官公庁の契約実務:契約書の取り交わし方と作成・押印の正しい手順

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契約書の取り交わし方 契約手続き
契約書の取り交わし方
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官公庁の会計実務において、契約書の取り交わしは非常に重要な手続きです。

国民の貴重な税金を原資として事業を実施する以上、民間企業との取り引きは法令に基づいて適正かつ安全に行われなければなりません。

しかし、初めて契約担当に配属された際、契約書をどのような手順で作成し、どのような順番で押印をもらい、収入印紙をどのように取り扱うべきか、具体的に教えてもらえる機会は少ないのが実情です。過去のファイルを見ても、すでに完成した契約書が綴じられているだけで、そこに至るまでの交渉経緯や作成のプロセスは読み取れません。

本記事では、官公庁の契約実務担当者に向けて、契約書の案文作成から条文の修正協議、内部決裁、押印の順番、そして収入印紙の取り扱いや請書との違いに至るまで、実務に直結する具体的な手順をわかりやすく解説します。会計法令や契約事務取扱規則などのルールに基づき、なぜそのような手続きが必要なのかという本質的な理由もあわせて説明します。これらの基礎知識を身につけることで、日々の事務処理に自信を持ち、予期せぬトラブルを未然に防ぐことができるようになります。

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官公庁における契約書の取り交わし方と作成手順

官公庁が民間企業と契約を締結する際、原則として契約書を作成し、双方で記名押印し取り交わすことが求められます。(会計法 第29条の8、地方自治法 第234条)

これは、口頭での合意のみで契約が成立する民法の原則に対し、税金を適正に使用し、後日のトラブルを防止するため、より厳格な手続きが規定されているからです。

契約書の作成は、過去の類似案件のひな形を利用することが多いですが、新規の契約や複雑な案件では、ゼロから案文を作成し、相手方と協議を重ねる必要があります。

契約書の案文(たたき台)作成

今までに類似の契約が存在しない場合は、契約書の案文から作成することになります。契約書の案文、いわゆる「たたき台」を作成することです。

案文の作成は官公庁側が行うこともあれば、民間企業側が行うこともあります。

実務上は、過去の契約実例やひな形を多く保有している官公庁側が案文を作成し、相手方に提示するケースが一般的です。

もし民間企業側が特定の分野で豊富な実績を持っている場合は、企業側に案文の作成を依頼した方が効率的に進むこともあります。

案文を作成する際は、Wordファイルなどの文書作成ソフトを使用し、電子メールに添付して相手方に内容の確認を依頼します。

このとき、非常に重要なのが「変更履歴の記録」機能をオンにしておくことです。

契約書の条文は一字一句が重要な意味を持ちます。

相手方がどこをどのように修正したのか、そしてその修正理由は何なのかを可視化しておかなければ、意図しない条件変更を見落としてしまう恐れがあります。

変更履歴を残すことで、双方の交渉プロセスが記録として残り、後日の確認や引き継ぎの際にも大いに役立ちます。

担当者間での条文の修正協議

案文を提示した後は、双方の担当者間で条文の修正協議を行います。

一般競争入札のように、あらかじめ官公庁側が提示した契約条件に同意した者だけが参加する方式とは異なり、随意契約や共同研究契約などでは、双方が対等な立場で契約内容をすり合わせる必要があります。

相手方から「この条文では自社の規定上、合意できない」といった修正要望が寄せられることは珍しくありません。

協議を進める際のコツは、単に相手の要望を拒否するのではなく、どのような表現であれば双方が合意できるか、前向きな代替案を提示し合うことです。

修正の理由や背景については、メールの本文やファイルのコメント機能を活用して明確に記録に残します。

口頭だけのやり取りでは言った言わないのトラブルになりやすいため、可能な限り書面や電子データとして交渉の経緯を保存しておくことが実務上の鉄則です。

この担当者レベルでの事前協議をしっかりと行い、ある程度の合意形成を図っておくことで、次のステップである内部決裁をスムーズに進めることができます。

内部決裁と正式な契約書作成

担当者間で契約書の案文について合意ができたら、その案文と交渉経緯をまとめた資料を添付し、上司などの契約締結権限を持つ者へ契約締結伺いとしての内部決裁に回します。

決裁の過程で、上層部から条文の一部修正を指示されることもあります.

