官公庁で物品の購入や業務の委託を担当することになった際、最初に直面する壁の一つが「仕様書」の作成ではないでしょうか。特に、入札までは行わない「少額随意契約」であっても、適切な仕様書を作成することは、公平・公正でトラブルのない契約実務を行う上で極めて重要です。
初めて担当する方の中には、「金額が小さいからカタログをコピーして渡せばいいのでは?」あるいは「業者に任せてしまえば楽なのに」と考えてしまう方もいるかもしれません。しかし、仕様書が曖昧であったり、特定の業者に有利な内容になっていたりすると、後々大きな問題に発展するリスクがあります。税金を財源とする以上、少額であっても公平性と透明性の確保は欠かせません。
この記事では、官公庁の会計実務担当者に向けて、少額随意契約における仕様書の正しい作り方を基礎からわかりやすく解説します。必須となる記載項目から、特定のメーカーを指定しないための「同等品」の書き方、参考見積書の活用方法まで、実務ですぐに使える具体的なノウハウを網羅しました。この記事を読み終える頃には、自信を持って適切な仕様書を作成できるようになっているはずです。
少額随意契約における仕様書の重要性
官公庁の契約事務において、仕様書は設計図のような役割を果たします。特に少額随意契約(見積もり合わせ)において、なぜしっかりとした仕様書が必要なのか、その根本的な理由と役割について解説します。
なぜ少額でも仕様書が必要なのか
少額随意契約は、一般競争入札に比べて、業務効率化のために手続きが簡素化されているのが特徴です。入札公告を出したり、入札参加資格の厳密な審査を行ったりする必要がなく、3社から見積書を取り寄せて比較検討する「見積もり合わせ」によって契約相手を決定します。
しかし、手続きが簡単だからといって、契約内容をあいまいにしても良いわけではありません。むしろ、特定の業者と癒着していると疑われないためにも、客観的な基準である仕様書が重要になります。仕様書は、発注者である官公庁が「何を、どれだけ、いつまでに、どのような条件で欲しいのか」を明文化した唯一の書類です。
もし仕様書を作成せずに、口頭やメモ程度で業者に見積もりを依頼した場合、業者ごとに提案内容がバラバラになってしまう恐れがあります。ある業者は本体価格のみの投げ売りで見積もり、別の業者はオプション類や設置費、送料まで含めて見積もってくるかもしれません。これでは、提示された金額を公平に比較することができません。見積もり合わせの前提条件を統一するために、仕様書は不可欠なのです。
仕様書がないと起きるトラブル
仕様書が不十分な場合、納品時や支払い時にトラブルが発生するリスクが高まります。
例えば、物品購入において「ノートパソコン一式」とだけ伝えて見積もりを取ったとします。納品されたものが想定していたスペックよりも低かったり、必要なソフトが入っていなかったりしても、仕様書に明記されていなければ「契約違反」として突き返すことが難しくなります。業者は「注文通り納品した」と主張するでしょうし、発注側は「常識的に考えて必要だろう」と思い込んでいた機能がないことに困惑することになります。
また、搬入や設置、廃材の処理などが含まれているかどうかも、トラブルの種になりがちです。エレベーターのない建物の3階まで手運びする必要があるのに、それを伝えていなければ、配送業者は軒先渡しで帰ってしまうかもしれません。仕様書は、こうした「言った言わない」のトラブルを防ぎ、円滑な契約履行を担保するための防波堤となるのです。
仕様書に記載すべき必須項目とは
では、具体的に仕様書には何を記載すればよいのでしょうか。物品購入契約を例に、絶対に外してはいけない必須項目について詳しく解説します。
件名と品名:誰が見てもわかる名称にする
まず記載すべきは「件名」です。これは契約全体を表すタイトルです。例えば「〇〇用ノートパソコン 一式」や「机・椅子の購入契約」といったように、何のための契約かがひと目でわかるようにします。
次に「品名」です。ここには購入しようとしている物品の一般的な名称を記載します。特定の商標(商品名)ではなく、普通名詞を使うのが基本です。例えば、「MousePro」ではなく「ノートパソコン」、「INVENT インベント」ではなく「片袖机」といった具合です。ただし、すでに使用している機器の部品交換など、純正品でなければ機能しない場合は、例外的に特定の商品名を記載することもあります。
規格と仕様:カタログの丸写しはNG
