官公庁で契約や会計実務を担当することになったあなたへ。
日々の業務で「本当にこの処理で正しいのか?」と不安を感じることはありませんか?
インターネットで検索すると多くの入札解説サイトが見つかりますが、実はその多くが民間企業の視点で書かれており、法令遵守が求められる公務員にとっては「危険な情報」が含まれていることをご存知でしょうか。
「再度入札」と「再公告入札」の混同や、根拠のない「慣習」の推奨など、ネット上の誤った情報を信じて手続きを進めると、会計検査や監査などで重大な指摘を受けるリスクがあります。
本記事では、実務経験に基づき、民間サイトが誤解しているポイントや、2025年4月から施行される最新の法令改正(随意契約上限額の引き上げ等)について詳しく解説します。検索順位が高いサイトが必ずしも正しいとは限りません。自分自身と組織を守るために必要な、真正の「会計法令の知識」を身につけましょう。
民間企業が運営する「入札解説サイト」の危険性
近年、インターネット上には入札情報サービスやコンサルティング会社が運営するオウンドメディアが増加しています。これらは非常に見やすくデザインされており、一見すると役立つ情報源のように思えます。しかし、官公庁で実務を行う職員にとって、これらのサイトを鵜呑みにすることは極めて危険です。

なぜ民間サイトの解説は「不正確」なのか
根本的な問題は、記事の作成者が「官公庁の内部で、支出負担行為や契約締結の実務を行った経験がない」という点にあります。
民間企業の視点は、あくまで「いかにして入札に勝つか」「いかにして利益を上げるか」という受注者側の論理に基づいています。一方、私たち発注者(官公庁)の視点は、「いかにして会計法令を遵守し、公平・公正な手続きを行うか」という執行者側の論理です。
この視点の違いは、用語の定義や手続きの解釈に決定的なズレを生じさせます。多くの民間サイトは、ライターが表面的な知識で記事を構成しているため、法令の条文に基づいた厳密な解釈がなされていません。その結果、実務担当者がそのまま信じて処理を進めると、会計法や地方自治法に違反してしまうリスクがあるのです。
「再度入札」と「再公告入札」の違いを理解していない
具体的な例を挙げましょう。
多くの民間サイトで混同されているのが、「再度入札(さいどにゅうさつ)」と「再公告入札(さいこうこくにゅうさつ)」の違いです。
インターネット上の解説記事の中には、1回目の入札を行って落札者が決まらなかった場合にやり直す手続きを、すべてひとくくりに「再入札」と呼んでいるケースが見受けられます。しかし、会計法令上、これらは全く別の手続きであり、適用される条件もプロセスも異なります。
ベテランの契約担当職員は、「再入札」という言葉は使いません。曖昧なので意味不明になるからです。
再度入札(予算決算及び会計令 第82条、地方自治法施行令 第167条の8)
開札を行った結果、すべての入札金額が「予定価格」の範囲内に収まらなかった(予定価格を超過した)場合に行う手続きです。原則として、その場(開札の場)で、直ちに同じ入札参加者によって行われます。要件を変えることはできません。
再度公告入札(予算決算及び会計令 第92条)
入札参加者がいなかった場合、あるいは再度入札を行っても落札者が決まらなかった場合に、改めて入札公告からやり直す手続きです。この場合、当初の仕様書や予定価格を見直すことになります。
民間サイトでは、「入札が不調なら再入札すればよい」といった安易な記述が散見されますが、実務では「再度入札」には回数制限(通常は3回まで)があり、それを超えて漫然と繰り返すことは許されません。また、再度入札を行うべき場面で誤って入札を打ち切ったり、逆に再度入札公告すべき場面で安易に随意契約に移行したりすることは、外部から厳しく指摘されるポイントです。
「公平性」と「営業活動」の混同
また、民間サイトのアドバイスには「担当者に足繁く通って顔を覚えてもらおう」「仕様書作成の段階で食い込もう」といった営業テクニックが書かれていることがあります。
これを受注者側の努力として読む分には構いませんが、発注者である職員がこれを「通常の手続き」として受け入れてしまうと、「癒着」や「公平性の欠如」とみなされる危険性があります。
官公庁の会計実務では、特定の業者に有利な情報を漏らしたり、仕様書作成を特定の業者に丸投げしたりすることは厳禁です。最悪の場合「逮捕」され、家族を巻き込み、人生が台無しになります。民間サイトの「常識」は、官公庁の「非常識(あるいは違法行為)」になり得ることを常に意識しておく必要があります。
