国立大学の事務組織についての解説です。事務組織(事務部門)には、それぞれの分野ごとに特色があります。「向いている性格」と「向いてない性格」があるのです。自分の性格に合った事務分野の方が、実力を十分に発揮することができます。自分の性格に近い事務分野を早いうちに見つけると、仕事が楽になります。また事務職で昇進が早い人の性格も解説します。
事務に向いている人
最初に国立大学の組織を理解しておきましょう。国立大学の組織は、「教員組織」と「事務組織」に分かれています。教員組織は、学生を教える立場の人たちです。教授、准教授、講師、助手、研究員などです。
国立大学の教員は、研究業績を認められた人しかなることができません。質の高い論文を数多く執筆し、学会などで発表している人だけが教員になることができます。自分の専門分野を持ち、高度な専門知識がある人が、学生を教えることができます。公務員試験のような教養試験はなく、過去の研究業績に基づいて教授会などで採用の可否を決定します。
教員に向いている人は、ひとつのことを深く掘り下げて、いろいろな角度から考えることができる人です。ひとつのことに集中できる人でなければなりません。多くの教員は、自分が興味を持った研究テーマを持ち、そのテーマをずっと追い続けています。研究を進めながら学生を教えています。質の高い研究こそが、質の高い教育を可能とします。
一方、事務組織は、公務員試験などの教養試験に合格した人たちです。(2004年からの法人化後は、各国立大学ごとにも独自の試験を行っています。)教員組織のような研究業績は関係ありません。一生涯打ち込むような専門分野は必要なく、世論や国民の声を敏感に感じ取れることが重要になります。(むしろ事務組織では、専門分野を持ってしまうと、視野が狭くなってしまうのでマイナス要因になります。)
事務に向いている人は、バランス感覚に優れている人です。特に教員組織と比較すると、自分ひとりでできる仕事はありません。いろいろな人たちと協力しながら進めていく仕事が事務です。教員が行う研究のように、自分ひとりで進められる仕事はありません。特に事務組織の中では、縦と横の関係が重要になってきます。上司と部下、隣の係の人たちとの関係の中で仕事を進めます。そして、いろいろな人たちと関係しながら進める仕事は、法令や規則で定められていることが多いです。法令などを理解しながら、みんなと一緒に進めるのが事務の仕事です。
逆に事務に向いてないのは、他人と関わるのが苦手で、ひとりで判断してマイペースで仕事を進めたい人です。ある意味、「研究者的な人」かもしれません。
ただハッキリ言えることは、新人の頃は、誰でも職場の人と付き合うのが苦手だということです。相手の名前もよくわかりませんし、相手の性格も知りません。わからない相手と話をするのは気を使いますし、とても大変なものです。
職場での人との付き合いが苦手でも、時間が解決します。最初は嫌だと感じても、時間が経過するにつれて、精神的に楽になってきます。少し我慢して、周りの人や上司と会話を続けていけば仲良くなり、仕事が楽しくなっていくでしょう。
最初の頃は事務に向いていないと思っていても、一年、二年と経過すれば、逆に事務が楽しくなってくることの方が多いです。教員組織との関係で言えば、事務組織は定期的(3年が多い)な人事異動があります。これは人を育てるための異動でもあるのですが、逆に考えれば「どんなに嫌な職場でも3年以内には異動することができる」のです。
もし嫌な上司や嫌な同僚がいたとしても、2~3年我慢するだけで別の部署で働くことができます。定期的な人事異動は、事務部門にとって非常にメリットの大きい制度です。教員組織ではそのような定期的な人事異動の制度はありません。専門領域のポストとして採用されるので、人事異動は、昇任するとき(肩書きが変わる)だけです。教員組織では、運良く性格の合う上司であればいいですが、性格の合わない上司についたら、一生苦労するかもしれません。
国立大学の事務分野
私は、国家公務員として国立大学に採用され、41年間勤務し定年退職になりました。いろいろな人たちと仕事をしてきて、わかってきたことがあります。性格によって「向いている事務分野」と、「向いてない事務分野」があるのです。
自分の性格に向いていないところに配属されてしまうと、実力が発揮できなくなります。思いどおりに仕事が進まずに、ストレスが増えてしまい、自分自身にもマイナスになってしまいます。向き不向きを考えて、身上調書などで異動希望を出すときに参考になる情報です。
国立大学の事務部門は、次の事務分野に分かれます。
国立大学の事務分野
庶務系
人事・労務系
予算系
契約系
経理系
給与系
研究協力系
学務系
施設系
そして不思議なことに、分野ごとに向いている性格があるのです。上記の事務分野には、やはり似ている性格の人たちが自然と集まります。話が合う人、波長の合う人たちが分野毎に集まるのです。
冷静に考えるとわかることですが、事務組織の仕事は一人ではできません。周りの人たちと協調して働くことになります。チームとして仕事を進めるために、同じように考える人たちが集まるのは自然なことなのです。
そこで事務分野ごとに、向いている人の性格を解説します。
庶務系
庶務系に向いているのは、いろいろな人たちと接するのが好きな人です。会話が好きで、他人を手伝ったり助けたりできる人が向いています。
いわゆる「良い人」です。机にじっくり座っているよりも、みんなに声をかけたり、動いている方が好きな人です。他人を批判せずに、「みんなと一緒に仕事をする」という意識の強い人が向いています。笑顔の多い人が庶務系に向いてます。
人事・労務系
人事・労務系に向いている人は、上司からの命令に忠実に従うことができる人です。労働基準法や各組織の就業規則などに基づいて仕事を進めるのですが、実務を行う上での判断は、法令よりも管理職の決定に従うことが多くなります。上司である管理職へ、こまめに相談したり報告できる人が向いています。
