長い年末年始休暇が明け、いよいよ仕事始めの日がやってきます。布団の中で「行きたくない」と葛藤する気持ち、痛いほどよくわかります。しかし、社会人として、特に組織の一員として避けて通れないのが「仕事始めの挨拶」です。
実は、この新年の最初の挨拶こそが、あなたの今年一年の職場での立ち位置や、上司からの評価を決定づける非常に重要なイベントであることをご存じでしょうか。たかが挨拶、されど挨拶。ここでスマートな振る舞いができるかどうかで、「仕事ができる人」と見られるか、「気が利かない人」と見られるかの境界線が引かれてしまうのです。
2026年の仕事始めは、暦の上では1月5日の月曜日となる組織が一般的でしょう。官公庁や多くの民間企業において、この日は特別な空気が流れます。誰も教えてくれないけれど、知っていないと恥をかく。そんな「仕事始めの挨拶」に関するマナーや具体的なフレーズ、そしてメールやチャットでの対応方法まで、実務に即して徹底的に解説します。この記事を読めば、自信を持って上司の前に立つことができるようになります。
仕事始めの挨拶がなぜ重要なのか?評価を分ける心理学
多くの人が単なる形式行事だと捉えがちな新年の挨拶ですが、上司や管理職の視点から見ると、全く異なる意味を持っています。なぜこれほどまでに挨拶が重視されるのか、その背景にある心理と理屈を理解しておきましょう。

「初頭効果」で第一印象が決まる
心理学には「初頭効果」という用語があります。これは、物事の最初に示された情報が、その後の全体の印象に強く影響を与え続けるという現象です。新年という区切りのタイミングは、一度リセットされた関係性が再構築される瞬間でもあります。
昨年末に少しミスをして気まずい思いをしていたとしても、新年の最初に爽やかでハキハキとした挨拶ができれば、上司の記憶は「今年はやる気があるな」というポジティブなものに上書きされます。逆に、昨年の評価が高くても、仕事始めにボソボソと自信なさげな態度を見せてしまえば、「休みボケが抜けていない」「今年は期待できないかもしれない」というネガティブなバイアスがかかった状態で一年がスタートしてしまうのです。
挨拶は単なる儀礼ではなく「敵意がないことの証明」
本来、挨拶(Greeting)の起源は、相手に対して敵意を持っていないこと、あなたの味方であることを示す合図でした。組織論の観点から言えば、上司に対して丁寧に新年の挨拶を行うことは、「私はあなたの指揮命令系統に従い、今年も組織の一員として貢献します」という服従と協力の意思表示に他なりません。
特に官公庁や歴史のある企業では、こうした「組織への帰属意識」を礼儀作法を通じて確認する文化が根強く残っています。挨拶を軽視することは、上司の顔を潰すだけでなく、組織の秩序を乱す行為とみなされるリスクさえあるのです。
上司が部下の挨拶でチェックしているポイント
上司は、部下の挨拶を通じて以下の3点を無意識にチェックしています。
- 出社時間と健康状態
ギリギリに出社していないか、顔色は良いか。自己管理ができているかを見ています。 - 言葉遣いとマナー
正しい敬語が使えているか、TPOをわきまえているか。外部の取引先にに出しても恥ずかしくないかを見ています。 - モチベーション
新年の業務に対する意欲が声のトーンや表情に表れているかを確認しています。
これらをクリアするためには、単に「おめでとうございます」と言うだけでなく、準備された言葉と態度が必要になります。
【基本編】出社して一番にすべき挨拶のルールと順番
仕事始めの朝、オフィスに入ってからの行動指針を具体的に見ていきましょう。なんとなく席に着いてパソコンを開く、というのは最悪のスタートです。
挨拶は「立って、相手の目を見て」が鉄則
基本中の基本ですが、着席したまま、あるいはパソコンの画面を見ながら挨拶をするのは厳禁です。上司が席に座っていたとしても、あなたは必ず相手の席の近くまで行き、立ち止まり、正対してから挨拶を行います。
もし上司が忙しそうにしていても、新年の挨拶だけは別格です。ただし、電話中や深刻なトラブル対応中の場合は除きます。それ以外の状況であれば、「おはようございます。今、ご挨拶よろしいでしょうか」と声をかけ、一歩踏み込んで挨拶をしましょう。この「わざわざあなたの席まで行きました」という行動自体が、敬意の表現となります。
