2025年(令和7年)4月1日、官公庁の契約実務に大きな変化がありました。予算決算及び会計令等の改正により、少額随意契約(少額随契)の上限額が引き上げられたのです。これまで入札が必要だった案件も、よりスピーディーな随意契約で処理できるケースが増えました。
しかし、制度が変わっても「適正な事務処理」が求められることに変わりはありません。「280万円の物品購入」といった具体的な案件を目の前にしたとき、仕様書の作成から支払いまで、どのような手順で進めればよいのか迷うことはありませんか?特に、契約書の作成省略(請書の徴取)が可能かどうかの判断や、見積もり合わせの作法は、会計検査でも厳しくチェックされるポイントです。
この記事では、法改正後の最新ルールに基づき、280万円の物品購入契約を例にして、手続きの全体像をステップバイステップで解説します。実務で使えるポイントを整理しましたので、デスクの横に置いて、マニュアル代わりにご活用ください。
少額随意契約とは?2025年法改正のポイント
官公庁における契約の原則は「一般競争入札」ですが、少額な案件については、業務の効率化を図るために「少額随意契約(少額随契)」が認められています。
2025年(令和7年)4月1日の改正により、この少額随契が可能な上限額(基準額)が引き上げられました。まずは、ご自身が担当する案件が少額随契の対象になるかを確認しましょう。

物品購入契約の上限額変更
国の機関(予算決算及び会計令 第99条)における物品購入契約の少額随契可能額は、従来の「160万円以下」から「300万円以下」へと大幅に引き上げられました。
これにより、今回の例である「280万円の物品購入」は、以前であれば入札が必要でしたが、改正後は少額随意契約として処理が可能となります。地方自治体においても、政令指定都市や都道府県など、国の基準に合わせて上限額を引き上げているケースが多く見られますので、必ず所属する自治体の財務規則等を確認してください。
【実践】280万円の物品購入契約 手続きの全手順
それでは、実際に280万円の物品を購入するケースを想定し、事務手続きの流れを順を追って解説します。全体のフローは以下の通りです。
- 仕様書作成
- 予定価格作成
- 見積もり合わせ
- 請書の徴取(契約の成立)
- 納品時の検収
- 請求書受理と支払い
仕様書作成:すべての基本となる重要書類
最初に行うのが「仕様書」の作成です。これは「何を買うのか」「どのような条件で契約するのか」を明確にするための書類です。
見積もり合わせを行う際、業者によって提示条件がバラバラだと公正な比較ができません。仕様書は、業者に見積もりを依頼する際の共通ルールとなります。
- 品名・規格: メーカー名、型番、数量だけでなく、同等品を認める場合はその要件も記載します。
- 納入期限・場所: いつまでに、どこへ納品するかを明記します。
- 納入条件: 搬入費用や設置作業、梱包材の回収などが含まれるかを定義します。
- 保証期間: 納品後の無償保証期間(例:検収後1年間)を定めます。
仕様書は、後の「検収」や「トラブル対応」の根拠となるため、曖昧さを排除して具体的に記載することが重要です。
同等品を認める仕様書で特に重要な点は、認める範囲を数値で明記することです。20cm以上などの記載が必須です。また、同時に複数の例示品を記載し、例示品であれば同等品であることの審査が不要と記載します。また、同等品を審査する期間は2週間以上必要です。
実務上は、同等品の審査が大変になってしまうので、機種選定理由書により、1~3の機種を選定して競争性を確保し、同等品は認めないことが多いです。
予定価格作成:適正価格を見極める
仕様書ができたら、その契約にかかる費用の目安となる「予定価格」を作成します。
少額随意契約であっても、適正な価格で契約するためには市場価格の調査が欠かせません。インターネットでの価格調査や、業者からの参考見積もり(直近の取引価格)を基に、予定価格を算出します。
- 予定価格調書の作成: 決定した予定価格を記載した調書を作成し、決裁を受けます。
- 消費税の取り扱い: 官公庁の予定価格は通常「消費税込み」で設定します。ただし比較するときは「消費税抜き」です。「見積書比較金額」という項目を設け、税抜き金額を記載しておきます。
