官公庁における物品購入契約では、適切な機種を選定することが非常に重要です。
しかし、その選定過程で「機種選定理由書」を作成するべきか、あるいは「同等品」を認めるべきかについては、さまざまな考慮すべきポイントがあります。
本記事では、まず機種選定理由書の定義と目的を明確にし、同等品を認めるケースと手続きを詳述します。その上で、両者のメリットとデメリットを比較し、具体的にどちらを選択するべきか判断基準を提示します。
さらに、実務での活用方法と注意点についても具体的に解説し、最終的にはよくある質問(FAQ)形式で読者の疑問に答えます。これにより、読者が適切な選択を行い、効率的かつ透明性の高い調達を実現するための一助となることを目指します。
機種選定理由書の定義と目的
定義と目的
機種選定理由書は、官公庁が特定の機種を選んで購入する際に、その選定理由を明確に説明する文書です。この書類は、入札や契約において、なぜその特定の機種を選んだのかを合理的かつ客観的に示すために必要です。
機種選定理由書の主な目的は以下の通りです:
1. 透明性の確保:選定プロセスを透明にし、不正や偏りを防ぐため。
2. 競争性の担保:類似品を同じ基準で評価し、公平に選んでいることを示すため。
3. 効率性の向上:適切な機種を選定することで、業務の効率化とコスト削減を図るため。
この書類を作成することにより、選定の根拠が明確になり、外部からの質問にも対応しやすくなります。また、選定過程が明確であることで、後からのトラブルや誤解(業者との癒着などの疑い)を防ぐことができます。
機種選定理由書が必要な状況とケース
機種選定理由書の作成が求められる具体的な状況は多岐にわたります。以下に主な例を挙げます:
1. 一般競争入札や見積もり合わせ:
官公庁の契約方式は、一般競争入札が原則です。金額の小さい契約でも見積もり合わせによって価格競争するのが原則です。価格競争は、多数の者が参加すれば効果が大きくなります。特定の機種を指定するよりも、複数の機種で価格競争する方が、競争性が高まる(より安くなる)のです。そのため官公庁における契約手続きでは、競争の機会を広げることが重要です。特定の機種を指定する場合、競争の機会がその分狭くなるので、その理由を明確にすることで、他の入札者からの疑問や異議を防ぐことができます。
2. 特定用途の機器選定:
医療機器や研究用精密機器など、専門性が高く、使用目的が限定される機器の選定時に、その機種が他の機種よりも適している理由を説明する必要があります。特許製品で類似品などが存在しない場合などが該当します。
3. 技術的要件の特定:
特定の技術的要件がある場合、その要件を満たす機種を選定する理由を説明します。例えば、高度なセキュリティ機能が求められるIT機器などが該当します。既存システムと結合(データをやりとり)するために互換性が重視される場合などです。
ケーススタディ
具体的なケーススタディを通して、機種選定理由書の重要性を理解します。
ケース1:医療機器の選定
ある病院が新しいMRI装置を購入する際、機種選定理由書を作成しました。理由書には、類似の機種を比較検討し、結果的に特定の機種が他の機種に比べて解像度が高く、診断精度を向上させることが記載されていました。また、その機種は操作が簡単で、医師や技師のトレーニングコストを削減できることも強調されています。この理由書により、選定プロセスが透明になり、外部からの質問に対しても明確に説明することができます。
ケース2:ITインフラの更新
ある官公庁がITインフラの更新を行う際に、特定のサーバー機種を選定しました。選定理由書には、類似品との比較検討がなされており、そのサーバーが最新のセキュリティ基準を満たしており、既存のシステムとの互換性が高いことが記載されていました。さらに、エネルギー効率が良く、長期的な運用コストの削減が見込まれることも理由として挙げられました。この理由書により、選定の透明性が確保され、予算の合理的な使用が証明されました。
機種選定理由書は、特定の機種を選定した経緯と理由を明確にし、透明性と公平性を確保するために不可欠な文書です。特殊な機器の選定、技術的要件の特定、予算の合理的な使用など、様々な状況で作成が求められます。具体的なケーススタディを通して、その重要性と効果を理解し、適切に作成することが求められます。
なお、機種選定した後に、販売店が複数存在するのであれば入札に該当します。「機種選定=競争性がない随意契約」ではありません。機種選定した後に一般競争入札や見積もり合わせを実施することが多いです。
同等品の認める条件と手続き方法
同等品とは?