誰から挨拶すべきか?組織の序列と優先順位
大きなフロアに複数の上司がいる場合、誰から挨拶すべきか迷うことがあります。原則としては「職位の高い順」ですが、実務的な優先順位は「直属の上司」が最優先です。
例えば、課長と部長が同じエリアにいる場合、まずは日常の指揮命令者である課長にしっかりとした挨拶を行い、その流れで部長に挨拶をするのがスムーズです。いきなり部長のところへ行くと、課長を飛び越えた形になり、角が立つ可能性があります。
また、同じ部署の先輩や同僚への挨拶も忘れてはいけません。「上司には媚びるが、同僚は無視」という態度は、周囲の反感を買い、結果として仕事がしづらくなります。入室と同時にフロア全体に聞こえる声で「おはようございます!今年もよろしくお願いします!」と声をかけ、その後に個別に上司の元へ向かうのがベストな流れです。
挨拶のタイミング(始業前か、朝礼後か)
多くの組織では仕事始めの日に「朝礼」や「訓示」があります。個別の挨拶は、可能な限り「始業時間前」に済ませるのがスマートです。始業チャイムが鳴った後は、すぐに業務モードや全体行事に切り替わるため、個人的な挨拶をするタイミングを逸してしまいがちです。
1月5日の当日は、いつもより15分から20分早く出社することを強くおすすめします。余裕を持って上司を待ち構えるくらいの姿勢が、やる気のアピールにも繋がります。もし始業前に上司が不在だった場合は、朝礼が終わった直後や、昼休みの前後など、相手が席に戻ったタイミングを逃さずに声をかけましょう。
【状況別】そのまま使える!上司への挨拶フレーズ集
では、具体的に何と言えばいいのか。言葉に詰まってしまわないよう、いくつかのパターンを用意しました。自分の関係性や職場の雰囲気に合わせて使い分けてください。
基本の挨拶フレーズ(対面・標準)
最もスタンダードで、誰に対しても使える間違いのない挨拶です。
「〇〇課長、おはようございます。
新年あけましておめでとうございます。
旧年中は大変お世話になりました。
本年もご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」
このフレーズのポイントは、「旧年中(きゅうねんちゅう)」と「ご指導ご鞭撻(ごしどうごべんたつ)」という、少し改まった言葉を使うことです。普段はフランクな関係であっても、仕事始めの最初だけはこのように格式高い言葉を使うことで、ケジメをつけることができます。
直属の上司へ感謝を伝えるフレーズ(+αの一言)
定型文だけでなく、自分なりの言葉を添えると評価がグッと上がります。昨年の具体的なエピソードを一言加えるのがコツです。
「〇〇さん、あけましておめでとうございます。
昨年は、××のプロジェクトでフォローしていただき、本当にありがとうございました。
おかげさまで無事に年を越すことができました。
今年は少しでも〇〇さんの負担を減らせるよう、自立して業務を進めたいと思います。
本年もどうぞよろしくお願いいたします」
このように、「昨年のお礼」+「今年の抱負」をセットにすると、単なる挨拶以上のコミュニケーションになります。上司としても「お、去年のことを恩に感じてくれているんだな」と嬉しく思うものです。
廊下やエレベーターで会った場合の短縮フレーズ
移動中やトイレ、給湯室などでばったり会った場合、長々と挨拶するのは迷惑になります。立ち止まって軽く会釈をし、短く伝えます。
「あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします!」
ここでは笑顔とハキハキした声が重要です。もし相手が急いでいなさそうであれば、「お休みはゆっくりできましたか?」と軽く言葉を添えるのも良いでしょう。
昨年お世話になった具体的なエピソードを盛り込む技術
挨拶に深みを持たせるためのテクニックとして、昨年の「具体的な指導内容」に触れる方法があります。
- 「昨年ご指摘いただいた資料作成の件、今年は改善できるよう努めます」
- 「昨年のトラブル対応での〇〇課長の判断、大変勉強になりました」
