日本の「頭脳流出」が止まらない一因、アルコール禁止などの制約

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世界一厳しい日本の研究費使用ルールの解説です。科研費などの競争的資金では、アルコール類の支出が禁止されています。ワインを飲みながらの会食も許されません。厳しい使用ルールの下では自由な研究ができず「頭脳流出」が止まりません。

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年々厳しくなる研究費の使用ルール

 

官公庁などの運営財源は、国民の税金です。国立大学も、入学料や授業料がありますが、それだけでは運営費の半分も賄えないため、大半を国民の税金である「運営費交付金」を充てています。

 

国立大学の研究者が、実験などに必要とする研究費は、各省庁が交付する競争的資金に依存しています。競争的資金は、文部科学省が交付する科学研究費補助金や総務省、厚生省が交付するものなど様々です。いずれも競争的資金を獲得するために申請して認められなければなりません。国民の税金を原資とする競争的資金は、各省庁のルールに基づいて使用が認められています。そのルールが想像を超えるほど厳しくて、自由な研究が行えない状況になっています。

 

研究費の使用ルールが厳しくなった背景には、もちろん原因があります。単年度予算の競争的資金を無理やり使おうとして、これまで数多くの不正使用が発生してきました。研究費の不正使用(預け金や架空取引)が露見する度に、競争的資金の使用方法が厳しくなりました。「アルコール類の支出は原則禁止」が今では常識です。しかし、実際の研究現場では、海外の研究者とのミーティングなどで、アルコール類が必要となるケースもあります。

 

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アルコール類の支出可否、制約の一例

 

研究者と会社員を比べると、大きな意識の違いがあります。常識の違いとも言えるものです。

 

日本の普通の会社では、仕事中にビールやワインなどのアルコールを飲むことは許されません。アルコールは、勤務が終わった後に、プライベートとして飲むものです。プライベートな食事中や懇親会などで人間関係を深めるために飲むものです。昼間の勤務時間中は、アルコールは業務に必要なく、アルコールを飲むことは、仕事を行う上で意思判断を誤らせ、仕事そのものを阻害すると考えられています。

 

会社員や飲食店の店員が、アルコールを飲みながら、赤い顔で接客すれば、相手のお客は気分を害するでしょう。「アルコールを飲んでいる、ふざけた奴!」となり、二度と客は来なくなるのが日本社会です。買い物に行ったら、酔っ払った店員が、ろれつが回らない口調で商品の説明をしてくれても、全く信頼できず買う気になりません。アルコールを飲みながら仕事をすれば「クビ」にされても仕方ないのが日本社会です。製品を作る工場で働く人も同じです。アルコールを飲みながら間違った方法で欠陥品を作れば、その会社は倒産の危機に遭うでしょう。

 

普通の会社員は、勤務中、アルコールを禁止するのは常識です。

 

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研究者とアルコール

 

一方、研究者はどうでしょうか。

 

研究者と言えども人間ですから、アルコールを飲めば酔いますし、場合によっては意思判断を誤ります。民間会社の会社員と同じです。しかし、決定的に違うところがひとつあります。

 

それは、外部の研究者と会話し交流することで、極めて貴重な情報に触れ、専門知識を相互に刺激し、新たな発想による研究の深化に繋がることです。つまり、考え方(理論)を相互に交換(開示)することで、さらに高度な研究に発展する可能性があるのです。そして、その効果を高めるのに、アルコールが必要なケースがあるのです。アルコールが役割を果たします。

 

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研究と発明

 

発明によって特許権が与えられ、独占的な利益が得られることは、多くの人が知っています。しかし、研究と発明が似ていることは、あまり知られていません。
研究とは、真理の探究です。未知の世界を探るものです。未解決の課題に対して、誰よりも早く解明しようとするものです。研究成果の中には、発明が潜んでいることが多いのです。日本でも2002年(平成14年)小泉総理のときに、国家戦略のひとつとして「知財立国」の方針を打ち出しました。研究者の発明を積極的に権利化(特許申請)し、産業の発展に結びつける政策を推進することになりました。

 

研究(発明に結びつくもの)とアルコールは、一見、全く関係なさそうに見えます。しかし実は、大いに関係しているのです。

 

