなります。人気がなく売れなくて在庫過剰であれば価格が安くなります。
履行の難易とは
契約内容が困難な場合です。物品売買では稀です。納品場所が高い山の上にあるとか、博士号を持つ専門技術者による高度なデータ解析が必要で人件費が高くなる、などの特殊なケースです。通常は該当しません。
数量の多寡、履行期間の長短とは
購入数量が多いときや履行期間が長いときは、金額が安くなります。逆に反対の条件であれば金額が高くなります。緊急に納品が必要なときは契約金額が高くなります。通常の取引価格よりも高くても履行期間を短く設定せざるを得なかったときは、対外的な説明資料が必要です。単に早く使いたいという理由は該当しません。履行期間は、一般的に無理のない期間を設定します。
契約実績の調査、最初に自分の職場を調べる
取引の実例価格を調査する方法は、入札に参加を希望する会社から契約実績一覧または納入実績一覧を提出してもらいます。この実績一覧を調査して値引率を確認します。過去の値引率が判明すれば予定価格の作成は簡単です。
契約実績の調査は、自分の職場の過去の契約実績と、他の官公庁の契約実績を調べます。
自分の職場の契約実績は、過去の契約のデータベースを調べたり、物品管理台帳を調べます。国の組織であれば会計検査院の実地検査のときに、検査用資料として購入調書を毎年作成しています。購入調書からも検索可能です。
また前任者や長く在籍している周りの人へ過去に購入した記憶があるか聞くのも効率的です。大きな契約金額であれば、誰かが記憶している可能性が高いです。心当たりを探し調査します。
過去の契約実績は同一物品が望ましいですが、類似品でも可能です。メーカーが同じで契約金額が同程度のものが理想です。過去の契約実績が見つかれば、当時の契約関係書類の定価と値引率が記載してある書類をコピーします。
納入実績一覧、契約実績一覧の様式
自分の職場の契約実績を調べるのと平行して、入札に参加を希望する会社から、納入実績一覧表を提出してもらいます。一般競争入札を実施するときは、提出書類として納入実績一覧表を義務付けます。
過去に販売した物品の契約実績について表形式で作成してもらいます。同じ物品の契約実績がない場合は、同一メーカーの類似品で提出してもらいます。官公庁関係への納入物品で過去2年以内が望ましいです。
調査を効率的に進める方法として、契約を締結した時の契約書や見積書、定価表などの写しを提出してもらうと効率的です。調査が楽になります。
納入実績一覧表の記載項目
納入実績一覧表は、契約実績一覧表、納入実績表などともいいます。次の項目を記載します。
納入実績一覧表の記載項目
- 納入年月
- 納入場所
- 契約件名(または品名・型式・数量)
- 契約時の定価(消費税抜き)
- 契約価格(消費税抜き)
契約実績が多数あるときは、同一メーカーで契約金額が同じくらいの実績を10件くらい記載してもらいます。同じ物品が最も望ましいです。値引率はメーカーによる差異はありますが、同一メーカーでは定価の設定方法も同じです。同一メーカーなら、製品が異なっても値引率は同じ程度と考えられます。
他の官公庁へ購入実績を照会
納入実績一覧表に基づいて、納品先の官公庁へ電話をかけ、その当時の契約関係書類のコピーを送ってもらいます。当時の価格が、一覧表と同じかどうか、契約方式は何かなどの調査を行います。値引率と契約方式を調査するのが目的です。
納入先の官公庁へ、購入実績の照会である旨を電話して、契約関係書類の提出に協力してもらえるか尋ねます。協力してもらえるなら、メールあるいはFAXで購入実績の照会として正式に依頼します。当時の契約書や見積書の写しも可能なら送ってもらいます。
通常、これらの契約書類を提出してもらうのに最低でも1週間は必要です。早い段階で購入実績の照会を依頼します。照会を受ける側としては、余計な仕事ですし、予定価格の積算に使用することが明白です。会計検査院のチェックを受ける書類になるので、積極的に協力したくない仕事です。
参考見積書の取り寄せ
実績調査は、主に過去の取引価格を調べるものです。参考見積書は、直近の取引価格を調査するものです。入札手続きの中で、開札の前段階で提出してもらう書類です。入札説明書の参加条件として参考見積書の提出を義務付けることが多いです。
見積書ではなく、参考見積書であることに注意してください。見積書は契約の申込です。見積書では、入札書と一緒になってしまいます。発注者が承諾することによって契約が成立します。
参考見積書は、およその取引価格を把握するため開札前に提出してもらいます。通常の取引価格を調べるのが目的です。この後に行なう入札では、参考見積書の金額よりも、さらに値引きした安価な金額で入札するのが一般的です。
以上の実績調査と参考見積書は、いずれも定価と値引率を把握するためのものです。集めた書類は必ずクリップなどで整理保存しておくことが重要です。
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