国や地方自治体における契約手続では、「随意契約が可能な案件」であっても、法令上は一般競争入札も可能です。
しかし、実際の現場では「随意契約でよいとされているのに、なぜわざわざ入札に?」と疑問を抱く担当者も少なくありません。
この記事では、随意契約と一般競争入札の違いや基本的な仕組み、法令で定められた随意契約の適用条件、実務での判断基準、手続き上の注意点、そして受注側(民間企業)の立場からの対応方法までを、初心者にもわかりやすく解説します。
随意契約と入札方式のどちらを選ぶかは、単に法令上の話ではなく、「業務の効率性、公平公正性・透明性」といった多角的な観点から、総合的に判断されるべき重要な選択です。本記事を通じて、制度の理解を深め、より適切な契約手続のあり方を考えてみましょう。
随意契約と一般競争入札の基本知識
官公庁における契約業務では、契約方式をどう選ぶかが非常に重要です。特に、「なぜ随意契約が例外的な位置づけなのか」「一般競争入札が原則とされる理由は何か」など、制度の背景を理解しておくことで、実務で迷わず適切な判断ができるようになります。
ここではまず、契約方式の種類と、それぞれの特徴、メリット・デメリットをわかりやすく解説します。

契約の打ち合わせ
契約方式の種類(一般競争入札・指名競争入札・随意契約)
官公庁の契約には、大きく分けて以下の3つの方式があります。
一般競争入札
一般競争入札は、すべての業者に平等な参加機会を与える「最も基本的で原則的な契約方式」です。入札公告により広く募集を行い、希望する事業者は資格審査を経て、入札に参加します。落札者は、通常「最低価格」で決定されます。(資格審査は、登録制度に近い形式です。普通の会社であれば審査に合格し、会社の規模を示す等級 A~Dが格付けされます。)
指名競争入札
指名競争入札は、あらかじめ発注機関が選定した複数の業者(10社程度)に対してのみ入札を実施する方式です。過去の実績や信頼性をもとに選ばれた業者が参加できるため、一定の品質や実行能力が見込まれます。ただし、選定の過程がブラックボックス化しやすく、透明性の確保が課題とされます。品質を重視する工事契約に多い契約方式です。
随意契約
随意契約は、特定の1者または少数の業者(通常は3社)とのみ価格交渉し、契約を締結する方式です。官公庁においては、「例外的な方法」として位置づけられており、法令や規則で定められた要件を満たす場合にのみ選択可能です。契約金額が小さい少額案件や緊急案件、技術的に他に代えがたい業務などが主な対象となります。
随意契約とは? 意味・メリット・デメリット
随意契約の意味
随意契約とは、入札手続きを行わず、発注機関が任意に1~3社の契約相手を選んで直接契約を締結する方式のことです。国や地方自治体の契約実務においては、「価格競争が難しい場合」や「少額であるため入札に不向きな場合」などに限って適用が認められています。
たとえば、契約金額が小さい場合、「見積書を3社から取って、安い会社と契約する」ケースなどは、随意契約に該当します。
メリット
業務の効率化を最優先できる、手続きが簡素で迅速
公平な仕様書の作成、入札公告の掲載、資格審査、開札、といった煩雑な手続きが不要なため、契約までのスピードが早いです。特に突発的な災害対応や設備の緊急修繕など、迅速性が求められる場面で有効です。一般競争入札は、手続きに2か月以上必要ですが、随意契約なら1週間ほどで契約可能です。業務の効率化を考えるなら随意契約が圧倒的に有利です。
過去の実績や信頼関係を活かせる
継続的に依頼している業者との間で、業務の理解や信頼関係が築かれている場合、円滑な契約実施が可能です。会計法令を理解している会社であれば、官公庁側が細かく指示しなくても、公平・公正で透明性のある契約が可能です。信頼のある契約の相手方は、自社の利益よりも官公庁側の利益を優先します。
技術的な特殊性がある案件に対応しやすい
特定の技術力やノウハウを持つ事業者でなければ対応できない業務には、随意契約が適しています。特許権や著作権などの排他的権利を持つ会社とは、随意契約が有利です。
デメリット
透明性の確保が難しい
特定業者とのみ契約することが前提となるため、外部からは「なぜその業者を選んだのか」が見えにくく、不正の温床になりやすいという指摘もあります。随意契約では、契約の相手方を選んだ経緯が曖昧になりやすいです。一般競争入札であれば、入札公告を見て誰でも参加でき、価格競争で最安値の者が契約の相手方になるので、疑問の余地がありません。入札の経緯も参加者だけでなく、落札者が一般公開されます。