例えば、国立大学の研究者が行う研究は、税金で研究費が賄われていることを考えれば、当然のことながら、一般国民に対して広く公開すべきです。

 

ところが、発明が絡むと、ややこしいことになります。

 

発明が、特許として権利化できるのは、世の中に知られてない発明のみです。日本だけでなく、世界(外国の刊行物)でも知られてない発明でなければ特許権を取得することができません。研究成果の中から産まれた発明は、第三者に内容を知られてしまうと、その時点で発明ではなくなります。特許要件である新規性を欠き、特許として認められないのです。

 

研究は、知の蓄積と情報交換により深化し発展します。情報交換を行う場合、発明に繋がるような研究内容は、他者に漏らしたくないという現実があります。

 

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研究者同士はライバル、本音はリスク

 

一般的に研究は、研究者個人のものです。他組織の同じ分野の研究者同士はライバルです。重要な研究情報は、相手に漏らさないという心理が内在しています。研究を囲う見えない壁があるのです。(チームで行なう共同研究は別ですが。)この壁を超える役目を果たすのがアルコールです。アルコールの効用として、相手との親密感が増し、信頼関係が育まれます。より深い情報交換が効率的に行われるのです。

 

特に、海外から研究者を招く場合などは、儀礼的な意味も加わり、ワインなどのアルコール類の役割が大きくなります。

 

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国際マナーとアルコール

 

日本では、「アルコールを飲むのは仕事ではない」という考え方が、国民の間で広く共有されています。しかし、海外は違います。海外の研究者は、相手との会食の際に、食前酒やワインなどを楽しむことが習慣になっています。食文化の違いもありますが、日常的にアルコールを飲むことが自然なのです。

 

さらに海外では、日本の研究者を迎えるときは、レセプション(歓迎会)を開催してくれます。研究者仲間を集めて、ワインを飲みながら歓迎の気持ちを込めて会食するのが当然のマナーです。

 

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科研費でアルコールは禁止

 

国民の税金を原資とする競争的資金として「科学研究費補助金」(通称、科研費)があります。科研費を所掌するJSPS(日本学術振興会)のサイトに掲載されている「科研費使用に関するQ&A」を参考に抜粋します。

 

科研費FAQ
http://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/01_seido/05_faq/index.html

 

【Q4474】 学会への出席にあたって、学会参加費の中に夕食のレセプション(アルコール類も提供される)費用が含まれており、この部分だけ切り離すことはできないとのことでした。こうした場合に、学会参加費を科研費から支出することはできませんか?

 

【A】  学会参加費の中にその費用が組み込まれ不可分となっているようなレセプションは、学会活動の一環として企画されていると考えられますので、その際にアルコールが供されるか否かを問わず、参加費を科研費から支出することは可能と考えます。なお、実際には、様々なケースがあると思われますので、一般常識的に見て学会活動を超えるようなケースまで可能とするものではありません

 

科学研究費補助金(特別推進研究)
研究者使用ルール(補助条件)

 

直接経費の使用

直接経費(補助事業の遂行に必要な経費)の各費目の対象となる経費の例は、以下のとおり。

会議費(会場借料、食事(アルコール類を除く)費用等)

 

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頭脳流出とアルコール類の制約

 

上記のように、科学研究費補助金では、アルコール類の支出は認められません。使用ルールに違反し、不適切な支出になるのです。研究者同士で食事をする場合にもアルコールは認められません。

 

ただし、学会参加費にアルコール代が含まれ、金額を分けることが不可能な場合、学会などの公式行事としてレセプションが組み込まれている場合は、アルコールの支出を例外的に認めています。「競争的資金」と呼ばれる税金による研究費は、科研費以外にも様々な種類がありますが、どれも使用ルールは同じです。

 

アルコールについて、ひとつの例として解説しました。それ以外にも研究課題との関連性など、厳しい多くの制約があります。おそらく、日本の研究費使用ルールは、世界一厳しいです。研究者が本来集中すべき研究よりも、制約の多い研究費の使用ルールに気をとられ、自由な研究環境が阻害されています。そのため、自由に研究ができる海外へ移住する研究者が多くなっています。「頭脳流出」と言われている現状は、自由な研究環境を阻害している「使用ルール」が一因となっています。

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