同等品とは、機種指定された製品と機能・性能・品質が同等なものを指します。ライバル製品や類似品の多い文房具や什器類、電気製品、コンピューター製品の調達などで用いられる契約手続きです。多数の製品を調達対象とした方が競争性が高まるので、官公庁の原則である一般競争入札の理念(多数の者による価格競争)に適っています。同等品の認定基準には以下の要素が含まれます:
1. 機能的同等性:指定された製品と同じ機能を提供できること。
2. 性能的同等性:性能面で同じ水準を保っていること。
3. 品質的同等性:製品の品質が指定された製品と同等であること。
4. 互換性:既存のシステムや環境と互換性があること。
同等品を認める仕様書とするかの判断
同等品を認める仕様書とするのであれば、機種選定理由書は必要ありません。同等品は、官公庁側が求める仕様(性能などの条件)を満たしていれば、どの製品を納入しても良いという意味です。納入業者側からすれば、自社の得意分野(値引きを大きくできる製品)で勝負できるのでメリットが大きいです。
一方、購入する官公庁側からすると、希望するメーカーの製品が納入されない可能性があります。特に困るのが品質が安定しない(低品質)な製品が納入されてしまうことです。大手メーカーの製品であれば同等品として安心できますが、無名の聞いたこともないメーカーの製品は、不安だらけになってしまいます。製品の保証期間が1年間だとしても2年経過して壊れるようでは困ってしまいます。
そこで品質の面から、同等品を認めるか、判断に悩みます。
また事務負担の面からも迷うのです。機種選定理由書を作成する場合は、選定者を3人ほど選び、公平性を確保して選定手続きを行います。類似品の調査、資料収集、比較検討はかなり時間が必要です。場合によっては機種を絞り込むことができず、2つの製品が選ばれることもあります。2つの製品を選ぶのであれば同等品を認めるのと同じになってしまします。
機種選定理由書を作成するのに、それなりの負担になるのですが、同等品を認める仕様とする場合は、もっと大変な事務作業になります。同等品として認める範囲(基準)を明確にしないと、入札や見積合わせができないのです。「同等品も可とする」と一言仕様書に記載してあるだけでは、競争できないのです。同等品の範囲を明確にしないと競争するための前提条件がなく、競争自体が不可能になります。同等品の範囲を明確にしない入札は、「業者との癒着」あるいは「官製談合」が極めて濃厚な危ない契約手続きになってしまうのです。
同等品を認める仕様書を作成する場合は、類似品、ライバル製品を調査し、数値で明確に基準値を示さなければなりません。こちらの方が機種選定理由書の作成よりも大変になります。
機種選定理由書を作成して同等品を認めない仕様書とするか
同等品を認めて、機種選定理由書の作成を省略するか
どちらも大変な作業になるのですが、どちらかを選択することになります。両方とも大変な作業であることは同じなので、通常は、金額の大きい契約の場合に限定しています。国の場合は、予定価格調書の作成が義務付けられている100万円以上の場合が多いです。選定理由書や同等品の扱いに関しては、法令では定められていないので、官公庁それぞれの慣行によります。
一般的には、性能をそれほど求めない製品、文具類や什器家具類などの入札で同等品を認めることが多いです。研究用機器などの精密機器は、機種選定理由書を作成するケースが多いです。
機種選定理由書と同等品を認める場合のメリット・デメリット比較
機種選定理由書を作成する場合のメリットとデメリット
メリット
1. 透明性の向上:機種選定理由書を作成することで、選定プロセスが透明化され、第三者からの評価を受けやすくなります。これにより、信頼性が高まります。
2. 品質の確保:選定理由を明確にすることで、選定基準を証明できます。これにより、品質が確保され安心して製品を購入できます。
3. 説明責任:機種選定理由書があることで説明責任を果たしやすくなります。
デメリット
1. 時間とコスト:機種選定理由書の作成には、詳細な調査と文書作成が必要であり、時間とコストがかかります。これが業務の負担となります。
2. 専門知識の必要性:特定の機種に関する専門知識が必要であり、担当者の知識や経験が不足している場合、適切な理由書を作成することが難しくなります。
3. 抵抗感:選定理由を文書化することに対して、抵抗を感じる場合があります。特に、迅速な決定が求められる場合には、理由書作成が遅れの原因になることがあります。