価格競争が働かない
入札ではないため、最も安い価格を提示する業者を選ぶ仕組みがありません。その結果、契約金額が相場より高くなる可能性があります。ただ注意したいのは、官公庁側で設定した予定価格の範囲内で契約するため、契約金額が割高になるという批判は当たりません。予定価格は、過去の契約実績や直近の市場価格などを基に設定する取引価格です。つまり随意契約であっても予定価格の範囲内で契約するので「適正な契約金額」であることに変わりません。
業者が固定化しやすい
特定業者に依存する状態が続くと、他の事業者が入り込む余地がなくなり、競争性やサービスの質が低下する懸念があります。
一般競争入札とは? 意味・メリット・デメリット
一般競争入札の意味
一般競争入札は、入札公告により不特定多数の事業者に参加を呼びかけ、その中から最も有利な価格を提示した業者と契約を締結する方式です。官公庁における「最も公平・公正かつ透明な方法」です。
入札公告の公開後、参加希望者は資格審査を受けて入札に参加し、予定価格の制限内で最も有利な入札金額を提示した者が落札者に決定します。誰に対しても平等に参加機会があるわけです。
メリット
公平性・公正性・透明性が確保される
すべての業者に参加機会が与えられることで、公平な競争の場が保証されます。また入札手続きは、仕様書の作成や公告の掲載期間など会計法令に基づくので、公正性が担保されています。全ての書類手続きが公開されており、透明性が確保され、説明責任も果たしやすくなります。
コスト抑制効果がある
価格競争が働くことで、相場より安く契約できる可能性が高まり、予算の有効活用につながります。
中小企業にもチャンスがある
参加条件を満たせば、規模の小さな事業者でも実力(価格だけ)で勝負することができ、受注のチャンスが広がります。
デメリット
手続きが煩雑で時間がかかる
競争性を確保した仕様書の作成、入札公告の掲載、審査、開札、落札決定といった一連の手続きが必要で、契約の相手方を選ぶまでに2か月以上必要になります。手続きに長期間かかるため、その間の人件費や業務負担を考慮すると、契約金額の小さい少額案件や緊急性のある案件には不向きです。例えば、十分な検討時間を確保しないと、公平な仕様書は作成できません。
最低価格優先による品質低下のリスク
価格競争が激しくなると、価格だけを重視した無理な入札が横行し、品質やアフターサービスが犠牲になる場合があります。品質を確保するためにも、仕様書を細かく設定しなければならないのです。初めて参加する業者は、仕様書に書いてある内容しか契約できないのです。
参加できる業者が限られる場合もある
一般競争とはいえ、必要な参加資格が設定されています。要件を満たさない業者は参加できないこともあります。

契約の打ち合わせ
契約方式の選定は、「公平公正性・透明性」と「迅速性」のバランスをどう取るかがカギとなります。
一般競争入札は原則的な方式であり、公平・公正でありながら価格抑制効果も期待できる優れた手法ですが、手続きに時間がかかるという欠点もあります。
一方、随意契約は例外的手段として、少額・緊急・専門性が高い場合などに使われますが、公平性、公正性、透明性の確保と価格妥当性の担保が必須です。
法令で定められた「随意契約できるケース」
契約方式として原則とされるのは「一般競争入札」ですが、例外的に「随意契約」が認められるケースも法令で明確に定められています。随意契約は公平・公正性や透明性に欠けるため、その適用範囲は厳しく限定されており、事前に該当する条件を正確に理解しておくことが重要です。
ここでは、主な5つの随意契約が許容されるケースについて、それぞれの背景や判断基準を詳しく解説します。
少額随意契約(法令で認められている上限金額)
随意契約が最もよく用いられるのが、少額の契約です。これは、契約金額の小さい少額案件に対して、一般競争入札を実施するには業務負担が大きく、費用対効果が低くなることから、一定の金額以下であれば競争手続きを省略できるものです。業務効率化を目的にしています。
例えば、20万円のノートパソコンを購入するだけなのに、2か月も書類を作成していたら、職員の人件費の方が高くなってしまいます。それこそ税金の無駄遣いです。
随意契約が可能な金額(予算決算及び会計令 第99条)