この予定価格は、見積もり合わせにおける「上限価格(ガードレール)」の役割を果たします。原則として、この価格以下でなければ契約できません。
見積もり合わせ:複数社比較で公正性を確保
少額随意契約では、特定の1社だけに見積もりを依頼するのではなく、複数の業者(通常3社)から見積もりをとって比較する「見積もり合わせ」が原則です。これにより、競争性と透明性を担保します。
- 業者の選定: 信頼できる業者を3社選定し、仕様書を提示して見積もりの提出を依頼します。
- 見積書の開封・比較: 締め切りまでに提出された見積書を開封し、金額を比較します。この際、比較は「税抜価格」で行います(課税業者と免税業者が混在する場合の公平性を保つため)。
- 業者の決定: 予定価格の範囲内で、最も安価な金額を提示した業者を契約相手方として決定します。
請書の徴取:契約成立の証
相手方が決まったら、契約を確定させます。少額随契の場合は手続きを簡略化するため、「請書(うけしょ)」の提出をお願いすることになります。
契約書省略の基準額に注意
ここで注意が必要なのが、「少額随意契約ができる額」と「契約書を省略できる(請書でよい)額」は必ずしも同じではないという点です。
国の基準(令和7年改正)では、契約書の作成を省略できる範囲も拡大されました。国内での契約の場合、250万円以下(改正前は150万円以下)は契約書の作成を省略できます。(予算決算及び会計令 第100条の2 第1項 第1号)
今回のケースは280万円ですので、契約書の省略が可能ですが、地方自治体などの組織では、規則によっては「少額随契だが、正式な契約書の作成が必要」となる場合があります。
ただし、契約内容が重要な場合(例えば、入場料の収集運搬など)は契約書を省略できないこともあります。ここでは「請書の徴取」で進める前提で解説しますが、必ずご自身の組織の「財務規則」や「契約事務規則」で契約書省略基準額を確認してください。
- 請書の記載事項: 件名、金額、納期、納品場所などが、仕様書および決定した見積内容と一致しているか確認します。
- 収入印紙: 契約の相手方が貼付するものですが、物品の「購入」契約(売買契約)であれば、請書への印紙貼付は不要です。ただし、特注品の製造などが含まれる「請負」の要素がある場合は印紙が必要になることもあるため注意しましょう。判断に悩む場合は、税務署へ確認するよう伝えましょう。
納品時の検収:完了を確認する最重要工程
業者が物品を納品したら、必ず職員による「検収(納品検査)」を行います。これは、納品されたモノが仕様書通りの品質・規格を満たしているかを確認する行為です。
- 現物確認: 型番、数量、傷の有無などを現物で確認します。
- 作動確認: PCや機械類であれば、実際に電源を入れて正常に動作するか確認します。
- 検収の記録: 問題がなければ、受領書へサインして返します。また内部的には納品書に検収サインをしておきます。また、この納品書に基づき、検査調書を作成します。
検収が完了した日が、法的な「債務確定日」となり、支払い義務が発生します。
請求書受理と支払い:手続きの締めくくり
検収が無事に終わったら、業者から請求書を提出してもらいます。
- 日付の確認: 請求書の日付は、原則として検収完了日以降である必要があります。納品前の日付になっていないか注意しましょう。
- 内容の照合: 請求金額が、契約金額(見積もり合わせで決定した金額)と一致しているか確認します。件名や請求内容も同一であるか確認しましょう。
- 支払い: 適法な請求書を受理してから、定められた期間内(請求書受理日から30日以内)に支払います。
まとめ
280万円の物品購入契約は、法改正により少額随意契約として処理しやすくなりました。しかし、簡略化できるのは入札手続き部分であり、仕様書や予定価格の作成、厳格な検収といった、公費支出の適正性を守るための手順は省略できません。
特に従来の「150万円」などのラインで契約書作成の要否が分かれる組織も多いため、金額基準には常に敏感である必要があります。正しい知識とフローを身につけ、自信を持って契約事務を進めていきましょう。

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