同等品を認める場合のメリットとデメリット
メリット
1. コスト削減:同等品を認めることで、よりコストパフォーマンスの高い製品を選定できる可能性があります。これにより、予算内で最適な調達が可能になります。
2. 競争の促進:同等品を認めることで、多くの企業が入札に参加しやすくなり、競争が促進されます。これにより、品質向上や価格低減が期待できます。
3. 柔軟性の向上:特定の機種にこだわらず、同等品を選定することで、調達の柔軟性が高まります。これにより、急な需要変動や市場の変化に対応しやすくなります。
デメリット
1. 同等性の範囲と証明:同等品として認める範囲や基準を仕様書に記載せねばならず、その事前調査が大変です。また同等品として提案があった場合、本当に同等であるのかを審査する委員会を開催しなければなりません。これらには相当な時間と労力がかかります。
2. 品質のばらつき:同等品を認めた場合、品質のばらつきが生じる可能性があります。これにより、実際の使用において問題が発生するリスクがあります。
3. 調達プロセスの複雑化:同等品を認めることで、調達プロセスが複雑化し、管理が難しくなります。これにより、調達の効率が低下する可能性があります。
実務での機種選定理由書と同等品の活用法と注意点
機種選定理由書を作成する際の手続きフロー
1. 要求仕様の確認:
調達する機種の要求仕様を明確にする。
必要な性能、機能、品質、価格などの基準を設定。基準を設定するときは、なぜこの基準が必要なのか簡単にメモしておく。
2. 情報収集:
市場で提供されている機種(類似品やライバル製品)の情報を収集。
メーカーや販売業者からカタログ、仕様書、評価データを入手。
3. 候補機種のリストアップ:
要求仕様に合致する機種をリストアップ。
複数の候補を比較・評価。
4. 詳細評価と選定:
設定した評価基準に基づいて候補機種を詳細に評価。
最適な機種を選定。選定者は3人くらいが望ましいです。
5. 機種選定理由書の作成:
選定した機種の選定理由を明確に文書化。
各候補機種の評価結果と、選定した機種の優位性を説明。
6. 内部承認と保管:
作成した機種選定理由書を内部で決裁し、承認を得る。契約締結伺いの中で決裁することが多い。
外部に対する説明責任を果たすために文書を適切に保管。契約関係書類の中にファイリングしておきます。
同等品を認定する際の手続きフロー
1. 要求仕様の確認:
調達する製品の要求仕様を確認。
必要な機能、性能、品質などの基準を設定。
2. 同等品候補のリストアップ:
市場で提供されている類似品などの同等品候補をリストアップ。
複数の候補を比較・評価。
3. 書類の収集と提出:
メーカーや販売業者から製品カタログ、仕様書を収集。
4. 同等品の範囲、評価基準の設定:
同等品を評価するための基準を設定。
選定した複数の製品が含まれるように基準値を設定。
5. 仕様書に記載:
同等品として認める範囲を仕様書に明記します。基準値を設定するために選定した製品を、例示規格品として記載します。
6. 内部承認と保管:
作成した仕様書は、契約締結伺いの中で決裁し内部で承認を受けます。
契約関係書類と一緒に文書を適切に保管。
実務上の注意点
1. 透明性の確保:
機種選定理由書や同等品を認める仕様書は、透明性を確保するために内部決裁を必ず取ります。担当者しか知らないような事態は避けます。選定プロセスが透明であることを示すため、外部だけでなく、関係者に対しても説明責任を果たします。
2. 公平性の維持:
候補機種や同等品の評価は、公平な基準に基づいて行います。選定する際には複数の者で実施します。特定のメーカーや製品に対する偏りを避けます。
3. 文書の正確性:
選定理由や評価基準を記載する際は、正確な情報を使用します。メーカーが発行しているカタログや仕様書を用います。また、誤解を招く表現や情報の省略を避けます。
4. 説明責任への対応:
機種選定理由書や同等品を認める仕様書は、外部からの検査などに対応できるように整備します。必要な書類やデータを適切に保管し、必要時にすぐに提供できるようにすることが重要です。書類を探しやすくするために、きれいに、見やすくファイリングします。
5. 市場調査の徹底:
市場調査を徹底的に行い、最新の情報を基に作成します。
技術の進歩や市場の変動を常に把握します。
よくあるトラブルとその対処法