2025(令和7)年4月1日から、随意契約可能な範囲が大幅に引き上げられました。従前に比べ、業務が効率的になっています。
契約の種類 | 金額上限 |
---|---|
工事・製造 | 400万円以下 |
物品購入 | 300万円以下 |
役務 | 200万円以下 |
財産売り払い | 100万円以下 |
物件の借り入れ | 150万円以下 |
物件の貸付け | 50万円以下 |
なお、地方自治体や独立行政法人などでは、上限金額が組織ごとに異なることがあります。それぞれの条例や規則で上限金額を定めています。
緊急性のある随意契約
自然災害や大規模な事故など、時間との勝負となる場面では、入札手続きによって対応が遅れると重大な損害が発生するおそれがあります。こうした場合には、緊急性に基づく随意契約が認められています。人命や国民の財産が危険にさらされていて、時間的な余裕がない場合です。現場写真や新聞などのマスコミ報道の記事を契約書類と一緒に保存します。
たとえば、次のようなケースが該当します。
* 地震や豪雨などの大災害により、家屋や道路の緊急復旧が必要なとき
* 医療機器の突発的な故障により、迅速な修理や代替機の調達が必要なとき
* 学校施設や公共施設での水漏れや電気系統の故障など、緊急の安全確保が最優先となるとき
重要なのは、緊急性を示す「客観的な証拠」が必要になることです。災害発生時の写真、マスコミ報道などの関係資料を保存します。誰が見ても「緊急に契約しなければならない」と判断できる状況です。もし誰かが「緊急性に疑問がある」と考える状況であれば該当しません。うるさい上司が「すぐに契約しろ!」と言っても該当しません。

契約の打ち合わせ
競争性がない随意契約:価格競争できない契約
契約内容が極めて専門的であったり、高度な技術力や独自のノウハウが必要とされる場合には、他の業者では対応できないこともあります。特許権や著作権などの排他的権利を用いるしか契約の目的が達成できない状況も、随意契約が可能です。価格競争できる相手が存在しない場合です。
価格競争が適切でない場合として、2025年5月に小泉農林水産大臣が、備蓄米を随意契約で放出した例が典型です。わずか1年で主食の米の価格が2倍以上になり、国民全員が困っていました。備蓄米の放出(売り払い契約)を競争入札していたら、価格はどんどん上がり逆効果です。また、小泉大臣は、随意契約の内容をわかりやすく公開しており、随意契約の欠点である透明性、公平・公正性もすべてクリアしています。国民を助けるための政府契約の模範例です。
典型的な例
特許技術に基づく機器の修理やメンテナンス(代理店等がない場合)
著作権のあるソフトウェアの保守契約
特定の工法や設備が求められる契約
米の異常高騰を抑えるための、備蓄米放出の売り払い契約
このような価格競争できない、あるいは価格競争が適切でない場合が「競争性がない随意契約」に該当します。
根拠法令は、予算決算及び会計令 第102条の4 第1項 第3号で次のように定められています。
三 契約の性質若しくは目的が競争を許さない場合又は緊急の必要により競争に付することができない場合において、随意契約によろうとするとき。
入札不調の場合(不落随契)
一般競争入札を実施したものの、入札参加者がいない、入札金額が高くて落札できない、全社が辞退札を提出して契約が成立しなかったとき、再度公告して入札する時間がない場合は、随意契約に切り替えることができます。落札者がなかった場合を入札不調(にゅうさつ ふちょう)といい、価格交渉に切り替えて随意契約を締結することを不落随契(ふらく ずいけい)といいます。
この際に重要なのは、次の2点です。
1. 入札が不調になったという事実
2. 随意契約への移行が必要であるという合理的説明
この不落随契は、入札時に設定した予定価格以内で価格交渉することになります。多くのケースでは、入札参加者の努力によって契約ができますが、まれに、採算が合わないなどで価格交渉がまとまらないこともあります。価格交渉できなければ、再度、入札を一からやり直すことになります。再度公告入札であれば、仕様書や予定価格を見直すことも可能です。予定価格が安すぎて落札者がいないのであれば、市場価格を再調査し、予定価格を高く設定することになります。
運送・保管など特殊条件の契約
次のような特殊な状況下では、随意契約の適用が認められます。
JRなど、特定の範囲を運送する事業者が1社しかない場合
特定の場所で保管する必要があり、その保管業者が1社しかない場合