仕様書作成の最大の山場が、この「規格」や「仕様」の項目です。ここでやってしまいがちな失敗が、特定のメーカーのカタログスペックをそのまま書き写してしまうことです。
官公庁の契約は、公平性が大原則です。特定のメーカーのカタログにしか載っていないような細かすぎる数値や独自機能を仕様書に記載してしまうと、そのメーカー以外は参入できなくなってしまいます。これは実質的な「指名買い」となり、公正な競争を阻害する行為として問題視されます。
必要なのは、業務を行う上で最低限必要な性能(必要条件)を抽出して記載することです。例えばパソコンであれば、CPUの性能、メモリの容量、ストレージの種類と容量、画面サイズ、重量などを、「〇〇以上」や「〇〇以下」という形で幅を持たせて記載します。「重量1.25kgであること」と書くのではなく、「重量1.3kg以下であること」とすれば、複数のメーカーが要件を満たすことができるようになります。
同等品(相当品)を認める記載方法
特定の製品をイメージして仕様書を作る場合でも、できるだけ「同等品(相当品)可」という文言を入れる方が望ましいです。同等品を認める場合は、認める範囲を数値で記述します。
「同等品」とは、例示として挙げた製品(例示規格品)と同等の品質や性能を持つ製品のことです。これを認めることで、最初に想定していたメーカー以外の製品も見積もりの対象となり、競争性が確保されます。競争が働けば、価格が下がる可能性も高くなります。
実務的には、仕様書の中に「例示品:メーカーA社 〇〇型」と記載しつつ、「なお、本仕様書の要件を満たすものであれば、他メーカーの製品でも可とするので、同等品であることを証明する書類を提出すること」といった条件を加えます。同等品を認めることで、業者は提案の幅が広がり、発注者はより有利な条件で契約できるチャンスが広がります。
数量と単位:内訳がある場合の注意点
数量は間違いようがないと思われがちですが、単位に注意が必要です。「一式」という表現は便利ですが、内訳が不明瞭になりがちです。
例えば、パソコンを購入する場合、内訳を記載する欄では、「パソコン 10セット」とするのではなく、
- パソコン本体:10台
- マウス:10個
- 接続ケーブル:10本
このように、構成品ごとに数量と単位を明記することが望ましいです。こうすることで、見積もりを取る際にも、納品時の検収の際にも、数量の過不足を正確に確認することができます。
納入条件と検査・支払いの明記
物品そのもののスペックだけでなく、いつ、どこに、どのように納めるかという条件も、見積金額に大きく影響します。
納入期限と納入場所の指定
「納入期限」は必ず日付で指定します。「契約締結後、速やかに」あるいは「契約後1ヵ月以内」といった曖昧な表現は避けましょう。業者はこの期限を守れるかどうかで在庫を確認したり、配送手配を行ったりします。特に年度末などは物流が混み合うため、余裕を持った期限設定が必要です。
「納入場所」は、組織名だけでなく、具体的な住所、建物名、階数、部屋番号まで明記します。「〇〇省」だけでは、正門までしか届けてもらえないかもしれません。「〇〇省 〇〇合同庁舎 8階 総務課」のように具体的に書くことで、業者は搬入にかかる手間(台車が必要か、エレベーターは使えるかなど)を考慮して正確な見積もりを出すことができます。
搬入・設置・調整などの付帯作業
単に物品を届けるだけでなく、段ボールから出して指定の場所に設置し、動作確認、機能確認を行い、梱包材を持ち帰ってもらいたい場合は、その旨を仕様書に書かなければなりません。
また、パソコンやプリンターなどの場合、配線や初期設定(インストール作業など)が必要なケースもあります。「納入場所へ搬入・設置後、発注担当者立会いのもとで動作確認を行い、引き渡しとする」といった記述があれば、使える状態になるまでが業者の責任範囲であることが明確になります。これも見積金額に含まれるべき経費ですので、記載漏れがあると後から追加費用を請求される原因になります。
検査(検収)と支払い条件
官公庁の会計ルールでは、納品されたものが仕様書通りであることを確認する「納品検査(検収)」に合格した後でなければ、代金を支払うことができません。これを「後払いの原則」といいます。
仕様書には、「納入後、発注者による検収をもって引き渡し完了とする」や「検収完了後に適法な請求書を受理してから30日以内に代金を支払う」といった支払い条件を明記しておきます。これにより、前払いや代引きを求められるトラブルを未然に防ぐことができます。