実務の根拠となる「会計法令」の構造を理解する
では、私たちは何を信じて業務を行えばよいのでしょうか。答えは一つ、「一次情報である法令と規則」です。
先輩からの引継書や「例年通り」という慣習も大切ですが、それらが現在の法令に適合しているとは限りません。必ず根拠法令に立ち返る癖をつけることが、自分自身を守ることにつながります。
会計法と地方自治法の違い
まず、自分が所属している組織がどの法令に基づいているかを明確にしましょう。
国の機関(省庁・出先機関など)
「財政法」および「会計法」が基本となります。さらに、詳細な手続きは「予算決算及び会計令(予決令)」に規定されています。
地方公共団体(都道府県・市町村)
「地方自治法」が基本となります。詳細は「地方自治法施行令」および各自治体の「財務規則(会計規則)など」に定められています。
これらは似て非なるものです。例えば、指名競争契約の判断方法や随意契約の限度額などは、国と地方で異なる場合があります。インターネットで検索して見つけた条文が、実は地方自治法のもので、自分が担当する国の業務には適用できない(あるいはその逆)というケースも多々あります。必ず条文の「見出し」を確認し、適用対象をチェックしてください。
契約方式の原則は「一般競争入札」
会計実務において最も重要な原則の一つが、「契約方式」の考え方です。
会計法第29条の3第1項や地方自治法第234条第2項では、契約は原則として「一般競争入札」による方法で行わなければならないと定めています。
これは、広く門戸を開放し、競争原理を働かせることで、最も有利な条件(多くの場合は最低価格)で契約を結ぶためです。また、特定の業者を排除しないという「機会均等」の理念も含まれています。
「指名競争入札」や「随意契約」は、あくまで法令で定められた特定の条件に該当する場合にのみ許される「例外」の手続きです。
民間企業の感覚では「信頼できるいつもの業者に頼む(随意契約)」のが効率的で当たり前かもしれませんが、官公庁ではその「効率」よりも「公平性・透明性」が優先されます。
なぜ随意契約にするのか、なぜ指名競争にするのか。その理由を法令の条文に当てはめ、決裁文書(伺い文)で論理的に説明できなければなりません。「時間がなかったから」「面倒だから」という理由は通用しません。
2025年(令和7年)4月1日施行!最新の法令改正ポイント
会計実務は生き物であり、法令は社会情勢に合わせて改正されます。
古い書籍やマニュアル、更新が止まっているWEBサイトの情報を使用していると、致命的なミスにつながります。
特に重要なのが、2025年(令和7年)4月1日から施行された法令改正です。物価高騰や業務の効率化を背景に、随意契約や契約書作成省略の基準額が大幅に引き上げられました。
ここでは、国(予算決算及び会計令)および地方自治体(地方自治法施行令)における改正の要点を整理します。これらの数値は、実務において頻繁に使用するものですので、必ず最新のものを頭に入れておきましょう。
随意契約(少額随契)ができる上限額の引き上げ
競争入札を行わず、特定の業者を選んで契約できる「少額随意契約」の上限額が引き上げられました。これにより、見積もり合わせ等の簡易な手続きで処理できる案件の範囲が広がっています。
【予算決算及び会計令(国)】および【地方自治法施行令(都道府県・指定都市)】の改正※()内は旧基準額です。
工事、製造契約
400万円以下(旧:250万円以下)
財産の購入契約
300万円以下(旧:160万円以下)
物件の借入れ契約
150万円以下(旧:80万円以下)
財産の売り払い契約
100万円以下(旧:50万円以下)
物件の貸付け契約
50万円以下(旧:30万円以下)
その他 役務契約(修繕・運送・業務委託など)
200万円以下(旧:100万円以下)
特に「財産の購入」が160万円から300万円に、「役務契約」が100万円から200万円に引き上げられたことは、日々の物品調達や保守委託において非常に大きな影響があります。これまで入札に付していた案件も、この金額以下であれば随意契約(見積もり合わせ)での処理が可能になります。
指名競争入札ができる上限額の引き上げ
国の場合は、一般競争入札の例外である「指名競争入札」が可能な基準額も変更されています。
【予算決算及び会計令(国)】の改正
※()内は旧基準額です。
工事、製造契約
800万円以下(旧:500万円以下)
財産の購入契約
