私たちの日常生活を支える行政サービスの多くは、「公務」という仕組みによって成り立っています。
しかし、「公務とは何か」「その意味は?」と聞かれて、明確に答えられる方は意外と少ないかもしれません。
公務とは、単なる役所の仕事を指すだけではなく、法律や制度に基づいて国民全体の利益のために行われる業務全般を意味します。税金によって運営され、誰に対しても公平・中立であることが求められる「公務」は、民間の仕事とは異なる特徴を持ち、社会的にも重要な責任を担っています。
この記事では、「公務の意味」を正しく理解したい方のために、辞書的な定義から法的根拠、民間との違い、公務員の役割や就職活動での活用ポイントまで、やさしく丁寧に解説します。社会人はもちろん、公務員を目指す学生や転職希望者にも役立つ内容です。
公務とは?意味をわかりやすく解説|日常生活に欠かせない行政の役割
公務とは何を指す?行政サービスに関わる基本の意味
「公務(こうむ)」とは、一般に「公共のために行われる業務」や「国または地方公共団体などの公的機関が行う職務」のことを指します。これは一部の人たちの私的な利益のためではなく、社会全体の人たちが必要とする業務のために遂行されるものであり、その性質上、高い公平性や中立性が求められます。
日常生活の中ではあまり意識しませんが、道路や上下水道の整備、警察や消防、学校教育、税務処理、住民票の発行、ゴミの収集まで、あらゆる分野に「公務」が関わっています。こうした業務を「当然のこと」として私たちは享受していますが、それを支える人々が公務員であり、彼らの業務そのものが「公務」です。
法令における「公務」の意味|国家公務員法・憲法から読み解く定義
法的には、公務とは以下のように規定されています。
国家公務員法
第九十六条 すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。
地方公務員法
第三十条 すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。
日本国憲法
第十五条
2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
このように、公務に従事する人は「誰か特定の人のために働く」のではなく、「社会全体のために公平に働く」ことが使命とされているのです。
公務と民間企業の違いとは?公平性・中立性・資金源の違いを解説
公務は税金で成り立つ|資金の違いから見える責任の重さ
最大の違いは、「運営資金の原資」にあります。民間企業は、商品やサービスの販売を通じて利益を得ており、資金はすべて顧客が自らの意思で支払ったお金です。一方、公務は税金で成り立っています。税金は、国民が法律により義務として支払うものであり、自由意志によって選べるものではありません。
つまり、公務は「強制的に徴収されたお金を使って運営されている」という点において、極めて重い責任があると言えます。民間企業のように利益を追求することは許されておらず、予算の使途は法令や国会・議会の承認を経たものでなければなりません。
公務に求められる公平性と中立性とは?民間との倫理観の違い
公務は、誰か特定の人や団体を優遇してはいけません。すべての国民に対して公平であることが求められています。例えば、ある企業だけを優遇する契約を結んだり、個人的な知り合いに有利な判断をすることは、公務員としての職務倫理に反します。
民間企業は利益を最大化するために、自社に有利な選択をすることが当然ですが、公務においては、あくまで社会全体にとっての「公平性」「公益性」が最優先されます。自らの組織に有利な判断はできないわけです。
公務員とみなし公務員の違いとは?法的立場と責任を比較
公務員とは誰のこと?行政・技術・教育など多様な職種を解説
「公務員」は、国家公務員や地方公務員など、法令に基づいて任命され、公的機関に所属する人々を指します。職種には、行政職、技術職、公安職、教育職などがあり、国や自治体の政策や事業を支える存在です。
みなし公務員の意味とは?大学職員・年金機構などの法的位置づけ
一方で、「みなし公務員」という言葉もあります。これは、実際には民間人ですが、公平性が必要とされる場面で、法律により「公務員と同様の立場」として扱われる人たちです。
例えば、国立大学法人の教職員や、日本年金機構の職員などは、刑法においては「公務員」として取り扱われ、賄賂の授受などに対して厳しい罰則が適用されます。これにより、民間的な立場にある人でも、公的な業務を担う場合は高い倫理性が求められるのです。
国立大学法人法
第十九条 国立大学法人の役員及び職員は、刑法(明治四十年法律第四十五号)その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。
日本年金機構法
第二十条 機構の役員及び職員(以下「役職員」という。)は、刑法(明治四十年法律第四十五号)その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。
刑法(明治四十年法律第四十五号)
第百九十七条 公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の拘禁刑に処する。この場合において、請託を受けたときは、七年以下の拘禁刑に処する。
公務における責任とルールとは?上司の命令と職務専念義務を考える
上司の命令に従うべき?公務員法に基づく判断と例外とは
公務員法では、上司の命令に忠実に従う義務が定められています。しかし、これは「すべての命令に盲目的に従え」という意味ではありません。もし上司の命令が法令に違反していたり、公平性や公益性を損なう内容である場合には、従ってはいけません。
