公務員になったときや、公的組織で働くときに知っておきたいことです。公務員と会社員では大きく異なる点があります。特に公務員だけに課せられている法律を把握しておくことが重要です。みなし公務員や、上司の命令の意味を正しく理解しておきましょう。
「公務員」と「みなし公務員」の根拠法令
官公庁などの公的組織で働くときに、最初に知っておきたいことです。すでに一般常識として理解していることかもしれませんが、「公務員」と「みなし公務員」について、今一度おさらい しておきましょう。
「公務員」については、誰もが知っていると思います。しかし深く理解しておくことも重要です。私は国家公務員として採用され、60歳で定年退職になるまで、常に「公務員」を意識しながら仕事をしていました。官公庁などの公的組織で働くということは、とても、やりがいがあります。「公務」は、みんなの役に立つための仕事です。すべての仕事が、必ず誰かを助けることに繋がっています。
毎日の業務をこなす中では、ピンとこないかも知れませんが、公的な組織で働くということは、とても重要な仕事を担っているわけです。
新人として働き始めた頃は、「公務員」や「公的組織」を深く理解する余裕はないです。そんな当たり前のことよりも、1分でも早く、目の前の仕事を覚えたいでしょう。いろいろな実務を経験しながら、少しでも早く仕事をマスターしたいのが普通です。
しかし、基本となる「公務員」、「公的組織で働く意味」を理解しておくと、仕事を覚えるのが効率的になります。なぜなら、仕事のすべてが「公務」を目的にしているからです。目的を深く知ることで、実務をより早く理解できるようになるのです。
そこで長い間、私自身が経験して理解できたことを、ここにまとめます。
まず、公務員の基本となる法令を確認します。
「国家公務員」、「地方公務員」、公的な組織で働く「みなし公務員」の人たちは、民間企業で働く人たちと大きく異なる点があります。一度は耳にしていると思いますが、公務員は「全体の奉仕者」であるということです。
この「全体の奉仕者」は、憲法、国家公務員法、地方公務員法で明記されています。
日本国憲法 第十五条 第二項
すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
国家公務員法
第九十六条 すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。
地方公務員法
第三十条 すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。
そして、少し暗い話になってしまいますが、重要な点でなので刑法も確認します。
刑法
第七条 この法律において「公務員」とは、国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいう。
第百九十七条 公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、七年以下の懲役に処する。
「公務員」は、国と地方自治体の職員です。そして上記の刑法第七条では、「・・その他法令により公務に従事する・・職員・・」を公務員と定義しています。つまり他の法律で「公務に従事する職員」とみなす場合が「みなし公務員」になります。
「公務員」と「みなし公務員」は、上記刑法の贈収賄が適用されます。もし賄賂をもらえば逮捕されてしまいます。ここが民間企業の会社員と大きく異なる点です。民間企業の会社員であれば、自社の利益のために金品を受け取っても、会社の売上に繋がるなら犯罪にはなりません。(もちろん公務員へ賄賂を渡せば逮捕されてしまいますが・・)
「みなし公務員」の根拠法令
「みなし公務員」は、主に国民の税金で運営している組織など多数あります。いくつか参考に記載します。
国立研究開発法人理化学研究所法
第十五条 研究所の役員及び職員は、刑法(明治四十年法律第四十五号)その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。
国立大学法人法
第十九条 国立大学法人の役員及び職員は、刑法(明治四十年法律第四十五号)その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。
郵便法
第七十四条 郵便認証司、内容証明の業務に従事する者及び特別送達の業務に従事する者は、刑法(明治四十年法律第四十五号)その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。
日本年金機構法
第二十条 機構の役員及び職員(以下「役職員」という。)は、刑法(明治四十年法律第四十五号)その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。
東京2020オリンピックの組織委員会も、税金や国有地などを使うので「みなし公務員」になっています。
平成三十二(2020)年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法案
第二十八条 組織委員会の役員及び職員は、刑法(明治四十年法律第四十五号)その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。
また上記のように法律で「みなし公務員」と定められていませんが、賄賂を受け取ると刑罰が課される、公共的な組織もあります。
日本たばこ産業株式会社法