500万円以下(旧:300万円以下)
物件の借入れ契約
300万円以下(旧:160万円以下)
役務契約
350万円以下(旧:200万円以下)
契約書の作成を省略できる金額の変更
契約手続きの迅速化のため、契約書の作成を省略し、請書(うけしょ)等で代用できる範囲も拡大しました。
【契約書の作成を省略できる場合】
※()内は旧基準額です。
国内での契約
250万円以下(旧:150万円以下)
この改正により、150万円超~250万円以下の契約について、従来は契約書の取り交わし(および高額な収入印紙)が必要でしたが、省略が可能になっています。ただし、省略が可能といっても「口頭でよい」という意味ではありません。後日の紛争を防ぐため、請書を提出してもらいます。
実務で役立つ「見積書」の正しい取り扱い
法令の知識と並んで、実務担当者が日常的に悩むのが「見積書」の扱いです。ここにも、民間サイトの知識では対応できない官公庁特有のルールが存在します。
「参考見積書」と「見積書」の決定的な違い
業者から入手する見積書には、大きく分けて二つの性質があります。これを混同することは、予算要求や契約手続きにおけるミスの元凶です。
参考見積書(予算見積もり)
時期: 予算要求の段階
目的: 事業に必要な予算額を確保するため。
法的性質: あくまで市場価格の参考であり、契約の申し込みではありません。
注意点: 実際に契約する時期とはタイムラグがあるため、物価変動や仕様変更の可能性を考慮する必要があります。また、参考見積もりを依頼した業者に、実際の契約を発注しなければならない義務はありません。
見積書(本見積もり・執行見積もり)
時期: 契約締結の直前
目的: 契約の相手方や金額を決定するため(随意契約の見積もり合わせなど)。
法的性質: 民法上の「契約の申し込み」に相当します。
注意点: ここで提示された金額が、採用されればそのまま契約金額となります。日付、宛名、有効期限、押印(電子印含む)などが法的に有効な形式であるか厳格なチェックが必要です。
「参考見積書」をもらった業者に、そのまま発注してしまうのは典型的なNG行為です。参考見積もりはあくまで予算確保のための資料であり、契約の相手方を決定するプロセス(入札や見積もり合わせ)は、改めて公平に行わなければなりません。
孤立しがちな会計担当者が身を守るために
「前任者からの引き継ぎがほとんどなかった」
「上司に聞いても『昔からこうしている』としか言われない」
「周りに相談できる詳しい人がいない」
これらは、多くの自治体や官公庁の経理担当者が抱える共通の悩みです。そして、その孤独感につけ込むように、不正確な情報や安易な解決策を提示するWEBサイトが多数存在します。
「会計検査」を過度に恐れないために
「会計検査院が来る」と聞くと、犯罪者の取り調べを受けるような恐怖を感じるかもしれません。しかし、会計法令に基づいた適正な事務処理を行い、そのプロセスを文書(決裁書、徴取書、選定理由書など)に残していれば、恐れることはありません。
調査官が見ているのは、「結果」だけでなく「プロセス」です。
「なぜこの業者を選んだのか」
「なぜこの金額が妥当だと判断したのか」
「なぜ随意契約にしたのか」
これらを、民間サイトの受け売りではなく、法令の条文に基づいて説明できる書類が整っていれば、たとえ指摘を受けたとしても、それは事務改善のための建設的な議論になります。
正確な情報源を持つことの重要性
日々の業務で不明点が出たときは、Google検索で上位に出てくるキュレーションサイトや民間企業のコラムをクリックする前に、以下の方法で調べる習慣をつけましょう。
法令データ提供システム(e-Gov)で条文を直接確認する。
所属する組織の「財務規則」「会計事務規則」の手引きや運用通知を読む。
国や自治体が公式に発行している「通知」を参照する。
また、書籍を購入する際も、単なる「入札攻略本」ではなく、実務経験豊富な公務員OBが執筆した、法令解釈に重点を置いた実務書を選ぶことをお勧めします。
官公庁の会計実務は、税金という公金を預かる責任の重い仕事です。だからこそ、その判断基準は「誰かの意見」ではなく、「揺るぎない法令」でなければなりません。
根拠法令が記載していない、不正確な情報に流されることなく、正しい知識を武器に、自信を持って業務に取り組んでください。それが、あなた自身と、あなたの組織を守る唯一の道です。


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