実務で使える仕様書の作成手順
実際にゼロから仕様書を作る際の手順を解説します。闇雲に書き始めるのではなく、段取りを踏むことで効率的に作成できます。
参考見積書の取り寄せと活用
初めての契約では、ゼロの状態から仕様書を書くのは困難です。まずは、インターネットで情報を集めたり、出入りの業者に相談して「参考見積書」と「カタログ」を取り寄せましょう。
この段階で取り寄せる「参考見積書」は、予算要求や仕様書作成の参考にするためのもので、契約手続き上の正式な見積もりとは異なります。業者には「仕様書作成の参考にしたいので、一般的な取引価格、仕様内容で提案してほしい」と伝えます。この時に入手したカタログのスペック表が、仕様書作成の基礎資料となります。
メーカー指定を避けるための「必要条件」の抽出
取り寄せたカタログ(なるべく3社くらいを比較する)を見ながら、今回の業務に必要なスペックを抜き出していきます。ここで重要なのは、カタログに載っているすべての項目を書き写さないことです。
例えば、カタログに「本体カラー:クリスタルホワイト」とあっても、事務用パソコンにその色は必須ではないでしょう。白でもグレーでも支障はありません。必須でない項目まで仕様書に書いてしまうと、その機種しか適合しなくなってしまいます。「不必要な項目は書かない」「数値は基準を明確にする(以上・以下)」ことを意識して、複数のメーカーが参入できる余地を残すように作成します。比較表を作成し、A社、B社、C社の製品がいずれも仕様を満たしているか確認する作業を行うと完璧です。
第三者チェックの重要性
仕様書を書き上げたら、必ず自分以外の誰かにチェックしてもらいましょう。上司や先輩、あるいは隣の席の同僚でも構いません。
作成者本人は「わかっているつもり」で書いているため、記述の漏れや分かりにくい表現に気づきにくいものです。「この書き方だと、ケーブルが含まれているか分からないのでは?」といった第三者の視点が入ることで、トラブルの芽を事前に摘むことができます。仕様書は、見積依頼などで、一度業者に渡してしまうと修正が大変です。内部でのチェックに時間をかけることが、結果的に業務効率化につながります。
よくある間違いと改善ポイント
最後に、初心者が陥りがちな仕様書作成のミスとその改善策を紹介します。
過剰なスペック指定による弊害
「念のために」と、必要以上に高いスペックを要求してしまうことがあります。例えば、文書作成しかしないのに、高度な画像処理ができるグラフィックスボードを積んだ、ハイスペックなパソコンを指定するなどです。
過剰なスペック指定は、価格の高騰を招くだけでなく、入札に参加できる業者を不当に減らすことになります。税金の無駄遣いにならないよう、「使用目的に合った適正なスペック」を見極めることが公務員の責務です。本当にその機能が必要なのか、自問自答しながら項目を選定しましょう。パソコンの購入であれば、パソコンを趣味にしている同僚などのアドバイスを受けることも重要です。
曖昧な表現(「等」「適宜」)のリスク
「付属品等」や「適宜調整すること」といった曖昧な表現は便利ですが、契約手続きでは危険です。「等」の中に何が含まれるのか、発注者と業者で認識がずれていることが多いからです。
業者は安く落札するために、曖昧な部分は「含まれていない」と解釈して見積もる傾向があります。後になって「あれも入っていると思った」と言っても通りません。面倒でも、「ACアダプター、電源ケーブル、取扱説明書」のように具体的に列挙しましょう。
まとめ
少額随意契約における仕様書は、公正な取り引きを行うための最も重要な書類です。金額が小さいからといって軽視せず、以下のポイントを押さえて作成しましょう。
- 具体的に書く: 品名、数量、納期、場所を明確にする。
- 公平に書く: 特定のメーカーに限定せず、できるだけ同等品を認める。
- 必要十分で書く: カタログの丸写しを避け、必要な機能だけを抽出する。
これらを意識するだけで、業者とのやり取りがスムーズになり、トラブルも激減します。作成した仕様書は、見積もり合わせの依頼時に業者へ提示し、公平な競争を促しましょう。しっかりとした仕様書を作ることは、あなた自身の身を守り、ひいては国民の信頼に応えることにつながります。

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