こうしたケースでは、地理的問題から、契約の相手方が1社に限定されることから、随意契約が認められています。ただし、外部監査や議会などによる説明責任は厳しく求められる領域でもあります。
まとめ|随意契約が認められる代表的な5つの法定ケース
ケース分類 | 主な内容 |
---|---|
少額契約 | 契約額が一定額以下であれば、入札を行わず随意契約が可能 |
緊急対応 | 災害、事故など、即時対応が必要な場面 |
競争性がない | 特許・著作権、価格競争できない業務 |
不落随意契約 | 入札不調で落札者がなかった場合 |
運送保管契約 | 地理的な条件で契約相手が1社の場合 |
主な随意契約を解説してきました。根拠法令は、予算決算及び会計令 第99条、第102条の4、地方自治法施行令 第167条の2で定められています。国の予算決算及び会計令と、地方自治体の地方自治法施行令では、若干の違いがありますが、法令の趣旨は同じです。
「随意契約可でも一般競争入札すべきか?」の視点
契約担当者の多くが直面する疑問の一つが、「随意契約が認められている範囲でも、あえて一般競争入札を実施してもよいのか?」という点です。法令上は随意契約が可能でも、実務上の判断としては競争入札を選択しても問題ないのでしょうか?
ここでは、「一般競争入札が原則」という基本ルールを踏まえたうえで詳しく解説します。

文部科学省
原則論として「一般競争入札が原則」⇒随意契約は例外
まず大前提として、官公庁における契約の基本原則は「一般競争入札を行うこと」です。これは、国の会計法や地方自治法、さらには各機関が定める契約規則にも共通して明記されています。
一般競争入札原則の背景と意味
国民の税金を使って契約する以上、手続きの公平・公正性と透明性が求められる
すべての事業者に公平な機会を与えることで、競争による価格の抑制が期待できる
国民の理解と信頼を得るためにも、選考過程が開かれたものである必要がある
このような考え方に基づき、随意契約は「例外措置」とされており、基本的には避けるべきものと位置づけられています。
任意で一般競争入札できるか? 問題点と実務上の意味
一般競争入札は「いつでも」選べる?
随意契約の要件を満たしていても、競争入札を実施すること自体に法令上の問題はありません。むしろ、公平・公正性や透明性など、説明責任を重視する昨今の行政実務においては、「あえて入札を行う姿勢」が高く評価される場合さえあります。
ただし、以下のような点には注意が必要です。
少額案件では、手続きが煩雑になり、費用対効果が悪化することがある
少額随意契約は業務の効率化を目的としているので、あえて入札する理由が必要になる
仕様書の作成、入札に関する公告や審査資料の作成、審査委員の招集など、付随する業務量が劇的に増加する(少額な契約で技術審査すれば、入札参加者だけでなく、審査委員からも疑問視されるでしょう。なにか不正を隠す意図があると疑われるかもしれません。)
つまり、随意契約が可能な範囲(少額随契適用できる状態)で、一般競争入札することは、法令上は問題ではありませんが、次のような問題を抱えます。実務上、少額随契可能であれば一般競争入札すべきでありません。

契約の打ち合わせ
① 手続きに時間と労力がかかる
特定業者などに偏らない公平な仕様書の作成、入札公告書類の作成、技術審査、予定価格の作成、開札の実施など、入札には多くの事務手続きが必要です。これにより、担当者の負担が増え、他の業務に支障が出る可能性もあります。官公庁側だけでなく、入札参加業者にも同じように負担が増えます。
② 対応の遅れにつながる恐れ
特に災害などで緊急性のある業務では、入札手続きが対応を遅らせる要因となることがあります。入札公告から開札、契約締結までには一定の期間を要するため、即時対応が難しくなることも。人命が失われたら取返しがつきません。人命に影響するような場面では入札すべきではありません。
③ 結果が不調に終わることもある
入札を実施しても、参加者が現れなかったり、入札価格が予定価格を超えた場合には不調となり、再度やり直しになるケースもあります。これにより、かえって時間と労力を浪費することもあり得ます。もし入札をやり直す事態に陥れば、3~4か月以上、無駄な時間を過ごすことになります。入札不調は、入札の失敗です。それだけで税金の無駄遣いになってしまいます。極力避けなければなりません。
実務的手続きのポイント