第十四条 会社の取締役、執行役、会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員)、監査役又は職員が、その職務に関して、わいろを収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、三年以下の懲役に処する。これによつて不正の行為をし、又は相当の行為をしなかつたときは、五年以下の懲役に処する。
公的組織の守秘義務
さらに公務員や公的組織で働く人たちは、個人情報を多く扱うために守秘義務が課せられています。
国家公務員法
第百条 職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。
地方公務員法
第三十四条 職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする。
民間企業も、就業規則で守秘義務が課せられていますが、民間企業の場合、主に自社の利益に反する行為を禁止しています。経営上の売上データや仕入情報、製品の開発情報の漏洩防止を主目的にしています。もちろん公務員と同じように顧客データの守秘義務も含まれます。
一方、公的組織における守秘義務は、個人情報や入札時の予定価格漏洩などです。自社(官公庁)の利益には関係なく、個人が損害を被るリスクのあるもの、公平公正な運営を妨げる行為を防止することを主目的にしています。
「全体の奉仕者」と「上司の命令」
公務員が「全体の奉仕者」であることは、多くの人が理解しています。公務員でない人も「公僕」という言葉を理解しているでしょう。「全体の奉仕者」とは、特定の人を有利に扱わない、えこひいきしない、不公平なことをしない、という意味です。抽象的には理解できるのですが、具体的な事例になると判断に悩むことがあります。
例えば、困っている人たちを助けるために、ある政策を実施するとします。計画段階では多くの人が望む政策だったとしても、実際に事業を進めるうちに、一部の人たちへ政策が届かないことが判明したとします。6割の人たちへ効果があったとしても、4割の人たちが対象から外れた場合はどうでしょうか?
国会や議会で検討を重ね、審議の結果として推進する政策であれば、議員を通して民意が反映されているので悩みません。しかし実際の事業では、国会や議会で審議する内容は、基本的な骨格部分だけであり、実施に必要な細かい部分までは審議されていません。現場で判断しなければならないのです。
また組織で働くときは、上司の命令に基づきます。特に公務員の場合、上司の命令に従う義務が法律で定められています。みなし公務員も、各組織の就業規則で同じように上司の指示に従わなければなりません。
国家公務員法
第九十八条 職員は、その職務を遂行するについて、法令に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。
地方公務員法
第三十二条 職員は、その職務を遂行するに当つて、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。
国立大学法人京都大学教職員就業規則
第35条 教職員は、上司の指示に従い、職場の秩序を保持し、互いに協力してその職務を遂行しなければならない。
では、「上司の命令が正しくない」と感じたときはどうでしょうか?
例えば国会質問で、大臣が答弁した内容に合わせるように、過去の決裁済書類を書き換える命令を上司から受けたらどうでしょうか?
「そんなこと、私の周りではあり得ない」と思うのではなく、公的組織で働くときは意識して欲しいのです。
疑問に感じる上司の命令に従えば、国民の多くの利益に反する(国民が知りたい真実が隠されてしまう)としたらどうでしょう?
「全体の奉仕者」と「上司の命令」は、どちらを優先すべきなのでしょうか?
上司の命令が正しいとは思えないと感じたときに、どう判断したら良いのでしょうか?
公的組織で働くときは、「全体の奉仕者」という意味を理解し、自分自身で判断して良いのです。上司からの命令であっても、国民にとってマイナスだと考えるなら、実行すべきではありません。
自分なりの意見を上司へ話して、対応することが重要です。そのためにも、公的組織を意識して仕事を行うことが重要になるのです。(ただ当然ながら、人間性の低い上司だった場合、意見を申し出れば嫌われてしまいます。恨まれて左遷されることもあります。)
会計担当職員だけ責任があり、大変なのか
本サイトは、会計担当職員や契約担当職員向けの記事を書いているため、「なんで会計職員だけに責任が発生するのか、他の事業系の職員と比較して責任が重く、不公平ではないか」と思うかもしれません。
しかし、これは全く逆です。会計担当職員や契約担当職員の方がメリットが大きいのです。
会計実務を担当すると、上述したように刑法などの犯罪行為も深く理解することができます。ときたまニュースで流れる贈収賄事件や談合事件などにも注意が向くようになります。つまり公的組織で働くときのリスクを正しく理解できるようになるのです。
公的組織で働くときの、やっていいこと、やってはいけないこと、を正しく認識できるのです。犯罪から身を守れるのです。
会計担当ではない、事業系の職員でも、公的組織で働いている限り、常に贈収賄事件や談合事件のリスクが存在します。税金を使っていれば、常に責任が発生するのです。
公的組織で働くということは、とてもやりがいのあることです。そして、日常の仕事が責任を伴うことになります。良い悪いを正しく判断し、楽しく仕事ができるようになることが大切です。そのためには正しい知識が必要になるのです。
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