1. トラブル:評価基準の不一致
対処法:評価基準を事前に明確に設定し、全関係者に周知する。基準に基づいて評価を一貫して行う。一般競争入札の場合には、参加しようとする者全員へ質問と回答を周知しなければなりません。質問者だけに回答するのは、特定の者へ有利な情報を与えることになります。「業者との癒着」と同じ構図になってしまいます。
2. トラブル:情報の不足
対処法:メーカーや販売業者からの情報収集を徹底し、不足があれば追加情報を求める。必要に応じて第三者機関の評価を参考にする。機種選定も同等品を認める仕様書の作成も、徹底した調査が必須です。調査だけに1か月以上かかることも珍しくありません。
3. トラブル:文書の不備
対処法:文書作成時に複数人でレビューし、内容の正確性と完全性を確認します。不思議なことですが、自分で作成した文書のミスは、自分では見つけられません。頭の中で情報を補足して理解してしまうのでチェックできません。必ず、上司や同僚にチェックしてもらいましょう。
4. トラブル:不適切な選定
対処法:選定プロセスを透明にし、選定理由を明確に記載することで、不適切な選定を防ぎます。選定を終えたときは、必ず決裁を取ります。
機種選定理由書と同等品を認める仕様書は、それぞれ異なるプロセスと注意点がありますが、どちらも透明性と公平性を保つことが重要です。実務での手続きフローを明確にし、注意点を踏まえた上で適切に進めることで、トラブルを防ぎ、効果的な調達が可能となります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 機種選定理由書とは何ですか?
A1. 機種選定理由書は、特定の機種を選定する理由を明確に記載した文書です。選定プロセスの透明性と公平性を確保し、なぜ選定したのか、どのような基準で、どのように選んだのかがわかるように作成します。
Q2. 機種選定理由書を作成するメリットは何ですか?
A2. 主なメリットは以下の通りです:
透明性の向上:選定プロセスが明確になるため、第三者からの信頼が得られます。
選定理由の明確化:選定基準を資料に基づいて示すことができます。
説明責任の容易化:外部への説明がしやすくなります。特に契約担当者は3年ほどで人事異動になるので後任者が説明する際に必要になります。
Q3. 同等品とは何ですか?
A3. 同等品とは、指定された製品や機器と機能・性能・品質が同等であり、例示した製品と同じように使用可能なものを指します。同等品の認定基準には、機能的同等性、性能的同等性、品質的同等性、互換性などが含まれます。
Q4. 同等品を認める仕様書の作成は、どのように行いますか?
A4. 同等品を認める場合は、以下のステップで行います:
1. 要求仕様の確認:調達する製品の要求仕様を明確にします。
2. 同等品候補のリストアップ:市場で販売されている類似品など、同等品候補をリストアップします。
3. 書類の収集と提出:メーカーや販売業者から候補品の書類を収集します。
4. 評価基準の設定:同等品として認める範囲や基準を設定します。
5. 仕様書への記載:同等品として認める範囲を仕様書へ記載し、同等の製品を例示規格品として記載します。
Q5. 機種選定理由書と同等品のどちらを選べば良いですか?
A5. どちらを選択するかは、以下の判断基準に基づきます:
目的と要求仕様:調達する製品の目的と要求仕様に応じて決定します。
性能を重視するか:特殊な研究用設備など、高度な性能が求められる場合は機種選定理由書を作成する方が安全です。家具や什器類など、それほど性能が重視されない場合は同等品を認める仕様とすることが多いです。性能をどこまで重視するかで判断します。
Q6. 機種選定理由書や同等品を認める際に注意すべき点は何ですか?
A6. 注意点は以下の通りです:
透明性の確保:選定プロセスを透明にし、詳細に記載します。
公平性の維持:評価は、複数者(3人以上が望ましい)で、公平な基準に基づいて行います。
文書の正確性:選定理由や評価基準は正確に記載します。カタログなどから数値を記載するときは、コピーで作成します。手入力はミスの元になります。
説明責任への対応:文書を適切に保管し、外部からの質問に対応できるようにします。
市場調査の徹底:最新の情報を基に作成します。
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