随意契約や一般競争入札の可否を判断する際には、法的な要件だけでなく、発注者としての実務的な運用判断が求められます。ここでは、契約方式の選定、再度入札から随意契約への移行まで、現場で必要とされる具体的な手続きを解説します。

金融庁
発注機関(官公庁側)の判断基準と検討プロセス
契約方式を決めるにあたっては、以下のようなステップで検討が行われます。
① 契約内容の整理と法的分類
まず、契約しようとする内容(物品購入、役務提供、工事など)と、予定契約金額、競争性の有無を明確にします。これにより、適用可能な契約方式の選択肢が絞られてきます。契約方式(入札と随意契約)によって作成する書類が異なるので、最初に契約方式を決めなければなりません。
② 法令や規則との照合
会計法、地方自治法施行令、予算決算及び会計令、そして組織の規則に照らして、「随意契約が法的に認められるかどうか」を最初に判断します。
③ 競争性確保の方針確認
随意契約であっても、透明性を担保するため、「可能な限り競争的な方法で契約できるかどうか」を必ず検討します。たとえば、複数の見積書を取得できないか、模索します。
④ 上司との事前協議
契約方式を確認するときは、必ず、直属の上司の意見を参考にします。担当者だけで判断してしまうと、「癒着」を疑われてしまいます。少額随意契約とするのか、入札とするのか、参考見積書や定価表、過去の実績、ネット上の価格資料などを基に、根拠法令を上司へ相談し、契約方式を最終確認することが重要です。

契約の打ち合わせ
見積もり合わせ(3社の見積書取得)
少額随意契約を選ぶ場合であっても、可能な限り複数の事業者から見積書を取得し、金額を比較して、競争性を担保することが求められます。
① 見積業者の選定
過去の取引実績、官公庁との取引実績のある事業者を複数ピックアップし、見積書の依頼を行います。公平・公正性の観点から、なるべく偏らないように見積書を依頼します。官公庁との取引実績のある会社は、会計法令も理解しており、適正な契約手続き(書類の提出など)に迅速に対応できるので安心です。実績のない会社は、会計法令を無視したり、(まだ発注していないのに納品するような悪質業者さえ存在します。)注意が必要です。
② 見積条件の統一
各事業者に対しては、同じ仕様書・納期(契約完了期限)・支払条件で見積書を依頼しなければなりません。条件が不統一であれば、価格比較ができず、適正な判断が困難になります。初めて取り引きする会社の営業担当者は、良かれと思って、余計なオプション類を追加してしまうので確認が必要です。
③ 見積内容の比較・評価
見積もり合わせは、見積金額を比較し、最も有利な者と契約するものです。随意契約では、最初に信頼できる会社を選ぶので、金額以外の部分は比較対象にはなりません。なお、民間企業同士の取り引きでは「相見積、合見積、あいみつ」という表現で複数の見積書を指しますが、官公庁では談合を疑われることがあるので注意しましょう。官公庁では、複数の見積書を比較する行為は「見積もり合わせ」です。
受注側(民間企業)の視点
官公庁との契約は、企業にとって安定的な収益源であると同時に、信頼性や実績を高める絶好の機会でもあります。しかし、随意契約と一般競争入札ではアプローチが異なり、それぞれに戦略と心構えが必要です。ここでは、民間企業が随意契約や入札機会を得るために意識すべき実務ポイントを詳しく解説します。
随意契約を狙うための事前準備(技術力、実績、信頼構築)
随意契約は、法令で定められた例外的な手続きです。したがって、受注側企業が随意契約の相手先として選定されるためには、「この企業でなければならない」と判断されるだけの根拠と信頼が必要です。
技術力の明示と専門性の強化
・専門技術や特許技術、特殊機材の保有など、他社と差別化できる技術的優位性を持っていることが随意契約の大きな根拠となります。
・技術者の資格・研修・保守対応体制も含めて、提案資料や会社案内で積極的にアピールしましょう。
実績の蓄積と開示
・過去に官公庁との取引実績がある場合、それを一覧化して提示できるようにしておくと、評価につながります。
・特に「同一業務」「同一機関」「類似規模」の実績は効果的です。
信頼構築とコミュニケーション
・官公庁の担当者と日頃から良好な関係を築くことも重要です。ただし、書類の形式や会計法令などのルールを逸脱しないことが最重要です。他社を批判するような言動は慎みましょう。クレームの多い営業担当者と見做されてしまいます。