いわゆる「上司のために働く」という覚悟ができる人が向いています。そのため当然ながら、上司からの信頼も厚くなります。官公庁の中では、人事・労務系の人たちは昇進が早いです。
逆に人事・労務系に向いていない人は、自分の考えを曲げることができず、上司の命令といえども納得できなければ反対してしまうような人です。また人事・労務系は、個人のプライバシーに関することを多く扱うので、おしゃべりな人は無理です。
予算系
予算系の仕事は、本省や財務省から予算を取ってくる仕事が中心になります。予算要求がメインです。予算を配分する仕事もありますが、中心になるのは予算を取ってくる方です。予算系に向いている人は、おおらかな性格の人です。あまり細かいことを気にせず、常に前向きな姿勢の人が向いています。予算要求の仕事自体が、法令に縛られることがないので、自由な発想で仕事ができます。特に予算要求では、多少のハッタリも必要になります。真面目にコツコツやるよりも、派手に仕事をしたい人に向いています。会計系の中では昇進の早い人たちが多いです。
契約系
契約系の仕事は、関係法令や各組織の規則に基づいて進める仕事が中心です。そのため法律などを読んで正しく解釈して進めることになります。上司からの命令よりも、法令が優先されるため、場合によっては上司に対して反対意見を述べなければなりません。「法令に基づいて正しい判断で仕事を進める」という強い意志を持つ人に向いています。いわゆる専門家として会計法令などを探求できる人たちです。
契約手続きをミスすると、すぐに大きな問題になってしまうことも関係しています。業者との癒着、予定価格漏洩、官製談合、贈収賄などのリスクが常に存在するので、毅然とした態度を取れる人が向いています。
経理系
経理系の仕事は、主にお金の出し入れに関することです。財務会計システムなどを使い、職場のルールに基づいて事務処理を行います。毎日コツコツと自分のペースで仕事を進めたい人に向いています。地味な仕事なので、刺激を求めたい人には向いていません。真面目でおとなしい人に向いています。
給与系
毎月支給する給与や年末調整を行う仕事です。期限のある定形業務が多いので、毎日コツコツ地道に仕事をしたい人に向いています。経理系と給与系の仕事は似ています。刺激を求めたり、達成感を味わいたい人には向いていません。経理系と給与系は、女性が多いです。
研究協力系
人と接するのが好きで、研究者の仕事を手伝いたい人に向いています。科研費に関する仕事が中心になるので、日本学術振興会の規則や職場のルールを覚えるのが基本になります。契約系に似ていますが、定形業務の多い仕事になります。科研費の他に、民間企業との共同研究や産学連携などを含むことがあります。
学務系
学生教育に関する仕事です。教員の指示に従い、「教員を手伝う」という考えで仕事ができる人に向いています。学務系の仕事は、自分で判断して動くということは少ないです。教員や上司へ相談して、指示を仰ぐというのが基本になります。また窓口業務では学生と直接会話することが多くなります。
国立大学の事務組織の中では、学生教育に直接関係する仕事なので、中心になるはずなのですが、自分で判断できることがないので、どうしても「おとなしい」人に向いています。教員や上司の指示に基づいて、コツコツと進めることができる人が向いています。
施設系
施設系の仕事は、工事契約や施設の維持管理保全業務です。上記の事務分野とは全く違う技術職です。建築士や電気工事士などの国家資格を持つ人が多く、いわゆる「技術屋さん」と呼ばれる専門家の集まりです。自分自身の判断で仕事ができる人たちです。施設系の国家資格を持ち、専門分野で働きたい人に向いています。
性格別に向いている事務分野
今まで41年間、いろいろな人たちと一緒に仕事をしてきて、それぞれの性格別に向いている事務分野を考えると次のとおりです。人事異動などの際に参考にしてください。自分に合っていない事務分野のミスマッチは、自分の能力を100%発揮できずストレスが溜まってしまいますが、逆に考えると、自分の不得意な分野を勉強できる、自分を鍛えることができるわけです。「苦手な事務分野をなくす」という意味では、あえて向いてない事務分野で「若いうちに苦労する」ことも必要かもしれません。
性格別に向いている事務分野
曲がったことが嫌いで、協調性よりも「正しい考え方」を優先したい人は、契約系です。
人と接するのが好きで、みんなと一緒に仕事したい人は、庶務系です。
昇進したい気持ちが強く、上司についていくことができる人は、人事・労務系、予算系です。
人と接するのが苦手で、自分でコツコツと定型業務をこなしたい人は、給与系、経理系です。
いろいろな人との会話が好きで、研究者を手伝いたい人は、研究協力系です。
昇進が早い人の性格
官公庁で昇進の早い人には、次のような共通的な性格があります。人事系と予算系の人は、上司に気に入られることが多く、昇進が早いです。
国立大学の事務組織で昇進が早い人
◯ 自己主張をしない。
◯ 上司から指示されたこと、先輩や同僚から依頼されたことは断らない。
つまり若い頃には、あまりパッとしないようなタイプの人です。いわゆる目立たない人が最終的に早く出世しています。 おそらく敵を作らないことが一番の理由になっています。
自己主張をしたり、他人の意見を否定するような人は、たとえそれが正しくても敵が多くなります。敵の多い人は出世しません。「出る杭は打たれる」と言いますが、まさにそのとおりです。
謙虚で、誠実に仕事をする人が早く昇進します。
相手を批判するときは、ぐっと我慢して、最初から批判するのではなく、褒めてから代案を提示するようにしましょう。
「おっしゃるとおりですね。私も同感です。もうひとつの案として◯◯はいかがでしょうか・・」
私は、すぐに相手の欠点を批判してしまうので、敵が多かったです。
官公庁で働くなら、「相手を批判しない表現」を身につけていきましょう。
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