世界中に広がりパンデミックになった新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、官公庁の契約手続きについてもさまざまな対策が通知されました。新型コロナウイルスの影響による契約の変更は、自然災害と同じ不可抗力であることが通知されています。
新型コロナウイルスの感染による契約の中止
2019年12月に、中国湖北省武漢市で原因不明の肺炎患者が確認されました。その後、中国の武漢市が封鎖され、新型コロナウイルスによる感染が世界中に広まりました。日本でも2020年1月16日に、初めて新型コロナウイルスの感染者が確認されています。
2020年1月29日にはマスクやアルコール消毒液が店頭から消えました。2020年2月26日、総理から大規模イベントの中止要請があり、2月27日には小中高校の休校が要請されました。感染者が多い北海道では、2月28日に北海道知事が緊急事態宣言を発出しています。
2020年3月3日現在、新型コロナウイルスの治療薬やワクチンがありません。そのため感染拡大を抑えるには、外出を控えるしかありません。感染の疑いがあれば、2週間の自宅待機になります。
すでに工事を施工する会社の従業員が感染した事例も発生しています。
国土交通省では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に向けた工事及び業務の一時中止措置等についてが、2020年2月27日に通知されました。
国土交通省、新型コロナウイルスは不可抗力と同じ
2020年2月27日付の国土交通省通知、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に向けた工事及び業務の一時中止措置等について、の主な内容は次のとおりです。
受注者の感染拡大防止の意向を尊重すること。
工事又は業務の一時中止や工期又は履行期間の延長の意向を確認すること。
申し出がある場合には、受注者の責めに帰すことができないものとして一時中止(3月15日まで)や設計図書等の変更を行うこと。
小中高の休校により、業務従事者が子供の世話をしなければならないこともあります。また中国からの輸入が制限され、物資等が不足することも考えられます。業務従事者が感染すれば自宅待機になり、周りの人たちも濃厚接触者として自宅待機になります。業務従事者が不足したり、物資が不足して工事などが不可能になるケースが生じます。
このような場合に、通知では天災等の不可抗力と同じように、受注者に責任がないことを明確にしています。
契約内容によって判断することになるので、事前に契約担当者への相談は必須です。
休校による影響も対象・・広く解釈
最初に、新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた今回の措置は、休校に伴う子供の面倒を見ることも含まれています。通常の契約では考慮できない内容でも広く対象として解釈しています。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に向けた工事及び業務の一時中止措置等の解釈について
国土交通省 令和2年2月28日付通知
・・子どもが通う学校の休校等に伴い、工事従事者又は業務従事者が子どもの面倒を見る必要が生じた結果、工事等の一時中止等を行う必要がある場合を含むものとする。・・
国土交通省 契約書等の解釈
さまざまな契約書がありますが、主なものを解説します。
工事請負契約書の制定について
平成7年6月30日付け建設省厚契発第25号
別冊工事請負契約書、第19条、第20条
甲=発注者側の官公庁、乙=受注会社
(設計図書の変更)
第19条 甲は、前条第4項の規定によるほか、必要があると認めるときは、設計図書の変更内容を乙に通知して、設計図書を変更することができる。
この場合において、甲は、必要があると認められるときは工期若しくは請負代金額を変更し、又は乙に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担しなければならない。
第19条では、官公庁側の判断で契約内容を変更する規定です。受注会社に損害が発生したときは、官公庁側が費用負担することを明記しています。(ただし全額でない可能性はあります。)
(工事の中止)
第20条 (略)暴風、豪雨、洪水、高潮、地震、地すべり、落盤、火災、騒乱、暴動その他の自然的又は人為的な事象(以下「天災等」という。)であって乙の責に帰すことができないものにより工事目的物等に損害を生じ若しくは工事現場の状態が変動したため、乙が工事を施工できないと認められるときは、甲は、工事の中止内容を直ちに乙に通知して、工事の全部又は一部の施工を一時中止させなければならない。
2 甲は、前項の規定によるほか、必要があると認めるときは、工事の中止内容を乙に通知して、工事の全部又は一部の施工を一時中止させることができる。
3 甲は、前2項の規定により工事の施工を一時中止させた場合において、必要があると認められるときは工期若しくは請負代金額を変更し、又は乙が工事の続行に備え工事現場を維持し若しくは労働者、建設機械器具等を保持するための費用その他の工事の施工の一時中止に伴う増加費用を必要とし若しくは乙に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担しなければならない。
今回の新型コロナウイルスの感染拡大防止措置は、上記の第20条で例示している天災等に該当します。いわゆる不可抗力として、乙の責に帰すことができないものと判断しています。つまり、一時中止や工期の延期は、受注者には責任がありません。さらに、工事等を実施するために費用が増加したときは費用負担することを明記しています。ただし費用負担は全額でないこともあります。予算の状況に応じて、必要な範囲で負担することになります。
ただ、感染の拡大防止が最優先のため、無理に仕事をしない・させないという基本スタンスになります。
中小企業・小規模事業者向けの対策
中小企業庁は、次の内容を2020年3月3日に通知しました。
経済産業省の該当ページ
「新型コロナウイルス感染症の影響を受けている中小企業・小規模事業者に対する官公需における配慮について、各府省や都道府県等に要請しました」
主な内容は、次のとおりです。
中小企業・小規模事業者に対して、特段の配慮を要請しています。
(1)柔軟な納期・工期の設定・変更及び迅速な支払
(2)適切な予定価格の見直し
わかりやすく解説します。
柔軟な納期・工期の設定・変更及び迅速な支払
2020年3月10日現在、まもなく年度末を迎えます。多くの官公庁は単年度予算のため、通常なら3月31日の年度末までに契約を完了させなければなりません。納入期限や完了期限を3月後半に設定した契約も多いはずです。通常であれば、期限に遅れれば契約違反になり損害金を支払わなければなりません。
今回の通知では、新型コロナウイルス感染症の影響によって、納期や工期が遅れそうな場合には、特段の配慮をして、翌年度へ納期等を延長することを求めています。これは上記の国土交通省の通知と同じように、自然災害等の不可抗力として、受注者には責任がありません。無理な契約をしないことを求めています。
また、売上減少なども想定されているので、代金の支払は速やかに行うよう求めています。
適切な予定価格の見直し
新型コロナウイルス感染症の拡大により、2020年3月10日現在、世界中で入出国が規制されています。輸入や輸出に影響が出ています。また日本国内でも感染者が発生し、2週間の自宅待機などが多数発生しています。部品や商品の供給、輸送などに影響が出ています。
原材料費や輸送費等が、新型コロナウイルス感染症の影響により契約時の価格に比べて高騰したときは、予定価格を見直し、契約金額を変更することを要請しています。契約締結後であっても予定価格を見直しするよう求めています。
一刻も早く、新型コロナウイルスの感染拡大が終息することを祈ります。
コメント