このように言われて悪い気のする上司はいません。「自分の指導が部下に届いている」と実感させることが、上司の承認欲求を満たし、あなたへの信頼感を高める最短ルートです。
【メール・チャット編】直接会えない上司への挨拶マナー
働き方改革が進み、仕事始めの日に必ずしも上司と対面できるとは限りません。上司が外出している場合や、テレワーク(在宅勤務)でのスタートとなる場合の対応について解説します。
上司が不在・自分が外出直行の場合のメール文例
上司が出張や外出で不在の場合、あるいは自分が現場直行の場合は、始業時間に合わせてメールを送っておくのがマナーです。「後で会った時に言えばいいや」と放置していると、「報告・連絡・相談ができないやつ」と思われかねません。
件名:【新年のご挨拶】氏名(〇〇部)
本文:
〇〇課長
おはようございます。〇〇部の(氏名)です。
謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
旧年中は多大なるご指導をいただき、誠にありがとうございました。
本日は直行のためメールでのご挨拶となり恐縮ですが、
本年も部内の目標達成に向けて、精一杯業務に励む所存です。
今年も変わらぬご指導ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
(署名)
ポイントは、「メールで恐縮ですが」という一文を入れることです。これにより、礼儀をわきまえていることを示せます。
テレワーク・在宅勤務時のチャット挨拶文例
SlackやTeams、Chatworkなどのビジネスチャットツールを使用している場合、メールよりも少し柔らかい表現でも許容されることが多いですが、あくまでビジネスです。スタンプ一つで済ませるのは避けましょう。
グループチャットへの投稿例:
チームの皆様
新年あけましておめでとうございます。
〇〇です。
昨年は皆様に助けていただき、多くのことを学ばせていただきました。
今年はさらにチームに貢献できるよう、スキルアップに努めます。
リモートからのスタートとなりますが、本年もどうぞよろしくお願いいたします。
上司への個別チャット例:
〇〇課長、おはようございます。
あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
本日は在宅勤務のため、チャットにて失礼いたします。
昨年末にご指示いただいた〇〇の件、本日中に進捗をご報告いたします。
今年もご指導のほど、よろしくお願いいたします。
チャットの場合、挨拶だけでなく「業務の着手」についても触れると、サボっていないアピールになります。
「あけおめスタンプ」はありか?ビジネスチャットの注意点
近年、ビジネスチャットでのスタンプ利用は一般的になっていますが、仕事始めの第一声がスタンプのみというのは、上司に対しては失礼にあたります。
まずはテキストできちんとした文章を送り、その後のやり取りの中で、上司がスタンプを使ってきたら、こちらも合わせてスタンプを返す、という「後出し」が安全です。自分から砕けた雰囲気を作るのは、リスクが高いと心得ましょう。
件名の付け方と送信時間のマナー
メールの場合、仕事始めの朝は上司の受信トレイが大量のメールで溢れかえっています。件名は一目で内容と送信者がわかるように工夫しましょう。
- 悪い例:「ご挨拶」「あけましておめでとうございます」
- 良い例:【新年のご挨拶】氏名(〇〇部)
また、送信時間は始業時間の前後30分以内がベストです。あまりに早朝(深夜)や、昼過ぎに送ると、「生活リズムが乱れている」「優先順位がわかっていない」と思われる可能性があります。
これだけは避けたい!仕事始めの挨拶「NG」行動
良かれと思ってやったことが、実はマナー違反だったというケースは少なくありません。特に注意すべきNG行動を挙げます。
「A HAPPY NEW YEAR」はビジネスでは不適切
年賀状やメールで使いがちな英語の挨拶ですが、ビジネスの場、特に目上の人に対しては不向きです。カジュアルすぎる印象を与えるだけでなく、本来 “A Happy New Year” は「よいお年を」という年末の挨拶に近いニュアンスも含まれるため、文法的にも “Happy New Year” が正解とされるなど、ややこしい問題があります。無難に日本語で「謹賀新年」「あけましておめでとうございます」を使うべきです。