・業務完了後の報告書やトラブル対応の丁寧さが、次の契約機会にもつながります。
一般競争入札への参加を通じて段階的に機会を拡大
随意契約を狙うにしても、まずは一般競争入札への参加から信頼と実績を積むことが王道です。初期の入札参加で地道にステップアップしていく戦略が、最終的に随意契約の対象になる近道でもあります。
官公庁の営業担当者は、落札できない場合でも、営業担当者の言動を見ています。書類が迅速にミスなく提出できれば、少額随意契約での見積書提出依頼のチャンスが広がります。笑顔と丁寧な言葉遣いもポイントです。いいかげんな対応の営業担当者へは、見積書の依頼はしません。
入札参加資格の取得と維持
・ほとんどの官公庁では、入札参加には「競争参加資格」の審査が必要です。審査を受けることで名簿に登載されます。
・入札参加資格の名簿に登載されることは、一般社会で認められている会社であることの証明です。参加資格者名簿を見て「見積もり合わせ」の依頼が来ることもあるので契約の機会も広がります。
小規模案件からチャレンジ
・最初は少額の物品納入や小規模役務(清掃、印刷、修理点検など)の案件で実績を作り、徐々に規模を拡大していく戦略が有効です。
・案件に対する理解、書類作成スキル、担当者との信頼関係もここで築けます。
提案力と応札スキルの向上
・単に価格を下げるだけでなく、提案書やプレゼン資料の充実によって評価点を高める工夫が必要です。営業担当者が困っているときは、積極的に対応し、利益にならなくても他社を紹介するくらいの行動力が必要です。自社の利益にならなくても、官公庁側の利益を優先している姿勢は、信頼度が最も高くなります。
まとめ|随意契約と一般競争入札の最適な使い分けとは?
官公庁における契約実務では、法令により「随意契約が認められる条件」があります。また、随意契約と一般競争入札は、それぞれに特性と利点・欠点があり、状況に応じた適切な判断が求められます。

契約の打ち合わせ
最初に「随意契約できる」か判断する
随意契約は、業務を最大限効率化できます。手続が簡素でスピーディーに契約できる反面、「なぜこの業者なのか」という疑念が生じやすい手法です。特に近年では、公平性・公正性・透明性といった観点から、随意契約への注目と監視が高まっています。
そのため、随意契約を選ぶ場合には、次のような観点から冷静に判断する必要があります。
総合的な判断が求められる4つの視点
視点 | 内容 |
---|---|
契約予定金額が少額か | 法令で認められた金額以下の契約か |
見積もり合わせ実施 | 3社から見積書を取り寄せて比較したか |
見積もり合わせの偏り | 3社からの見積書は、いつも同じ会社ではないか |
競争性がない場合 | 誰が見ても競争できない状態であるという資料を保存したか |
これらの視点を考え、随意契約が最も適しているのかを総合的に判断することが重要です。
実務担当者に求められる姿勢
1. 「選択の根拠」を常に説明できること
随意契約を選んだ場合は、その理由と判断の経緯、判断材料の書類を文書で整理し、いつでも説明できるように準備しておく必要があります。保存する契約関係書類には、根拠法令を明示しておきます。
2. 上司へ必ず相談すること
契約方式の選定は、担当者ひとりが判断してはいけません。直属の上司へ必ず相談し、確認をしておきます。担当者としては上司の了解を得た日付をメモしておくことも重要です。官公庁の契約は、組織として行います。担当者ひとりで判断してしまうと「業者との癒着」を疑われます。
3. 事後検査や監査、市民の目線を常に意識すること
「問題が起きてからの説明」ではなく、「問題が起きないようにする」姿勢こそが、現代の契約実務において重視されるポイントです。国民の税金を使うので、当然のことです。
最後に
随意契約と一般競争入札は、対立する制度ではなく、適切に使い分けるべき補完的な手段です。
「手間を減らしたいから随意契約」「慣れているからA社と契約」という安易な理由ではなく、
* 公平・公正性の確保
* 価格の妥当性
* 契約のスピード
* 透明性の維持
これらを常に比較しながら、より納得感のある契約手続を目指していくことが、行政の信頼性を高め、住民の安心感につながるのです。
今後の契約実務においても、「随意契約可能な案件は、業務の効率性を優先」という姿勢が、より強く求められていくでしょう。
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