その場合は、再度相手方の担当者に修正内容と理由を丁寧に説明し、改めて合意を得る必要があります。

決裁の途中で赤字などで修正が加えられた契約書案文は、単なる下書きではなく、組織としての意思決定の過程を示す重要な公式記録です。

なぜその条文が修正されたのか、誰の判断でどのような理由に基づくものかを示す証拠となるため、決裁完了後も破棄せずに必ず保存しなければなりません。

すべての決裁が完了し、最終的な契約書の文面が確定したら、いよいよ正式な契約書を印刷します。

通常、契約当事者それぞれが保管するため、同じ内容の契約書正本を2通作成し、仕様書や図面などの関係資料をまとめて製本(袋とじ)します。

袋とじを行うことで、契約書の一部が抜き取られたり差し替えられたりする改ざんを防ぐことができます。

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契約書の押印の順番とルール

正式な契約書が完成し、契約年月日を相手方と調整した後は、記名押印の手続きに移ります。

官公庁の契約実務において、契約書へ押印する順番には明確なルールが存在します。

このルールを知らずに官公庁側から先に押印してしまうと、取り返しのつかない事態を招く恐れがあります。

なぜ民間企業から先に押印するのか

契約書の押印は、必ず相手方である民間企業側から先に行ってもらいます

官公庁側は相手方の押印が完了した契約書を受け取り、最後に内容を最終確認してから公印を押します。

この順番は、国の契約事務取扱規則 第14条や、地方自治体の契約事務に関する規則などで明確に定められています。

民間企業側から先に押印を求める最大の理由は、国民の税金を原資とする契約の安全性を確保し、官公庁側が最終的な決定権を持つためです。

契約当事者が遠方にいる場合など、郵送で契約書を取り交わすケースでは、官公庁側が先に押印して相手方に送付してしまうと、郵送中や相手方の手元にある間に、悪意を持って契約書の金額や条件を官公庁側に不利な内容に書き換えられてしまうリスクがゼロではありません。

物理的に文字を加筆・修正することは可能だからです。

しかし、民間企業側が先に記名押印した契約書を受け取り、官公庁側がその内容に書き換えがないことを最終確認した上で公印を押せば、その後に内容が改ざんされる余地はありません。

官公庁側が手元で保管する1通は、確実に正しい内容のまま保護されます。

公印の不正使用と改ざん防止

また、公印の不正使用を防止するという観点からも、官公庁側が最後に押印することは極めて重要です。

もし官公庁側が先に公印を押した契約書を相手方に渡してしまった場合、その公印が押された書類が別の不正な目的に流用されたり、偽造の材料にされたりする危険性があります。

大企業などとの取り引きにおいて、相手方の社内規定を理由に「そちらから先に押印したものを送ってほしい」と求められることが稀にあります。

しかし、官公庁の契約担当者は、法令や規則で定められた手順であることを毅然と説明し、理解を求めなければなりません。

相手方の都合に合わせて順番を逆にしてしまうと、公金を取り扱う者としての責任を問われることになります。

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収入印紙の取り扱いと電子化のメリット

契約書を取り交わす際、印紙税法に基づく収入印紙の貼付が必要になることがあります。

印紙税の取り扱いについても、官公庁特有のルールや近年の電子化に伴う変化を正しく理解しておく必要があります。

電子メール(PDF)添付は印紙不要

近年、事務の効率化や新型コロナウイルス感染症対策などを背景に、契約書や請書を紙に印刷せず、電子署名や、PDFなどの電子ファイルに変換して電子メールで取り交わすケースが増加しています。

この電子データによる契約の取り交わしにおいて最大のメリットは、印紙税が不要になるという点です。

国税庁の見解によれば、印紙税は紙などの現物の文書を作成し交付した場合に課税されるものであり、電磁的記録に変換して電子メールなどで送信しただけであれば、課税文書を作成したことにはならず、印紙税の課税原因は発生しないとされています。

つまり、民間企業側が自社で電子ファイルとして請書や契約書を作成し、それを電子署名や電子メールで官公庁側に送信して完結する場合、民間企業側は収入印紙を貼る必要がありません。

官公庁側は、受信した電子ファイルを内部の決裁用や保存用に紙に印刷することがありますが、これは相手方から現物の交付を受けたわけではないため、印刷した紙に収入印紙を貼る必要はありません。

