国立大学の研究協力担当と産学連携担当は、新人にも人気の高い分野です。特に産学連携担当は、比較的新しく、研究協力担当に含まれることもあります。それぞれの違いや勉強方法をわかりやすく解説します。科研費と知的財産権がポイントになります。
研究協力担当と産学連携担当の違い
国立大学の事務職員を希望する新人たちに人気のある仕事が、研究協力と産学連携です。おそらく、協力とか連携という言葉のイメージから、たくさんの人たちへ役立つ仕事と理解されているようです。
概ね間違ってはいませんが、正しく理解しておきたいことなので、最初に研究協力と産学連携の違いを解説します。
研究協力は、古くからある分野です。小さな組織では研究協力の中に産学連携が含まれます。
研究協力の主な仕事は、教員や研究者を手伝う仕事です。教員とは、学生の授業を担当する教授、准教授、講師、助教などです。教員は、自分自身の専門分野の研究を常に行っています。教員は研究者でもあるのです。教員ではない研究者もいますが、教員は全員が研究者です。専門分野を研究していないと高度な教育ができないのです。
教員が行わなくてはならない事務的な仕事を、事務手続きを熟知している専門的な立場から指導したり補佐するのが事務職員の役割になります。代表例が科学研究費補助金(科研費)の申請や使用方法、成果報告書の取りまとめ事務です。
科学研究費補助金は、研究費の中心的部分になっています。毎年、運営費交付金が減額されているため、科研費がないと十分な研究ができない状況になっています。研究費の中心を占める科研費なのですが、申請書類の作成方法や使い方などが細かくルール化されています。関係法令や組織内のルールを全て把握するのは、研究者にとっては複雑すぎて無理なのです。もしルールを逸脱してしまえば、研究費の不正使用として指摘され、研究者の人生が終わりになるほどの大打撃を被ります。そのため事務職員が科研費の事務を補佐しています。
研究協力担当の主な仕事は、科研費に関すること、寄附金に関すること、民間企業との共同研究に関すること、受託研究に関することです。いずれも法令や組織内の規則などのルールを熟知した手続きが必要です。もし手続きをミスすると、不正が疑われてしまうような重要な部分について事務職員が主導的に担当します。
例えば、民間企業からの寄附金について、事務部門を通さずに研究者がひとりで受け入れてしまえば、業者との癒着や贈収賄が疑われ大事件になってしまうのです。また事務を通さずに科研費で買えないものを買ってしまえば、研究費の不正使用になり、研究者として終わりになります。
研究協力担当の仕事は 会計法令や規則類などのルールに基づく研究費の使用方法を指導することです。研究室の秘書のように、教員たちと楽しく仕事することではありません。
一方の産学連携担当は、研究協力担当よりも新しい分野です。日本で産学連携が推進されてきたのは、1999年頃からです。日本経済の長引く不況を打開するためでした。アメリカが、研究成果を民間企業が活用するためのバイ・ドール法を1980年に制定し、数多くのベンチャー企業創出に成功した事例を真似して導入しました。
国立大学の研究者が生み出す研究成果を、特許権などの知的財産として保護し、民間企業に活用してもらうことが狙いです。研究成果を権利化することで、民間企業が商品やサービスとして販売し、国立大学と民間企業が win-win の関係で利益を得ることを目的にしています。
2008年頃の産学連携担当は、研究成果を権利化して利益を得ることを目指していました。これは従来の共同研究よりも、知的財産権を保護し活用することを意識し、各大学では知的財産を管理するための部署を整備しました。当時は、将来、もし爆発的に商品が売れれば、莫大な利益を得ることができると期待されていましたが、ほとんどの国立大学では実現していません。
つまり研究協力担当と産学連携担当の違いは、時代的な背景もあり、従来の研究協力担当にあった共同研究の部分を、知的財産権に焦点を当てて保護管理するために産学連携担当としたのです。産学連携担当は、知的財産権を活用するための共同研究です。
そのため産学連携担当の役割は、特許権などの知的財産権についての交渉が中心です。特許の出願経費をどう負担するのか、特許の維持経費の負担をどうするのか、商品やサービスが売れた場合のロイヤリティをどのように定めるのか、などを交渉して共同研究契約書に盛り込むのが主な仕事です。弁理士と一緒に仕事することが多くなります。
産学連携担当を一言で表現すれば、知的財産権の活用になります。共同研究契約書における知的財産の取り扱いがメインの仕事になります。
教職員数の少ない組織では、研究協力担当と産学連携担当を区別せずに、両方を含めて担当しているところもあります。
研究協力担当と産学連携担当の日常業務
研究協力担当の日常業務は、科研費に関すること、寄附金に関することが中心です。ときどき共同研究や受託研究が入ってきます。科研費については、申請書の作成方法、実績報告書の作成方法、予定どおり研究が進まなかった場合の繰越手続きなどについて、教員へアドバイスする仕事です。科研費は、資金配分元である日本学術振興会(学振)のマニュアルに沿って進めます。事務職員は学振のマニュアルを熟読しておかなければなりません。また手続きで不明な点などがあれば学振へ問い合わせすることになります。