そのような場合は、「その命令が公務員として果たすべき義務に反する」と判断し、正しい手続きを通じて異議を申し立てることが重要です。公務は法令によって守られている業務であるからこそ、その法令を遵守することが何よりも優先されるのです。(ただし、自衛隊や警察、消防、救急などの人命を守る現場では、上司の命令が絶対です。上司の命令に疑問を持っていたら、一瞬で人命が失われてしまいます。)
国家公務員法
第九十八条 職員は、その職務を遂行するについて、法令に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。
地方公務員法
第三十二条 職員は、その職務を遂行するに当つて、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。
公務員がサボるとどうなる?職務専念義務とその意味を解説
公務員は「職務に専念する義務」があります。これは、たとえば仕事中に私用のスマートフォンを操作したり、私的な連絡を職務中に行うことも含め、勤務時間中は職務に集中する必要があるということです。
国家公務員法
第百一条 職員は、法律又は命令の定める場合を除いては、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。
地方公務員法
第三十五条 職員は、法律又は条例に特別の定がある場合を除く外、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。
「・・法律又は命令の定める場合・・」とは、休暇や育児休業、人間ドックの受診などがあります。
公務とはどんな仕事か?就職・転職前に知るべき意味と心構え
公務の意味を踏まえた志望動機の作り方|公共性を伝えるコツ
公務員試験を受ける方や、転職で公務を志す方にとって、「なぜ公務員になりたいのか」という志望動機は極めて重要です。その際、「安定しているから」「土日休みだから」では不合格になってしまうでしょう。
大切なのは、「公務とは何か」を正しく理解し、「社会全体に貢献したい」「多くの人たちの生活を支える仕事に携わりたい」といった、公共性や奉仕の精神を根拠とした動機を伝えることです。例えば、次のようになります。
面接で聞かれる「公務とは何か」への答え方|民間との違いを踏まえて
回答のポイント(構成)
1. 公務の定義を簡潔に説明する
2. 民間企業との違いに触れる
3. 自分の経験や価値観と結びつける
4. その上で、公務員として果たしたい役割を語る
模範回答 ①(大学生・新卒向け)
私にとって公務とは、「国民全体の利益のために、公平で中立な立場から業務を行う仕事」だと考えています。民間企業が利益追求を主な目的とするのに対し、公務は税金を原資とし、住民の生活を支える使命があります。私は、大学で学んだ社会福祉の知識を活かし、困っている方々に必要な支援を届ける仕組みづくりに携わりたいと考え、公務員を志望しました。全体の奉仕者としての自覚を持ち、誠実に業務に取り組みたいと思っています。
模範回答 ②(民間からの転職者向け)
公務とは、特定の顧客ではなく、社会全体のために公平に働く仕事だと考えています。前職では、営業職として顧客ニーズに応える提案を行ってきましたが、利益や売上に左右される判断に限界も感じていました。その経験から、公務では短期的な成果よりも、長期的な社会の安定や信頼性を重視する点に魅力を感じています。私は、民間で培った対人折衝力を活かし、住民の声を丁寧に拾い上げる行政サービスの実現に貢献したいと考えています。
模範回答 ③(技術職・専門職志望者向け)
公務とは、社会基盤の整備や安全確保といった、目には見えにくいけれど重要な分野で、人々の暮らしを支える仕事だと考えています。私は土木工学を専攻し、防災インフラや都市設計に関心を持ってきました。民間では費用対効果を重視しますが、公務では命や暮らしの安全を優先できることにやりがいを感じます。公的立場だからこそできる仕事に責任と誇りを持ち、住民の安心を支えるインフラ整備に携わりたいです。
アドバイス|評価される回答のコツ
良い例 | 悪い例 |
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公務の特徴(公平性・中立性・税金運用)を押さえている | 安定しているから、だけを理由にする |
民間との違いを具体的に説明している | 「民間は大変だから」と否定的に語る |
自分の経験や価値観と結びつけている | 他人事のように「すごい仕事」と言うだけ |
面接で「公務とは何か?」と問われたら、辞書的な定義を述べるだけでなく、自分自身がどのようにその言葉を理解し、どのように公務員としての役割を果たしたいのかを具体的に話すことが重要です。民間との違いを意識しながら、自分らしい言葉で語れるよう準備をしておきましょう。
まとめ|公務とは何かを正しく理解し、信頼に応える責任ある仕事へ
「公務」とは、単なる「役所の仕事」ではありません。国民から集めた貴重な税金という公共資源をもとに、社会全体のために運営される仕事です。そこには、高い倫理性、公平性、中立性が求められ、私的な判断や利益追求は許されません。
また、公務に携わる者は「全体の奉仕者」として、常に法令に基づいた行動が求められます。業務の遂行においては、正確性、誠実さ、説明責任を果たす姿勢が不可欠です。
民間企業と比べて制約が多いようにも見えますが、だからこそ社会的な信頼が厚く、やりがいのある仕事でもあります。公務に携わる方々は、自分の役割が社会にどのような影響を与えているかを意識し、誇りを持って働くことが期待されているのです。
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