「ご苦労様です」と目上に言ってはいけない理由
挨拶の流れで「昨年はご苦労様でした」と言ってしまう人がいますが、これは完全なNGワードです。「ご苦労様」は目上の人が目下の人に対して労をねぎらう言葉です。目上の人に対しては「お疲れ様でした」「ありがとうございました」を使います。
同様に、「感心しました」や「了解しました(承知しました、が正解)」なども、無意識に使ってしまわないよう注意が必要です。
挨拶なしで業務メールや相談を始めてしまう
「忙しいだろうから」と気を使って、新年の挨拶を省略し、いきなり「〇〇の件ですが、どうしましょうか」と業務の話に入るのは避けましょう。相手によっては「礼儀を知らない」「ドライすぎる」と不快感を抱きます。
どんなに急ぎの用件があっても、冒頭に「あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。」と2行入れるだけで、印象は全く変わります。これはコストのかからない潤滑油です。
喪中の上司への配慮(「おめでとう」を避ける言い換え)
上司が喪中である場合、または自分が喪中の場合、「おめでとうございます」という言葉は使いません。代わりに以下のような表現を用います。
「おはようございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。」
あるいは、
「おはようございます。
旧年中は大変お世話になりました。
本年も精一杯務めさせていただきます。」
と、「おめでとう」を「おはようございます」や「本年も」に置き換えて伝えます。これにより、喪中のマナーを理解している思慮深い部下であるという印象を与えることができます。
挨拶のあとに続く「雑談力」で関係を深める
定型の挨拶が終わった後、エレベーター待ちや始業までのわずかな時間に訪れる沈黙。ここで気の利いた雑談ができると、関係性はさらに深まります。
年末年始の過ごし方を聞かれたときの無難な回答
上司から「休みはどうだった?」と聞かれた際、正直に「寝ていました」「ギャンブルをしていました」と答えるのは品位を疑われます。かといって「海外で豪遊しました」と自慢するのも考えものです。
おすすめは、「リフレッシュできた」ことと「仕事への活力になった」ことを伝える回答です。
- 「実家でのんびり過ごして、英気を養ってきました」
- 「近くの神社へ初詣に行き、今年の健康を祈願してきました」
- 「久しぶりに家族と過ごし、良いリフレッシュになりました」
このように答えた後、「〇〇課長はいかがでしたか?」と質問を返すのが会話のキャッチボールです。上司の話を聞く側に回ることで、相手を気持ちよくさせることができます。

仕事のエンジンの掛かり具合をアピールする話題
雑談の中で、仕事への意欲をさりげなくアピールするのも有効です。
- 「休み中に〇〇(業務関連)の本を読んで、試してみたいアイデアが浮かびました」
- 「ニュースで〇〇の記事を見て、うちの業務にも影響がありそうだと感じました」
ただし、アピールが強すぎると「意識高い系」と煙たがられるので、あくまで「つぶやき」程度に留めるのがコツです。
まとめ
仕事始めの挨拶は、一年のスタートダッシュを決めるための重要な儀式です。
- 形を整える: 正しい姿勢、目線、言葉遣い。
- 心を込める: 感謝と抱負、相手への配慮。
- 先手必勝: 誰よりも早く、自分から声をかける。
この3つを意識するだけで、あなたを見る上司の目は確実に変わります。特に官公庁や伝統的な企業においては、こうした「型」を守れる人間こそが、安心して仕事を任せられる人材として評価されます。
憂鬱な仕事始めの朝ですが、挨拶という武器を磨いておくことで、不安は自信に変わります。1月5日、深呼吸をして、誰よりも明るい声で「おはようございます!」と発することから始めましょう。その一言が、あなたの2026年を素晴らしいものにしてくれるはずです。


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