寄附金の仕事は、民間企業から寄附申出があったときに、受け入れ承認するための手続きを担当します。通常、寄附申込書の決裁を受け、教授会で承認を受けたり報告します。寄附金については教授会に提出することが重要になります。寄附金が承認されないケースは、受け入れた後に負担が発生するもの、反社会的な組織からの寄附などです。
通常は寄附金が否決されるようなことはありません。もし否決されるようなら、その教員も相当危ないことになります。なお、国立大学での寄附金の名称は、こざとへんのつく「附」を用います。寄付金とはいいません。これは昔から、日本の教育研究に対して浄財である寄附金が使われていた歴史的な背景を物語っています。
産学連携の日常業務は、共同研究契約書の交渉業務が中心です。それ以外にも研究成果を特許権などの知的財産権として活用するためのシーズ集を作成したり、民間企業が参加できるセミナーなどを開催します。民間企業が、国立大学の研究成果に触れる機会を設けることが仕事になります。またベンチャー企業などを目指す起業セミナーなども開催します。
研究協力担当と産学連携担当の大変な仕事
研究協力担当で一番大変な仕事は、科研費の事務手続きです。学振への提出期限が定められており、短期間のうちにミスのない書類を作成しなければなりません。しかも本来は、研究者が書くべき書類を、事務職員がチェックしなくてはいけないのです。事務職員は、学振のマニュアルのみでなく、自分の組織の規則も十分に理解しなくてはならず、ものすごい負担になっています。
近年、研究者の研究時間が少なくなっている原因のひとつに科研費があります。本来であれば、獲得できるかわからないような不安定な科研費ではなく、毎年安定的に配分される運営費交付金を研究費に充てるべきものです。もし科研費を運営費交付金へ振り替えれば、どれほど研究に集中できる環境になるでしょう、たぶんノーベル賞が倍になると思います。
産学連携担当で大変な仕事は、共同研究契約書の交渉です。契約書の条文の中に、特許権などの知的財産権の扱いを明記します。例えば特許の出願経費は民間企業が負担する、という条文があると、双方の意見が対立することがあります。
特許権は、発明者が権利を持ちます。国立大学と民間企業の研究者が共同で発見した発明は、両者が共有する発明です。特許権を共有するのであれば、出願経費も双方で負担しなくてはなりません。
しかし民間企業は特許権を活用して自由に利益を得ることができますが、国立大学はそもそも利益を追求できません。民間企業のように商品やサービスを自由に販売することができないのです。そのため出願経費は、民間企業に負担してもらうのを原則としています。この条文を理解してもらうのに数ヶ月かかることがあります。権利に見合う負担をどのように考えるのか、お互いに理解しなくてはなりません。
研究協力担当と産学連携担当に向いている人
研究協力担当は、科研費の事務手続きに関する仕事がメインです。学振のマニュアルや会計法令を覚えて、教員へアドバイスする仕事です。とても緻密な仕事になります。マメにコツコツ行う仕事が好きな人に向いています。
一方、産学連携担当は反対の性格の人に向いています。共同研究契約書の条文についての交渉などは、会話力や交渉力が求められます。研究協力担当のように地道にコツコツ行う仕事ではありません。交渉ごとなので、場合によってはハッタリのような駆け引きまで必要になります。
研究協力担当は、静かにコツコツ仕事をしたい人に向いています。産学連携担当は相手を言い負かすくらいの会話力や強い精神力のある人に向いています。
研究協力担当と産学連携担当に役立つ勉強方法
研究協力担当に必要な勉強方法は次のとおりです。主に科研費や委託研究などを受け入れる際の手続きになります。
◯日本学術振興会の HP でマニュアルや通知文を把握する。
委託研究がある場合には科学技術振興機構(JST)や、資金配分元のマニュアルを把握する。
◯資金配分元のマニュアルや通知文を把握した後に、自分の組織の規則を把握します。
産学連携担当に必要な勉強方法は次のとおりです。共同研究契約書における知的財産権の取扱いは会計法令に記載されていません。そのため知的財産権の基礎的な知識が必須です。
◯知的財産管理技能検定の勉強をする。
◯知的財産管理技能検定2級を取得したら弁理士試験の勉強をする。
研究協力担当と産学連携担当の次は、どこへ異動すると勉強になるか
産学連携は、広い概念では研究協力担当に含まれます。そのため研究協力担当と産学連携担当の両方の仕事を覚えると、とても大きなメリットになります。研究協力担当であれば、次は産学連携担当への異動を希望しましょう。産学連携担当であれば、次は研究協力担当を希望しましょう。両方とも国立大学の中では特殊な分野になるので、知識を持っていると色々な場面で活用できます。
研究協力担当と産学連携担当の両方の仕事をマスターしたら、次に希望したい分野は契約担当です。契約担当は、実際に研究費を使用する部署です。研究費を受け入れてから、実際に使用するまでの全てを経験することができるので、契約担当への異動を希望しましょう。
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