この仕組みを理解し、適切に電子化を推進することで、相手方の金銭的負担を軽減し、手続きを迅速化することができます。ただ注意が必要なのは、各組織によって契約書の電子化を認めているか確認が必要です。組織によっては契約書は紙のみ」としている場合もあります。電子化の怖いところは、一瞬でデータが消えてしまうことです。ランサムウェアなどのサイバー攻撃などを考えると、やはり、一番安全なのは紙ベースの契約書です。

官公庁の非課税と相手方の印紙税負担

紙の契約書を取り交わす場合の印紙税の負担についても確認しておきましょう。

印紙税法上、国や地方公共団体は非課税法人です。

そのため、官公庁と民間企業が契約書を2通作成して取り交わす場合、官公庁が保管する目的で民間企業が作成する1通には、民間企業側が収入印紙を貼付する必要があります。

一方で、民間企業側が保管する目的で官公庁が作成するもう1通については、官公庁は非課税であるため収入印紙を貼る必要はありません。

また、どのような契約に収入印紙が必要になるのかも重要です。

請負契約(工事や製造、あるいは一定の成果物の完成を目的とする委託契約、役務契約など)に該当する場合は、印紙税の対象となります。

しかし、単なる物品の売買契約であれば、現在は印紙税はかかりません。

相手方の営業担当者から「この契約には収入印紙が必要ですか」と質問された場合、官公庁側から明確な税務判断を回答することは避けるのが無難です。

契約の内容が請負に該当するかどうかの判断は難しく、誤った案内をしてしまうと相手方に過怠税が課されるなどの迷惑をかけることになります。

不明な場合は、相手方自身で所轄の税務署や国税庁のウェブサイトで確認してもらうよう案内するのが適切な対応です。

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請書と契約書の違い、使い分けのポイント

官公庁の契約実務では、正式な契約書のほかに「請書」という書類を扱う機会が多くあります。

契約手続きを効率的に進めるためには、契約書と請書の違いを法的な効力と金額基準の面から正しく理解し、適切に使い分けることが求められます。

請書とは?法的強制力の違い

請書とは、民間企業側が官公庁側に対して「提示された条件で契約をお請けします」という意思表示をするために提出する、一方的な誓約書です。

読み方は「うけしょ」です。

契約書は、官公庁と民間企業の両者が記名押印し、お互いの権利と義務を文書で明確に約束するものです。

万が一、相手方が契約どおりに履行しなかった場合には、契約書を根拠として違約金や損害賠償を請求するなど、強い法的な強制力を持ちます。

これに対して請書は、相手方が一方的に提出するだけの書類であるため、契約書と同等の強い強制力はありません。

例えば、相手方の都合で納品が遅れた場合、請書を受け取っているだけでは「官公庁側からの正式な発注があったとは認識していなかった」と言い逃れされるリスクがゼロではありません。

そのため、請書を受理した際には、官公庁側から「正式な発注になりますので、納品の準備をお願いします。」など、契約の確認を電話やメールで確実に伝え、双方の認識を一致させておく必要があります。

このような性質の違いから、請書を利用するのは、万が一契約が不履行になっても大きな損害やトラブルに発展しない、比較的軽微で単純な契約に限られます。重要でない契約の場合に、請書を用います。

契約書を省略できる基準額

すべての契約で契約書を作成するのは膨大な手間がかかるため、会計法令では一定の金額以下の契約については、契約書の作成を省略し、代わりに請書を徴取することを認めています。

国の予算決算及び会計令 第100条の2では、契約金額が250万円以下の場合において、契約書の作成を省略できると規定されています。

また、地方自治体については、各自治体の規則によってこの基準額が異なっています。

例えば、ある自治体では150万円以下、別の自治体では100万円以下といったように、それぞれの組織の規模や事務処理体制に応じて設定されています。

自身が所属する組織の規則を必ず確認しておく必要があります。

さらに、国の契約事務取扱規則などでは、契約金額が少額であり「特に軽微な契約」に該当する場合は、請書の提出すらも省略できるとされています。

この軽微な契約の基準額も、各省庁や組織の内部規則によって数十万円以下などと具体的に定められています。

ここで注意しなければならないのは、基準額以下であれば常に契約書を省略してよいわけではないということです。

契約金額の大小に関わらず、個人情報を取り扱う業務、現金の輸送を伴う業務、複雑な権利関係が絡む業務など、ミスや不履行が許されない性質の契約においては、相手方に対する義務と責任を明確にするため、必ず正式な契約書を作成して取り交わす必要があります。

業務の効率化と契約の安全性のバランスを見極めることが、契約実務担当者としての重要な役割です。

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